第73話 プライドバトル
そう。天方は相手によってその答えが変わる人。私には私って言うけど、迫られたら花染さんにも花染って言っていたらしい。だからそれで言うと、聞いた人を答えるという最低な天然たらし行為で逃げているので、タイプは正確には私にも不明のまま。
しかも、今は青泉さんが聞いたのだが、答えは全員に聞かれるので、青泉さんだと答えることも出来ない。だから今まで迫られたことを理由に逃げてるのだろうが、つくづく上手い。
「佳奈がタイプじゃないなら、本当に遊んでたってこと?次から次に聞かれた相手を答えてたり?」
大正解。
「それは否定しないけど、遊んではない。普通に答えがないから、その場しのぎで言ってただけ」
それが、天方を好きな人だったら遊んでると捉えられる。本当に鈍感だからこそ、素直にこんなアホなことを言える。どうしてモテる男は鈍感なのだろうか。宝生くんもそうだとか言ってたし、法則でもあるのかな?
「なら、由奈と佳奈、どっちがタイプ?」
「どっちか言ったらどっちかが傷つくかもしれないだろ?優男の俺はどっちかには答えない」
「姫奈と比べたら私って言ったのに?」
「あれは華頂が居なかったからな。居たら言ってない。プライド高い華頂に殺される未来が見えるしな」
「余計な一言。チクッと刺してこないでよ。間違いじゃないけど」
一応3人共に自分の容姿については知ってるらしい。謙遜するのが面倒らしく、可愛いと自負してることに不満を持つ人には絡まないという徹底もしている。
「私って言われない未来見えるから、天方くんの優男に助けられたよ」
関わりがない分、それらも考慮してだろう。天方はいつメン以外に心底興味を示さない人。でも、例外も居たらしい。打ち上げっていう仕方ない場所だけど、青泉さんともこの流れで仲良くなりそうなのは少々厄介だ。
私の天方が盗られる。
「あの顔、佳奈の敵が増えたね。しかもめちゃくちゃ近くに」
「だとしても私は余裕あるから。先に仲を深めた人としての余裕がね」
「逆に新鮮味が無くて刺激足りなくなるんじゃない?私の方が綱引きからって、初々しさあるから」
「隼くんはどっちがいい?刺激を求めるか、慣れを求めるか」
一緒に買い物行った時もこうだったのだろうか。いや、多分それを遥かに超えるほどの質問だろう。これなら服選んでと言われて、片方選んで文句言われる方がマシだと思う。
「蓮、千秋、ハーレム交代してくれないか?女子の恋愛話に付き合わされて困ってるんだ。そろそろ限界来るから頼む」
聞かれてすぐに、呆れた声音で親友に問う。仲良くオードブルを口へ運ぶ2人にはいい迷惑だ。
「え、嫌だ」
「理由がムカつくから却下」
「……マジかよ……」
宝生くんは鈍感でそういうのに天方と同じ対応だろうし、千秋くんは2人よりもモテないことが嫌だからと、話には乗るけど落ち込むから嫌だろうし。結局親友は味方してくれないといわけだ。私も、こんなに助けてもらってなんだけど、もう味方する気はない。
「答えるまで移動させないからね」
「……時と場合によるって答えは?」
「それならどこで刺激を求めて、慣れを求めるかを言ってもらうよ?」
「えっ、俺何か悪いことしたかな?なんでこんなことになってるんだ?」
「女の子のプライドバトルに巻き込まれただけだね。私と伊桜さんはいい迷惑だけど、楽しいから見てる」
「……確かに。面白いね」
共感しとく。答えを聞いても何も面白くないけど、全く天方に興味ないですよとアピールするチャンスではあるから。
「難しいなー。刺激か慣れか……答えても軋轢生まれないよな?一応女子のプライドバトルらしいから、そこらへんは気にするんだけど」
「それ覚悟で聞いてるでしょ。由奈も佳奈も、どっちでも同じ反応するよ」
本当にこれが今後自分へ迫る女の子の特徴ということを知らないらしい。ここまで来れば尊敬の念を抱く。どうすればこんなに気づかないのか教えてほしい。
日頃から恋愛話に疎いのは知ってたけど、流石に鈍感の中の鈍感とは。これが密かにモテる男の生き方かと、今後の見方が変わってくる気がする。
それから少し考える時間を置いて、んー、と唸りながら飲み物も飲んだりして、15秒ほど経った時、口は開いた。
「多分、刺激がある方が楽しいと思う」
「おぉー!本当に?!」
「えぇー!本当に?!」
「おー」か「えー」の違いだけで、どちらも声量は同じ。騒がしい打ち上げ中でも十分うるさかった。
「はい、佳奈の負け」
「うわぁぁぁぁーー。なんでなんで?なんで刺激?」
怖い。私ほどではないけど、メンヘラのように詰め寄る。隣だからイスをガシッと掴んで寄るのだが、本当にガシッっと音がした。
「慣れは気を使わないでいい点に於いては文句なしだけど、刺激ある方が楽しくないか?新しいこと発見するかもしれないし、嵌るかもしれないし」
「でも気を使わないで新しいことを楽しめるなら慣れが良くない?」
「それに越したことはないけど、慣れたら好きなもの嫌いなもの分かるから、相性が完璧じゃないと無理だろ?」
「でも――」
「はーいはい。負けは負けー」
何度目か、保護者になる華頂さんは宥めるのに慣れていて、そんなに見ない私にでもその光景が馴染んでいた。イメージ通りというかなんというか。
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