第6話 星猫編 二人の天才⑤
「マスター、開始の合図をお願いします」
テレサに言われ、私とリアちゃんは後方に下がる。そして開始の合図を放つ。
「行くぜヘレン!」
「うん!」
ソーマが前、ヘレンが後ろに構えた。
そのソーマにルクスさんが突進。
「借りるぜヘレン!攻撃的防御だ!」
突進するルクスさんの前に防壁が現れる。
「あれがソーマの?」
「そうです。触れたり攻撃したりすれば、爆裂魔法が発動し、直撃は避けられない『攻撃的防御』です」
サリーさんの解説は、その技の特徴と欠点も的確に示していた。
「あっ!汚ねーぜ!」
ソーマが叫んだ。ソーマの張った防壁を、サイドステップ交わしたルクスは、ソーマに直進する。
「チッ!なら直前に張るまでだ!」
ルクスがソーマに迫り、剣を振りかぶる。ソーマは自分の前に防壁を展開した。
「触れなければ発動しません。ソーマはヘレンの『局部的爆裂』と違い、任意での爆裂魔法の発動が出来ない上、一度張った防壁は30秒間解除できません。同時に2つまでしか使えない彼は、もうヘレンを守れません」
振り上げた剣を振り下ろすことなく、ルクスは横に飛ぶとヘレンの首元に剣を置いた。
「私の勝ですね」
ギムに勝った天才児たちは、まさかの完敗だった。
「汚いぜ!避けるなんてよ!」
ソーマが言うが、ルクスは微笑みながら返した。
「私たちは教師です。いつまでも生徒に負けているわけにはいきませんよ」
剣を下ろし、鞘に納めるルクスさんは続けた。
「聞きなさい。あなた達にとって初の黒星。この黒星は、私たち教師からの手向けです。
己の技を信じ、技を磨く努力を忘れず、技と共に生きて行くのです。これが、教師ルクスとしての最後の教えです」
『最後の教え』その言葉の重みに、10歳の少年少女は少し驚きを見せた。
「どんな時も自分や仲間を信じ、決してあきらめず、生きて帰る。どんなに傷ついても、みじめでも、這いつくばってでも、生きて帰ってくる。それが良い冒険者です。私は、理事長の最初の教えを最後の教えとしますね」
サリーさんの言葉は、テレサが初めての授業で生徒たちに教えてことだ。
「サリー先生・・・」
「最後って・・・・」
困惑する2人にテレサが言う。
「12歳以下でも冒険者となれる特例を、ゴルノバ王から頂いています。ソーマ、ヘレン、おめでとう。卒業です。今日までよく頑張りました。あなた達が、私たちの生徒であったことを、誇りに思います。これからはスノープリンセスの一員です」
「俺たちが卒業・・・?」
「今日は顔合わせ・・だと聞いて・・・」
本人たちには、私との顔合わせと伝えてあった。
「本当に・・俺たち、スノーの一員に?」
「テ、テレサ理事長!」
喜びに呆然とするソーマと、テレサに抱き付き泣き出すヘレン。
父の所属するギルド、スノープリンセスへ冒険者としてではなく、戦闘系職員として入ることを夢見ていた少年少女の夢が叶う。
テレサに抱き付き泣くヘレンに続き、ソーマもルクスさん、サリーさんと抱き合い泣きじゃくる。
信頼し、絆で結ばれた教師と生徒。生徒は今、巣立ちの時を迎えた。
「ようこそ、スノープリンセスへ。ソーマ、ヘレン、歓迎するよ」
私の言葉に2人は振り返る。指で涙を払うヘレンと、袖で涙を拭くソーマ。
「よろしくだぜ!雪姫!」「よろしくお願いします」
直立不動からの礼。
「うん!よろしく!」
「よろしくお願いしますね」
私とリアちゃんも笑顔だった。
「やったなヘレン。あと1年以上は待つと思っていたぜ」
「うんうん。ゴルノバ国王にはお礼を言わないとね」
喜び合う2人。
「マスター、お任せします。どうか2人をお願いします」
テレサも思淹れが強いのだろう。うるんだ瞳は、2人の卒業を惜しむ目だった。
「1つ夢が叶ったな。次は雪姫だな」
「うん。軽く抜いちゃうから期待しててね」
聞こえてる。まぁ負けることを知らない子供が、天高く手を伸ばすのは良いことだ。
だが、現実を教えるのが大人の役目でもある。いきなり私をご氏名とは良い度胸だ。
「負けないよ。私はスノープリンセスのギルドマスターだ。力のある若者相手でも、簡単に負けていい立場じゃないんでね」
その挑戦、受けて立ってやる!
「え?いや・・半年もあれば抜けると思うぜ」
「うん。雪姫マスターとリアさんなら、3カ月でいけるかもですよ」
なんだとぉ?随分と舐められ・・・リアちゃん?
「ヘレンの最終目標は、テレサ理事長のメーター越えだからな」
「申し訳ありませんが成長期なので、それほど時間は・・・」
胸の話だったのかよ!
「っていうか、夫婦の会話に割り込まれてもな」
「うん。標高3㎝で、負けていい立場じゃないって、無謀すぎると思います」
夫婦だったぁ!!!そしてなんだ標高って!前人未踏だぞ!誰にも登頂を許していない身だぞ!霊峰なんだ!聖なんだ!
「ヘレン、おっきくなろうな」
「うん。ソーマの好みに合うように頑張るね」
・・・こいつらも、一筋縄じゃ行かない気がしてきたよ。
なんか疲れた。とりあえずギルドに戻った。
ソーマとヘレンを連れて。
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