青春の味
青山えむ
第1話 ピンク色
普通科はクラス替えがあるけれど、私は情報科なので三年間クラス替えがない。
このクラスで一年を過ごし、かなり慣れてきた。新たな人間関係を築く必要がないのは楽だった。けれども卒業までは一緒なので、気は抜けない。
最近、目が合うと笑顔になる
春の陽気のせいだろうか、桜が綺麗なせいだろうか。彼の事が気になってきた。
最初は偶然こっちを見ていたのかな、位に思っていた。
けれどもあまりにも
そう思っていたけれども、今では私が福士くんを気にしている。
好きって何だろう。誰かが言っていた。
その人の事ばかり考えてしまう。その人に会えると嬉しい。その人と一緒にいたい。時々は、切なくて泣きそうになる。きっとそれが好きという事なのだろうという結論になった。
じゃあ私の気持ちは……。
「福士くん、いいよねぇ」
ある日、
「純子、福士くんを狙ってるの?」
誰かが言った。
「うーん、福士くんて彼女いないよね? だったら今が狙い目じゃない?」
純子のノリ、これは絶対、狙う。純子は彼氏がいない期間がほぼ無い子だ。ましてや恋愛していない期間は無いに等しい。
「純子ってやっぱり恋愛体質だよね」
「そうかなー、みんなだって気になるでしょ、男子の事」
そこから徐々に盛り上がっていった。私は笑顔を保つのに必死だった。
私も福士くんが、気になっている。気になっているのはもう、好きという事だ。
「
帰り道、純子に言われる。純子は近所に住んでいるのでよく一緒に帰る。特別仲良しというわけではないけれど、小学校と中学校も一緒だった。高校では同じクラスになり自然と距離も近くなっていた。
「そうかな、そんな事ないけど。そう思わせちゃったらごめんね」
私は無難に答えた。
「由梨亜は周りに気を遣うからね。もっとわがままになればいいのに」
純子は笑顔で言う。お前がそれを言うか。ギャグなのか憎いのか分からない。裏表のない純子の本心だからだ。
「そうだ、いい色のリップ見つけたんだ。由梨亜も使ってみない?」
これ、と純子は自分の唇を指さした。薄いピンクで少してかっている。自然の唇の色だと思っていた。
「それ色つきリップ? 何も塗ってないと思ってた」
「でしょ、これなら由梨亜も抵抗なく使えるかと思ってさ」
周りは化粧をし始めている。私はまだ化粧は必要ないと思っていた。
「よーし、由梨亜が見ても自然な色だって事は、みんながそう思うって事だね。良いアイテムだ」
「え、基準が私なの?」
そうだよー、えー。そんな風に笑って帰った。こんな風に何気ない瞬間が、大事だと思った。いつまでも続けばいいと思った。
福士くんの事は諦めよう。
純子のアプローチが効いたのか純子と福士くんはつきあうことになった。
女子のみんなは「おめでとう」と祝福の言葉を純子に投げていた。みんなと一緒に私も「よかったね」と言った。純子は嬉しそうに笑っている。
あの時諦めてよかった。傷が浅いうちに福士くんの事は忘れよう。
純子の周りの女子がみんなで福士くんを見た。
女子の視線に気づき、福士くんがこちらを見る。
純子が小さく手を振る。福士くんも笑顔で手を振り返す。
女子が「きゃー」と声をあげる。「やだー」とか「ラブラブー」などの単語が続く。
純子のほっぺがピンク色になる。それはチークなのか自然な色なのか。口元を手で隠していたので純子があの色つきリップを塗っているかは分からなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます