虚の星
鳴成
邂逅
第1話 邂逅
頬がひどく冷たい。それにしっとりと濡れていた。
頭もズキズキと痛く、体の節々が悲鳴を上げている。起きようとしても体がそれを拒む。
半強制的にゆっくりと体を起こし、正座になって辺りを見渡す。灰色の分厚い壁に、鉄の檻。少し浮かせた木の板の上には白い布が置いてあり、簡易的な寝床ができていた。
見慣れた景色だった。いつもと少し違うのは、床が水で濡れているところだ。
多分屋根にひびが入り、そこから雨が漏れたんだろう。
頬が冷たく濡れているのはこの水たまりの上に倒れ込むようにうつぐせで寝ていたせいだろう。
なぜ倒れ込むように寝ていたか覚えてないが特に気にすることでもなかった。
もう一つ違う点があった。起きてすぐで脳が働いていないせいかどうかわからないが、どうも記憶が曖昧だ。
俺の隣に赤いシャツを着た男が寝ていたような気がするし、女性を抱いていたような気もする。
でもすぐに昨晩見ていた夢のことだろうと勝手に解決した。
もしくは、俺の部屋を横切る大量の人のうちの誰かが記憶の中で混ざり合ってしまっただけだ。と
今日も今日とて、小綺麗な服装をした奴らが俺たちを見定めにくる。
ゴミを見るような目で見てくる奴、何考えてるかわからない奴、鼻息を荒くしてじっと見てくる太った奴、様々な連中がここに訪れる。
前、向かいにいる女が泣き叫びながら、太った男に連れられながら出ていったことを思い出した。ここを出れるだけましだと俺は思うが。
そんな考えをしていたら、コツコツと人が歩いている音がした。もうそんな時間かと思いながら俺は正座をする。
飯はまずいし、寝ると体の節々が痛くなる。こんな所から早く出たい一心で、俺はいい子ですよと目で訴える。これで売れること間違いなし!と思っていた。
〜二時間後〜
売れなかった。この二時間の間に何人の人が通り過ぎただろう。両手、いや足の指も足してもたりないくらいだった。
そもそも今まで売れなかったのに、なぜ先ほどの俺は姿勢を正しただけで売れると思ったのか疑問でならない。
半ば諦め、姿勢を崩していると、甲高い声の女と落ち着いた柔らかい声色をした男が近づいてくるのが分かった。
耳を澄まして聞いてみると、
「こいつは違う。」「こいつでもない。」
と、よくわからないことをぼやいていた。
じきに、俺のところに来そうだったので、姿勢を正そうかとも思ったが、先ほどの奴らと同じように
「違う。」と言われるだけだと思ってやめた。
すぐに俺に順番が回ってきた。女は俺の方をじっと見つめてきた。鉄格子に顔を近づけてかなり目を細めてこっちを見てくるので、少し恐かった。
少しして、むすっとしてた口や細めていた目を大きく開け、眩しいくらいの笑顔で背の高い男に向かって
「こいつよ!こいつだわ!」
と甲高い声で叫んだ。
俺は何が何だかさっぱりだった。
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