似たもの同士トライアングル

望月 星都 ‐もちづき せと‐

似たもの同士トライアングル


「あのさ、日和…俺、好きな人がいて…その…相談に乗ってくれないか?」


そう言う彼─充の顔は真っ赤。今まさに告白しているかのように。

放課後。夕日が差し込む教室という“エモい”という言葉がとても似合う雰囲気だ。


「えっ、アンタ好きな人いたの?知らなかったわ〜」

…知っているけど。

「で、誰なの?」

…誰かも知っているけど。

「いや…それは…」

「え〜?相談したいって言っときながら誰かは言わないの〜?」


ニヤニヤとからかうように笑う反面、頭の中は空っぽに等しかった。


アタシは知っている。充の好きな人はアタシの親友、そしてアタシ達共通の幼馴染である、つぐみだということを。


アタシ達は幼稚園の頃からずっと一緒だった。家が近く、幼い頃は毎日のように遊んだり、互いの家に泊まったりしていた。だから、隠し事なんてほとんどない。あったとしても、様子の変化に気づくからだ。

ただひとつだけ、アタシが2人に秘密にしていることがあった。


それは──ずっと一緒に過ごすうちに、いつの間にか充のことを好きになってしまったこと。


成長するにつれてアタシの背を追い抜いていき、声が低くなり、どんどん大人っぽくなっていく充を見ていくうちに気づいたら好きになっていた。昔から変わらないその笑顔、仕草、口癖。全部が愛おしく感じた。


でもその想いは虚しく、見ていくうちにだんだんと彼の想いにも気づいてしまった。ぼーっとしている時はだいたいつぐみの方を見ていたから。

そんなの、嫌でも気づくわ。


「…まあ、頑張れ。応援してる」 

「えっ、ちょっとそれだけ!?」

そう言って充は慌ててアタシの袖を引っ張る。

「はぁ?じゃあアタシに何をしろって言うのよ」

アタシが聞くと充は少し溜めてこう言った。

「…その人と、もっと近づきたいって言うか…だから、近づくにはどうしたらいいのか…」

「そんなのさっさと2人っきりでどっか出かければいいんじゃないの?デートよ、デート」

「デッ…!?」

驚く充を見てこんな時でも少し可愛いと思ってしまう自分がいた。

そういえば今まで充とつぐみが2人っきりで出かけたことはほとんどなかったな。それはもちろんアタシも同じで、本当にいつも3人一緒だったんだなと改めて思う。


「そっ…か。じゃあさ、日和ならどこに連れて行ってもらいたい?」

「アタシ…!?え、アタシなら…水族館とか?やっぱり定番じゃない?」

「水族館…か。なるほど。じゃあ…水族館にしようかな…」

そういう充は決意を固めたかのような表情をしていた。そんな充を見てアタシは泣きそうになる。


「うん、そうしな。そんで、絶対付き合いなさいよ!!」 

気づいたらアタシはこう叫んでいた。

「えっ!?まだ気が早くない!?」


「遅かれ早かれ付き合いたいと思ってるならアタシは応援するから。いつか必ず告白して、絶対付き合え!じゃあアタシ先に帰るから!また明日!」


これ以上何を言ったら分からなくて、逃げるように教室を出た。

これでいいんだ。望みのない恋ならばいっそ、アタシはアンタらのキューピットになってやる。好きな人には…いや、好きな人達には、絶対に幸せになって欲しいから。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


日和が先に帰ってから、俺は考えた。

デート…か。俺がデートだと思って誘ったとて、相手は絶対にデートだと思わない。絶対に。


俺の好きな人は、つぐみ…俺の幼馴染だ。

きっとデートに誘ったとしても「じゃあ日和も誘おうよ!」と言うはずだ。

たとえ何か理由をつけて2人で出かけたとしても、つぐみが俺の事を恋として好きでない限り、デートだとは絶対に思わない。


「誘ってみようかな」とは言ったものの、一体どうしたらいいのか…。


ふと俺はつぐみとのメッセージ履歴を見た。

今にも声が聞こえてきそうなつぐみの文面を見て、思わず口元が緩む。どんどん遡って見ていると、とある文面が目に止まった。


[そうだ!ねえ、充。もし恋人が出来たら初デートはどこに行きたい?]


