9.上磯町

今居る厚沢部町あっさぶちょうから上磯町かみいそちょうに向かうには、さっき左折してきた道をそのまま函館に向かって東進南下するだけだ。


札幌方面に帰るには、さっきの道を北に戻るか一旦函館に向かうかのいずれかだ。


どうせここまで来たのなら道を戻るよりは函館に向かう方が楽しい。


なにより目的地が函館の手前なのだから向かわない理由など無い。



道南地方の属する渡島半島おしまはんとうは象の鼻のように細長く湾曲した半島で、その先端はぞうが鼻でりんごを掴む時のように2つの半島に分かれている。


その西側の半島である松前半島まつまえはんとうの付け根を横断して函館に向かうのが今走っている国道227号線である。


途中に差し掛かる峠道は中山峠といい、かつての際には戦場となった場所だ。



中山峠を越えると函館平野に出た。


ここで国道なりに南に折れると函館の手前で上磯町をかすめる。


上磯町の市街地には入らず一瞬だけ上磯町内に入って、すぐに函館市内に入るルートである。



「ところでこのカントリーサインに描いてある建物何?」

岩清水が窓に貼ってあるカントリーサインをちらっと横目で見て訊いた。


「トラピスト修道院。キリスト教の何かだよ。」

僕が薄い知識で答える。


「寄らないの?」

三浦が訊く。


「興味ない。」

岩清水が身も蓋もない答えを返す。


「近くに川田男爵史料館ってのもあるな。」

僕が地図を見ながら特に興味の沸かなさそうな提案をしてみる。


「誰だそれ?」


「確か男爵いもの生みの親だ。」


「いもづくしだな。」



広い国道の脇に上磯町のカントリーサインが見えてきた。


「よし、まずは撮影だな。」


「順調順調!」


三脚がないので全員では写れない。


交代交代で撮影する。


撮影したらもちろん次の市町村の抽選である。


もうほぼ北海道の南端に居る訳で、これ以上南に下ることは無いだろう。


帰り道を引く事が出来ればそこに寄るし、それ以外であればそこに行くことは無い。


その場合、いずれそこに行くことになるかどうかは気の赴くままだ。


抽選は岩清水の手に委ねることにした。



「♪何が出るかな何が出るかな チャララ ラ ラ ララララン」

もうほぼ帰るだけであるので気を楽にして唄う。


「よし、これだ。」


そこには大きな岩と船の絵が描かれていた。


「お!これ帰り道じゃないか?」

僕はなんとなく心当たりがあった。


岩内町いわないちょう。帰り方向だ!」

岩清水も岩内町の位置を大体判っているようだ。


「やっと帰れる?」

三浦はホッとした様子で漏らした。

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