第2話 星猫編 二人の天才①
「では、スノープリンセス本店、営業会議を開始します」
リアちゃんの声で会議が始まる。
鬼族との戦いから、もうすぐ1年。世界は復興し平和な時が訪れていた。
私が10日間の眠りから覚めた翌日、ギルドメンバーはマックスと白姫さんの墓参りに行く。
神聖なる場所に大勢で押し掛けたが、銀姫さん曰く。
「もうここには、マックスも白姫もおらぬ。ここは2人がこの世界に居たと言う証の場所じゃ」
2人の魂は、本来行くべき場所に旅立った。
最後まで私を見守り、力を貸し、支えてくれた2人は、転生をするための場所に行ってしまった。
「じゃが悲しむことはない。長く生きておれば、また2人の魂を持つ者と出会えるのじゃ」
口では言うが、寂しいに決まっている。目から涙を流しながら銀姫さんは言う。
「あばよ、友よ。お前の忘れ形見。しっかり守るからな」
ブルックが花束を添えた。
「さらばじゃ妹よ。また来世で、わらわの妹のなるが良い」
銀姫さんも花束を添える。
「マスター、白姫様。御恩は機能が停止す時まで忘れません」
マリア。
「さようなら・・マックス!白姫さん!」
アーロン君。
「どうか、良い転生を」
ギャリソン。
「雪姫には、あたいたちがいる。何も心配いらねーぜ」
「がおがおがお」
口々に思いを込め、みんなはマックスと白姫さんに別れの言葉を告げた。
「飲め」
ギムが祭壇に酒を掛ける。
が、怒れるはずもない。ギムも別れがつらいのだ。
「ありがとう。おとうさん、おかぁさん。これからは、私は自分の力で生きていくよ。二人が守った世界を守りながらね。安心していいよ。私にはこんなに素晴らしい仲間たちが居る。何も心配いらないから」
語りだしたら三日三晩語り続けそうだった。
名残惜しいが、また来ると言葉を残し、私たちはギルドへ戻った。
氷姫さんと四聖獣は、それでも此処は清めておきたいと、2人のお墓に残る。
「雪姫、済まねーんだが、少し休暇を貰えるかな?」
言い出したのはサマンサだった。
剣の修業がしたいから、休暇が欲しいとのことで、私はOKした。
その半月後「あー俺たちもいいかな?銀がおめでたでよ」
ブルックが、ご懐妊した銀姫さんと産休を取る。
おめでたい話だから、喜んでOKを出した。
が、家事手伝いでギャリソンが同行。さらにはアーロン君も付いて行ってしまった。
その1月後。2号店が忙しくて手が足らないとのことで、トーマが2号店に移籍。
あれれ?幹部がギムとマリアしかいない、と気が付いた。
「マスター、何をぼーっとしているんですか?会議中ですよ」
物思いに更けていた私は、リアちゃんから怒られる。
が、会議と言うが、ギムとマリアは王宮に剣術指南で出ている。
会議室に居るのは、私とリアちゃんだけだ。
「リアちゃん、ボーとしてたのは謝るけどさ。会議って言っても、私とリアちゃんだけだよ」
広い会議室。見渡せど誰もいない。
「わかってます。でも会議は会議です。と言うか、現状本店は危機的状況なんですよ。打開策を打ち出さなければなりません」
そう、本店は没落中なのだ。
テレサを2号店店長とし、飛鳥さんとダイルが副店長。トーマが取られ4人が減った状態で、サマンサが修行。アーロン君がブルック、銀姫さんに同行。
幹部はギムとマリアだけとなる。
しかも飛鳥さんについている『アーミーズ』は有力冒険者集団。これが、そっくり2号店登録となる。
更には、おなじみの救援が、1/2で『ギム』が来ると言う事で、他の冒険者にも逃げられ、本店は登録冒険者が激減。ついには戦闘系クエストの依頼が受けられない事態に陥っていた。
本店に来た依頼を2号店に回す、僅かな手数料が本店収入となり、営業赤字は膨らむ一方。
暇になるにつれ、ギムとマリアも寄り付かなくなる始末。
「このまま赤字が続けば、本店が保有する8000万Gも、いずれは底をつきます。本店閉店は1年後です」
リアちゃんは大真面目な顔つきだ。
世界を2度も救ったマスターのギルドが、まさかの閉店余命1年。
「根本的な要因ははっきりしています。単なるマンパワー不足です」
その通り。だが、この単なるが厄介なのだ。
幹部を使う救援は無理でも、有力な冒険者を使う救援は可能になるが、実力のある冒険者など、簡単には育たない。
冒険者の数には限りがあり、既にそれぞれがギルド登録をしている。
引き抜きはアリだが、今のうちに来る冒険者はいない。
没落ギルドの噂は、ルーランのみならず、ラムタ世界中にまで轟いている状態なのだ。
使いたくはなかったが、背に腹は代えられない・・か。
私はある秘策を持っている。
それは冒険者学校の生徒。まだ未登録で、学校に居る18歳までの生徒は、実力もある即戦力。そこからの引き抜き。
だが、私の青田刈りに良い反応をくれないのが、共同経営のマーメードドルフイン、ギルドマスターのマリリンさんだ。
現在、猛説得中で、理事長のテレサにもプレッシャーをかけている最中だ。
学校から10人ほどの冒険者の卵を頂けば、3カ月ぐらい私が同行して鍛え上げ、使い物になるはずと踏んでいる。
「マスター今度はなんですか?薄ら笑いって、気味が悪いですよ」
おっといけない、悪だくみが薄ら笑いで出てしまった。
この計画はリアちゃんにも内緒なのだ。
青田刈りと言う反則を、ギア族は良く思わないからだ。
「と言う事で、今月の赤字は800万Gです。本当になんとかしないと、マジやばいですよ」
うんうん。リアちゃんには心配をかけてるけど、何とかするよ。
「うん。分かってる。一応手は打ってあるから、節約して乗り切ろう」
リアちゃんに笑顔が戻る。信用してくれてる証拠だ。だが、会議室以外の部屋の明かりは消され、お風呂も2日に1回制限が出され、おやつは無し。職員には迷惑が掛けられないから、私の周辺では目に見える節約が始まっていた。
「ちょっと王宮で、仕事が無いか聞いてくるよ」
ギルマス自ら御用聞き。
「はい。お願いします。1発当てて楽になりたいですね」
強い魔物でも現れれば、1発あるけど、今は平和だからね。地味なのしかないと思うな。
私は王宮へと向かう。
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