恋バナでもしていたのだろうか。日付は…去年の10月だった。

大抵のことは日和とつぐみと俺の3人のグループチャットで連絡をとっていたから、まさか2人だけでこんな話をしていたとは思わなかった。

少し上を見ると、どうやら日和へのバースデーサプライズを計画していた時に話したようだった。


[それにしても、日和はいい子だよね〜]

[急にどうしたんだよ笑]

[いや〜なんかずっと一緒にいたから気づかなかったけど、ふと“真島日和”って名前を聞いた時に思い浮かぶのは、本当に人間として尊敬できるところしか浮かばないからさ。あ、あと少し天然で抜けてるところ!]

[ベタ褒めか!…まあでもアイツは良い奴だよな。誰にでも分け隔てなく優しいし]

[そうだね。私、そういう日和が大好き]

[それ日和が聞いたら顔真っ赤にして「恥ずかしい!!」つってバシバシつぐみのこと叩きそうだな]

[愛のムチ?]

[ちょっと違くね?]

[そうかな?まあでも、そんな日和だからさぞかし素敵な人と一緒になるんだろうね]

[そうだろうな。一番最初に結婚しそう]

[それはわかる!]

[実際のところどうなるかはわからないけど、まあ幸せになって欲しいよな]

[それなら、私は日和にはもちろん幸せになって欲しいけど、充にも幸せになって欲しいよ]

[それなら俺だってお前ら2人に幸せになって欲しいさ]

[…なんからしくないこと言っちゃったね…ちょっと恥ずかしくなってきた]

[つぐみが始めたんだろ]

[あれー?そうだったけー?]

[とぼけるな!]

[ごめんごめん笑]


そこまで読んだところで一番最初に目に止まったメッセージまで戻った。

そういえばこんな話したっけな。懐かしい。


あの時は“幸せになって欲しい”って言ったけど、本心は俺が幸せにしたい。付き合うのは気が早いって日和に怒った俺だが、本当は…結婚したいと思う程つぐみが好きだった。


俺は覚悟を決め、教室を出た。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


放課後。

文芸部で使うものを忘れたことに部室近くの図書室辺りまで来たところで気づき引き返した。

まだ校舎に残っている生徒の話し声が他の教室を通り過ぎる度に聞こえる。自分の教室に着くまでに聞き覚えのある話し声が聞こえ、立ち止まる。聞き間違えるはずがない、幼馴染の日和と充の声だ。

バレないように中を覗き見る。


「………どこに連れて行ってもらいたい?」

「私…!?え、私なら…水族館とか?やっぱり定番じゃない?」

少し顔を赤くした日和が驚いたように声を上げる。

「水族館…か。なるほど。じゃあ…水族館にしようかな…」

照れたように充もまた頬を赤く染めた。


しばらく3人で出かける予定は立てていなかった。いつもなら出かける予定は3人がいる時にみんなで話し合ってきたが、私抜きで話が進められている。そして、2人して顔を赤らめて話して──

私は急いでその場を離れた。


自分の教室に着いた私は、忘れ物のことなどすっかり忘れていた。

さっきこの目で見た光景が衝撃的で、頭から離れない。

1番いやなことが思いついてしまった。


…2人は付き合っているのだろうか…と。


もしそうだとしたら、私はどうして今まで2人の関係に気づけなかったのだろうか。


私は情けなくもひとり涙を零した。

まだ事実かどうかもわからないけれど、どうしてか涙が溢れて仕方なかった。


私は─日和のことが好きだった。


ずっとずっと好きだった。


この恋は叶わないって分かってたけど、どうしても好きだった。

だから、日和には絶対幸せになって欲しい。

絶対に。


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望みがなくてもアタシは充が─


好きだと思って貰えてなくても俺はつぐみが─


叶わないと分かっていても私は日和が─




好きで好きで仕方ないんだ。








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