第24話

 ダンジョン。

 一陣の圧倒的な暴力が通ったダンジョン。


「駄目でしたか……まぁ、相手が勇者であれば負けたのも納得ですが」


 そんなダンジョンを白衣を着た男が歩く。


「ぐるる……」

 

 ダンジョンを徘徊する魔物は……白衣の男に襲いかかることはない。


「流石は勇者。─────の──ではあると言うことですか。出来れば彼女は私たちの手の中に置いておきたいのですが……全く。忌々しい存在です……」

 

 白衣の男は苛立たせながら歩く。

 彼の頭によぎるのは正体不明の……漆黒の男だ。

 絶対的な力でもって動く……目的もその正体も謎な男だ。

 

 白衣の男が所属している組織が勇者を自分たちの手元に置くために派遣した戦力、人員はあの漆黒の男によって倒され、用意し続けている様々な道具、場所があの男に破壊されていた。


「一体何が目的なのだ……」

 

 件の男が何も知らず、ただ雰囲気でそれっぽいことを適当にやっているなんて思い浮かばない白衣の男は考えても仕方ない、絶対に答えへとたどり着かない問いを考え続ける。


「それに、あれは既に力を一部……暴走という形ではあるものの使い始めているようですし……もっと美しく、もっと効率的で、もっと効果的な策を考えねば」

 

 一人。

 ずっと一人で喋り続けていた白衣の男はたった一つの場所にたどり着く。

 白衣の男の足元にいるのは本来であれば倒された後、ダンジョンに吸収されてなくなってしまう魔物の死体。

 この階層に出現するスタンダードな犬の魔物とは違う、おぞましい犬の魔物。

 それの前で白衣の男は止まる。


「うむ……寸ともうんとも言わない。やはりただの失敗作か」 

 

 しばし改造された犬の魔物を眺めていた白衣の男はそれから視線をが外した。

 既にその興味を失った言わんばかりに。


「全ては我らが御方のために」

 

 白衣の男は消える。

 溶けたかのように。雪のように。露のように。

 まるで最初から居なかったように。


 ギチ……。

 

 ギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチ

 

 男が居なくなる。

 謎のよくわからない大量の動く眼球を残して。

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