第3話 星猫編 二人の天才②
「雪姫さん!」「あら、雪姫さん」
玉座の間に行くと、立ち上がり礼をするミサさんと、笑顔で座ったままで手を振るサキさんが来ていた。
鬼族との戦いで、世界に貢献したサキさんとミサさんは、世界に受け入れられた。
サキさんは、ルーラン国軍の指揮官を任され、軍服を着てゴルノバ王と話している。
ミサさんも迷い人の村の管理者として、今では世界の要人の一人だが、比較的普通の洋服のままでの謁見。
ミサキさんのクローンとして生まれた二人だが、時間とともに性格などにも、個性が現れるようになっていた。
「よお没落姫。暇そうだな」
ゴルノバ王の手厳しい一言と、座れと手で椅子を勧められた。
「えっと、ミサさんやサキさんが居るという事は、何かあったのかな?」
仕事の臭いだ。
「いえ、今日は単なる報告です」
「村の管理状態についてのね」
くそ!鼻が鈍っか?
「なんだ、仕事が欲しくて来たのか?」
当然見透かされている訳で。
「えへへ・・・まぁ、あればいいかな?って、かな?」
最近、誤魔化し笑いがうまくなる私は、エヘラエヘラ笑いながら答えた。
「切れの良さが、お前の良さだったんだがなぁ」
目の前で露骨にがっかりされたぁ!
「仕事はない。ここのところ平和でな。兵士もギムの指南でレベルが上がり、魔物の討伐もギルドに頼ることなく行えている」
ギムのバカ野郎!そんなところでも、足引っ張りやがっていたのか?
「苦しいのね?分かる分かる。お金がないと荒むものね」
憐みの顔でサキさんが言うと。ミサさんが手を上げ侍女を呼ぶ。
「このお菓子を包んで、差し上げてください」
私は自分でも知らず知らずのうちに、目の前に置かれたお菓子の山から少しずつ、袖の中にお菓子を運んでいた。
「哀れだな」
王の視線が痛かった。
「あら雪姫さん、来てらしたの?」
そこにステラ女王が来た。
「ども」
私の挨拶も情けなくなっていた・・。
「丁度良かったですわ」
お!仕事か?お仕事なのか?
「お帰りの際に、そこのゴミを捨てて行ってもらえます?」
ゴミ・・・?
「その依頼受けたっす・・・1Gです」
くはぁぁぁぁぁ情けなし。何が悲しくて、世界を救った英雄が1Gでゴミ出しかよ。
「哀れだな」
また言われた!!
私は受けた依頼をクリアすべく、挨拶をするとゴミを持ち、玉座の間を後にする。侍女が袖の中にお菓子の袋を入れてくれたのが、悲しかった。
「少し可哀そうすぎませんか?」
「雪姫さん、しょんぼりしていましたよ」
ミサとサキが言うと、お茶を飲みながらステラが答えた。
「良いのですわ。もうすぐ雪姫さんは、宝が手に入りますわ」
ゴルノバが続ける。
「さっきマリリンから連絡があってな。あの2人を雪姫に任せるそうだ」
『あの2人』この言葉でミサとサキは気づく。
「まだ10歳ですよ」
「早くないですか?」
あの2人を知っていた。
「マリリンは普段は只のドジっ子だが、ギルマスとしては雪姫に劣ることのない優秀な女性だ。雪姫が困っているなど考慮に入れない。冒険者として経験を積ませる時期が来た、と判断したのだろう」
「その通りですわ。本当は軍に欲しかったのですが、『何としてもスノーに行きたい』と言う2人の強い意志がありましたわ。雪姫さんに任せるべきですわね」
4人が知る『2人』とは?
「お?雪姫?なにしてんだ?」
私が裏庭に出る通路を歩いていると、ギムとマリアが居た。
「マスター、お手伝いしましょうか?」
両手に大きなゴミ袋を持つ私に、マリアが手を貸してくれた。
「ギム、ごめんね。ちょっと待っててね」
ゴミの袋を持ったマリアは、ギムに声をかけゴミ捨て場に向かった。
「雪姫」
盃を口に運ぶギムが、真面目な顔で私を呼ぶ。
「最近暇すぎないか?お前楽してるだろ」
おい!
「ほかの連中はどうした?顔見ないぞ?」
おいおい!!
って、ギムに説明しても無理か・・・。
「人手不足なんだよ。手が無くて依頼がこなせないんだ」
フムフムと聞いてはいるが、この説明も何度目だ?今回も理解するとは思えない。
「そうか。大変だな。俺に出来ることがあれば言え。手は貸す」
ギムが怖くて冒険者が逃げ、王宮兵士を強くした張本人の言葉だが、少しだけど嬉しかった。
「マスター聞いてください!」
ごみを捨てたマリアが戻り、笑顔で私の手を取る。
「ギムが新しい技を完成させたんです」
新技?敵の居ないこの時期に?
「連撃光速剣だ」
どや顔のギムだが、連撃だと?今までは光速剣は一撃だけの技。それが連撃で使えるの?
「見せてやる」
ギムは構えた。そして・・・
「ちょぇぇぇぇぇぇぇ!」
掛け声が変わっている!
ギムを中心に巻き上がる砂煙。そして狭い通路での技発動に、なんか嫌な音が聞こえてくる!
「どうだ?」
砂煙が収まると、ドヤ!った顔のギム。そして周囲の建屋は半壊の被害。
「どうですかマスター?空斬りでもこの威力ですよ」
右が3Fまで半壊だから300G・・左はほぼ全壊か・・700Gかよ。
「雪姫見たか?俺に倒せぬ敵はいなくなった」
五月蠅いな。今はそれどころじゃない。どう言い訳して値切るか?
「雪姫さん!これは!?」
「あら大変。倉庫が・・・」
駆けつけたのはミサさん、サキさん。
「ああ、すみません。うちのバカがやらかしちゃって」
当然謝る。ギムはどや顔のままだった。
「これは・・刀で切った跡ではありませんね」
剣士としても実力のあるミサさんは、一目でわかる。
「それは剣圧です。ギムの連撃光速剣は衝撃波で周囲にもダメージを与えます。凄いんです」
得意げに言うマリア。
「剣圧でこの威力ですか?凄すぎますね」
サキさんも、その言葉の意味は理解できる技量がある。
「技は確かに称賛に値する凄さですが、賠償は求めます。ここは軍の物資倉庫です。建屋2棟で1000G。中身の被害は詳しく調べますが、概ね1000程度のなるはずです」
2000だと!?中身もあったのか!!!
「雪姫、後は任せた」
任せるな!ギルド総資産の25%が吹き飛んだんだ!リアちゃんになんて説明すればいい!
私はミサさんとサキさんに請求書を送るようにお願いすると、足取り重くギルドへ戻った。
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