ダンジョン出来た世界で、世界最強の僕は陰の実力者ごっこをして遊びたい!……遊んでいたらなんか勝手に勘違いされて世界最強のラスボス扱いされているんだが!?
リヒト
プロローグ
「くくく……勇者ともあろう者が情けないものだなであるなぁ……ん?」
冷たく、体温を容赦なく奪っていく雨。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
そんな雨の下。
一人の少女が剣を握り、息も絶え絶えの様相で立っていた。
本来であれば美しい輝きを放っているであろう腰まで伸びた美しい金髪は泥に塗れ、白いきれいな肌は雨でも拭いきれぬほどの紅に染まっている。
しかし、そんな汚れた状態であっても青い光を放つ美しい碧眼は強い意思を持っている。
「くくく……」
そんな少女の前に立っているのは一人の……怪物のような男。
鋼鉄のような黒い肌に、赤黒い瞳を、狂気の色を宿した禍々しい瞳を持った身長の高い男。
ここまでなら普通の人間、怖い人間だ。
しかし、何よりも特徴的で、化け物たらしめているのはその右腕。
悪魔のように禍々しく、肥大化している。その手はおよそ人間のものとは思えない。
「しかし、ここまでやるとは……。流石は勇者と呼ばれるだけのことはある。ここで殺すことができて良かった」
男は不敵な笑みを浮かべながらゆっくりと一歩。
足を踏み出す。
「くっ……」
それに対して少女は息を呑み、足を一歩退かせる。
額から一筋の汗が流れる。
少女は既に満身創痍。これ以上戦い続けるのは厳しい、そんな状況だろう。
「だが、そろそろ終わりであるな」
男は自らの右腕を持ち上げて、ゆっくりと歩みだす。
「舐めるなッ!」
少女は叫ぶ。
あらん限りの声量で。
少女と男の戦いが始まってから早いことでもう1時間。
圧倒的な力を持っている男を前に少女は厳しい戦いを強いられていた。
「ハァ!!!」
少女は泥濘む大地を蹴り、ゆっくりと距離を詰めてくる男との距離を一気に詰める。
「くくく……」
男は少女の振るう剣を容易くその右腕で防ぎ、笑みを浮かべていた。
■■■■■
場所は代わり……その上。
二人が激突しているその戦いの場近くに建てられている廃墟の屋上。
そこに絶望的な戦いを繰り広げている少女を眺める怪しげな人影が一つ……存在していた。
「ふーん。面白そうな奴が要るじゃないか」
意味ありげにその場に立ち、主人公の戦いを見守る一つの影。
主人公と敵の重要な戦いを見守っている謎のキャラ。
よくバトル漫画とかにあるようなワンシーン。
その目的は。その正体は。
何もかもが不明のキャラ。
その人影は己の最高の味方となるのか……それとも敵として立ちふさがるのか、中立なのか……最終話にのみ最大にして最後の壁となるのか。
読者を考察させ、楽しませくれる……そんなキャラ。
では、今。
そんな正体不明のキャラのように戦闘を見下ろしている人影にはどんな目的が……何か重要な目的があるのだろうか?
答えは否。
否、否、否であるッ!!!
人影が、彼が、その少年がいる理由は、目的はただ唯一ッ!!!
趣味であるッ!!!
少年はこうして意味深に立って、カッコつけたいのだッ!
陰の実力者ムーブをして気持ちよくなりたいのだッ!
わざわざ自分という存在に気づいてもらうため……気配を隠さないで存在感をアピールしているのだッ!
少女に自分という存在を……少女を見守っている存在に自分という存在をチラチラとアピールし続けているのであるッ!
意味不明ッ!実に意味不明であるッ!!!
これは正義のヒーロでも、悪役でも、黒幕でもない。
これは、趣味で正体不明の陰の実力者ごっこ(洒落にならない)をやっている少年のお話である。
「ふむ……これ、何が起きているんだろうか?」
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