バイト先の激カワJKに二股されたら美人すぎる人妻に迫られてるんだけど、これって俺のせい!?

創つむじ

第1話 どうせ不釣り合いだって分かってたけどさ


石切いしきりさん、キス上手いですね♡」


「そ、そんなことないと思うよ? 俺初めてだし。りっちゃんが上手なんだよ、たぶん」


「あははっ、私も経験少ないですよ〜」


 

 そんなわけあるか。そうやって謙遜する子に限って、経験豊富だって相場が決まってる。

 だって俺の彼女、めちゃくちゃ可愛いもん!


 昨夜のファーストキスで胸がいっぱいだった俺は、眠りが浅くて早々はやばやと目が覚めてしまった。一日だけならまだしも、翌日もその次の日も、アラームより先に頭が覚醒してしまう。


 

「まだ9時かぁ。暇だぞこれは……」


 

 基本的に13時から22時のシフト勤務。そんなバイトで生計を立ててる俺にとって、午前中に起きても時間を持て余すだけ。

 しかし寝不足三日目のこの日はを抱き、出勤三時間前にも関わらず家を出た。駅近にある古本屋が開店した頃だから、立ち読みでもして時間を潰そうという目的が建前。本音の部分は、チャリを漕ぎながら口走っていたこれ。

 


「りっちゃんテスト期間中で午前中に終わるって言ってたし、駅前で偶然バッタリ出会えたりしたら喜ぶかな〜♪」

 


 偶然でもなんでもなく、頃合いを見て駅に向かおうという算段である。


 俺の彼女のたちばな莉珠りずちゃんは、三つ年下で高校二年生。バイト先のコンビニで何度かシフトが被り、ダメ元でデートに誘ってみたらOKされた。我ながら神の一手だったと思う。


 目論見通り正午過ぎまで漫画を読み漁って粘り、いよいよ戦地へと赴く。キスをした日以来、メッセでのやり取りしか無かったから、顔赤くなったりしたらどうしよう。

 期待と不安でドキドキしつつ、駅を出た大通りの反対側で待機してみた。あのエスカレーターを降りてきたら、ひと目で気がつく自信がある。制服姿だから尚更。


 カップル。カップル。制服が違う。あれもカップル。髪の色が違う。あれもカップ——あれぇ? 


 下校時の女子高生を視線で追跡してる途中、一瞬彼女を見逃しそうになった。だって隣には見知らぬ男子高校生の姿。友達だと信じて様子を窺ってると、通りに出てきた雰囲気が明らかにおかしい。スマホを見せ合う肩と肩がピタリと密着しており、誰がどう見ても恋人同士の絵面。


 

「えっ、えっ? なにこれどゆこと?」

 


 テンパった俺は、咄嗟にその場から撤退することに決め込んだ。さすがに浮気現場で鉢合わせは気まずい。彼女も気まずいだろうけど俺の方が気まずい。かける言葉なんて絶対に見付かりっこない。

 チャリをUターンさせて跨ると、足がもつれてガシャンと派手にけた。通行人が大勢いるし、伏せてればバレなかったかもしれない。でもとにかく逃げたい一心で、すぐに起こした自転車に乗ってコンビニに避難するのであった。

 


「えぇーーっ!? 橘さんが二股ぁっ!?」


浅間あさまさん、声デカいよ! てか凹むから復唱しないで」


「いやぁビックリだよー、フツーにお二人さん仲良さそうだったしさぁ。ねー寒川さむかわさん?」


「まぁ、僕はやめといた方がいいんじゃないかなって思ってたよ。橘さんは可愛過ぎる上にまだ若いからさ、こういうことも起きるって」


「寒川さぁーん? うちらだってお酒飲めるようになったばっかりなんですけどー? まだまだ若いよねぇ〜石切さーん?」


「うん、もうなんでもいいやー☆」


 

 シフト勤務が終わり、上がりが一緒だったバイト仲間二人とヤケ酒に来ている。一人は同い年でバンギャ系女子の浅間さん。もう一人は27歳でパッと見イケメンの寒川さん。日頃から話しやすい二人だから、人生初の彼女ができた時は、直後に相手まで報告していた。

 


「でもまぁ、三ヶ月で終わって良かったじゃない。これが年単位だったらもっとキツいよ?」


「さすが、舞台役者のイケてるメンズさんは違うっすね。俺にとっては生涯唯一の儚い夢だったかもしれないのに……」


「大丈夫だってー。石切さんにはもっといい人が見つかるよ♪」


「思ってもないこと言うもんじゃないよ。浅間さんから見たって、俺とりっちゃんじゃ不釣り合いだったでしょ?」


「そーんなこと思ってないよー。石切さんにもあるんだからさぁ〜」


「例えばどこだい? 顔も身長も中の下、半年で大学辞めて実家を追われたフリーターの俺に、なんてパッと浮かばないだろ?」


「自己評価ひっくいな〜。スポーツやってたから体は引き締まってるし、顔も悪くなくない?」


「フッ………気休め乙」


「ったく、酔っ払うと人相も人格もホント酷くなるんだから〜」


 

 俺と寒川さんは翌日もバイトだった為、愚痴るのも早めに切り上げた。


 そして迎えた朝、というか昼。

 二日酔いで頭痛に悩まされる中、時計に目を向けると、すでに12時半。慌てて顔を洗って寝癖を直し、チャチャッと着替えて使い古いたバッグを肩に掛ける。チャリで全力疾走して、なんとか5分前にはバイト先へとたどり着いた。

 店内に入ると上がりの直前だからか、世間話で盛り上がる制服姿の主婦の方々。一際目立つのは手前側にいる貴船きふね愛華まなかさん。茶髪でボブくらいの若々しい髪型もさることながら、とりあえず目鼻立ちが素晴らしい。店で一番可愛いのがりっちゃんなら、一番美人なのが貴船さんだろう。

 大人の色気がありつつ、気さくな性格なのも魅力的。俺より5歳上なだけで、人妻だもんなぁ。自分の五年後なんて想像したくもない。

 ぼけーっと眺めてたら目が合ってしまった。

 


「おっ、石切さんおはよ〜っ♪」


「おはようございます。貴船さん達は何話してたんですか?」


「えーっとねぇ、安いスーパーの話とか、夕飯の献立についてとかだよー」


「なんか主婦さんって大変っすね」


「あっはは! なにそれーっ?」

 


 頭はズキズキするのに、少し元気が出た。こういう女性と結婚できたら、きっと毎日幸せだろうな。バイト始めてまだ一ヶ月ちょいなのに、もう馴染んでるほどコミュ力高いし。

 それに比べて俺は何やってんだか。女子高生に二股かけられて落ち込んで、事情を知る人達に愚痴ってもまだ項垂うなだれて。本当に情けなくて、泣きたくなってくる。

 

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