第112話 イルミネーション
「それじゃ……道教えてくれてありがとう」
ペコペコと、俺には勿体ない美人さんは、2人揃ってどこかへ行ってしまう。タイミング良く怜も来たから、結構助かった。あれ以上は中々苦労するから。
「ナンパじゃないの?」
俺が戻ってから3分ほど。怜も来ると丁度見ていたようで、道を聞いてきたという俺の嘘を怪しむ。見ていたわけでもないだろうに。
「いいや、あんな美人さんが俺にナンパはないだろ」
「ふーん。美人さんね。私とどっち?」
「怜だな」
ここ最近、怜に向かって、冗談で「好きだから?」なんて聞けなくなってしまった。緊張でなのか、恥ずかしくて口に出すのが憚られる。
これまで、何度も冗談は言い合った。その都度、仕返しされたり、反省するまで拗ねられたりして、それなりに対応はしてきた。でも、それが無理になってきた。本格的に、俺も近づいて居るんだと……。
「知ってる」
「なら聞くなよ、恥ずかしい」
「気になるから聞いてるの。それで、リムジンっていうのは?」
「あぁ……あの人たちがリムジンパーティーって何回も言うから、それが移っただけだな」
危ない危ない。最近、ネットで女性がリムジンパーティーをするというのを見て、咄嗟に思いついた。あの日のネットに何よりも感謝を。
「なるほどね。まぁ、そういうことにしとく」
「ん?……助かる」
まさか聞かれて……はないだろう。いつもの怜なら、関係なく突っ込んで来るだろうし。
「取り敢えず、買い物終わったんだね。早かったじゃん」
座ることはなくて、目の前に立ち、首に巻いたマフラーの端で頭を叩かれる。
「そんなに悩むことでもないからな。怜なら、そこらへんの空気でもプレゼントしたら喜びそうだし」
「そんな適当に決められるの?関係浅すぎでしょ」
「いや、深いから出来るんだぞ」
「……分かるけど分かりたくない。もしかして、瓶に空気詰めてプレゼントとかじゃないよね?」
「薄情者かよ。いつもお世話になってるから、しっかり買ったよ」
ありかも、と思ったのは秘密に、しっかりと購入している。
「っそ。なら良いけど。そろそろ外に行こうか。買うもの買ったし、イルミネーション見ながら散歩しよう」
「あぁ、この暖かいのが恋しくなる」
「それも冬の醍醐味って思いなよ」
「だな」
むちゃくちゃだが、思える。どうせ隣に怜が居るなら、暖かくなるのは確実だから。内側からホワッと温もりが支えて、指先も温める。
人混みを脱兎のごとく抜けても、俺たちの横の距離は短くも長くもならない。それが心地良かった。離れはしないのだと、そう伝わるだけで、俺は嬉しかった。
外に出ると、そこは次元を跨いだようにただただ眩しかった。見慣れない色彩の猛襲。視界に映る点灯する輝きは、きっと見れるとすら思わなかった、奇跡とも呼べる代物。
辺りは真っ暗で映るから、人の顔はほとんど混色で埋められる。誰も彼も、カップルと見える人たちで、こんな陽キャのありふれた地に、怜と来るなんて、感慨深い。
「これだと、下見なくてコケそうだね」
繋がる公園へ、横断歩道へ踏み込む前に、怜は言った。モールを抜けると、その先にも公園のイルミネーションが、夏の夜空を彷彿とさせるよう煌めく。そこへ向かう途中の、僅かな会話の1つ。
「コケたら笑って助ける」
「コケないようにっては、してくれないの?」
「上を見るなってしか言えないだろ」
「手を握るとか、そんな気の利いたことは出来ない?」
右手を伸ばして繋げと、指を曲げて催促する。
「握っても、コケることに変わりないと思うけど」
ゆっくりと重ねた。伝わる柔和な感触に、初めてしっかりと繋いだことの動悸を知る。触れることに抵抗を持った俺の、恥ずかしくも初めて体験。好意を抱きたい相手からの、優しい心遣い。
「ありがと。あったかいし、コケにくいし、良いことしかないでしょ?」
「お互い何もしなければな」
怜なら、押したりすることが頭を過る。でも、それは実行されない。繋がれた手を離す行為を、自分からしたくないように、言われて強く握り返される手は、か弱い力を伝えた。
「何もしないよ。どうせ公園で話をする時は、手を離すし」
「すぐだな」
歩き終えた横断歩道。目の前に空いたベンチがあり、そこに向かっているのは、お互い阿吽の呼吸で把握済み。
「少しでも、いつもと違うことが出来るならいいじゃん?」
「だな」
怜の言葉に、頷かないことはない。今まであったけど、最近はどれもこれも共感する。合わせてるんじゃなくて、合っているだけ。求めず、自分の思うことと相手の思うことが合致してるだけで、迎合なんてしていない。
ベンチ前、来てすぐに座る俺。ここに来た意味は、たった1つ。
「話、早速聞いちゃう?」
「遅かれ早かれ聞くなら、今聞いとくのも良いと思う」
覗き込む表情に、負の感情は載せられていない。自分の思うまま、これからその額の傷について関係あるだろう、偽る理由を伝える。それを待つのに、俺は少し緊張してしまう。
「だったら、過去の私の悠々自適な学校生活の話をしようか。それから繋がる私の偽る理由」
きっと良くない話なのだろう。それでも明るく保とうとするのは、普段気を使わない怜の、珍しい一面だった。
「暗くないから、隼も私の話をよく聞いて、思い出してね」
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