第63話 デートの顛末
咲かぬなら、咲かせてみせよう、百合の花
こんにちは、リリアン・ミルスター11歳とちょっとです。
デートの約束をした私とユリア、だけども貴族の子女が女子供だけで街に出る訳にもいかないので、実は護衛がついてます、お父様にお願いして信用出来て腕の立つ非番の国軍兵士の方にお小遣いをあげて少しだけ距離をおいて護衛をお願いしています。
前後左右に全部で8人、お一人に一日銀貨3枚のお小遣いが出ます、これは国軍兵士で一人前になった直後の一月のお給料の四分の一くらいなります、まぁ実際はそこに各種手当がついたりするんですけどね。
まぁなかなかのお小遣いという事で、みなさんやる気マックスでした。
きっちり女性兵士を半分入れてくるあたりお父様の優しさが伺えます。
くっ! 脳筋のくせにこんな優しいなんて……今度マッサージでもしてあげます! か、勘違いしないでよね!? お父様の事が大好きになった訳じゃないんだから!
とまぁ冗談はさておき。
なんでこんなに警戒するのか、それはね。
「やぁそこの可憐な姉妹、いや主従かな、どちらでもいいや、僕とこれから食事でもどうだろうか?」
……。
……。
「私はとある貴族の使いでね、主が君達を呼んでいるのだ、早く来たまえ」
……。
……。
「ハァハァッお嬢さん達――」
ドゴンッ。
私の右フックが男の腹部に直撃をする、その場で倒れて悶絶している男は護衛にまかせて劇場に向かう私とユリア。
とまぁこんな感じでね……私が男だったらここまで警戒はしないんだけども、今生は金髪碧眼の美少女だからね。
ユリアもさぁ孤児院のガリガリだった頃ならまだしも、今はちゃんとした食事と幸せな生活、そして私がこっそり〈回復魔法特〉を使いながらしてあげてる美容マッサージエステでお肌ピチピチの美人さんだからね、黒髪黒目も忌避される事はあるけども、その美人な見た目だと異国情緒が溢れているともとれるからね……遊びには丁度いいって馬鹿が良く釣れるんだよね……。
ナンパは普通に断って、貴族の名を語った奴は人身売買組織の下っ端だったみたいなのでボコって護衛にまかせて王都の衛兵に引き渡して貰った、そしてただの変態も釣れたので即効腹パンした。
そういった有象無象が、ちょっとデートっぽい感じを出して街並みを楽しもうって事で劇場の手前で馬車を降りてユリアと手を繋ぎながらメイン通りのお店を覗きながら数百メートル歩いただけで何人も釣れちゃった……。
いやここまでとは思わなかったよ私も! 正直言うとお父様の部下達にお小遣いを渡す名目になればと思ってたのにガチ護衛じゃんかこれ、仕事としてならワイロにならないからね、お父様が部下に好かれる一助になればなぁとか思ったんだけども。
護衛を頼んでおいて本当に良かった……最初はお父様もついてくるって言ってたんで警戒しすぎかと思って部下だけにして貰ったんだけど……文化が育って裕福になると変態と犯罪者も増えるのかねぇ?
それともユリアが美人過ぎるのかなぁ……私の〈回復魔法特〉のせいかシミとかソバカスとか一切無い透き通ったピチピチ肌だからね……。
「どうかしましたかリリアン様?」
手を繋ぎながら歩くユリアが私に問いかけて来る、考え事をして会話を途切れさせたからだろう。
「なんでもないよユリア、演劇楽しみだね」
「そうですね、演劇というと子供相手に道端でするというイメージがあったのですが、大人向けという事でドキドキします!」
文化の育って無い世界だからね、演劇は子供向けって感じでまともな劇場も無いんだ、今回劇場になった場所だって元々音楽を聴く為の場所だし。
一応演劇の日本的な知識だけは前世でメモ書きとかで残していたはずなんだけど……あのメモ書きとかどうなったんだろ……。
劇場についた私とユリアは招待状を見せてVIP部屋に案内される、VIP部屋は劇場の三階にあるひと部屋で舞台までは結構遠い、劇場も部屋も狭い、うーん全体で小さな体育館くらいかこれ、そりゃ日本にあった大劇場とはいかんか。
VIP部屋には4人座れるので女性兵士二人を招き入れようとした、がジャンケンが始まったので部屋の中で2人立ち見になってもいいならと来ていた女性兵士4人を全部受け入れる事に、男性兵士は扉の外に二人で残りは交代で休憩を取らせた。
そうして始まる演劇、その内容が……。
「騎士物語? いや微妙に違うか」
「微妙に変えてますけど、うう……セリフのその部分は変えないで欲しいです!」
ユリアが劇を見ながら文句をつけていた、うん判る、ぱくるにしてもそこを変えちゃうのは原作を読み込んでいない感じするな。
しかしなんていうか堂々と『騎士物語』をぱくった演劇だった、本を元に演劇化したものに対する法整備なんかは前世でやってなかったなぁ……あの頃は子供向けの物語しか無かったしね。
ロバートも特に気にしてなかったし、本の複製じゃないならこういう物は有りだと思ってるんだろうけど……なんかこうモヤっとするね。
……。
……。
――
――
『騎士の物語』という題の劇が終わった。
劇場に観客の拍手とグスグスッという女性の泣き声がほのかに響く、一緒に見ていた女性兵士の三人も泣いていた。
だけどなぁ……。
「帰ろうかユリア」
「……はいリリアン様」
私とユリアの中には悲しさしか残らなかった。
帰りの馬車を呼んで貰う事にして劇場に付随している喫茶店の様な場所で馬車が到着するのを待っている。
身分の高い人も見に来ているのか私達の様に護衛を連れている人も結構いるね。
そんな中、私とユリアが座っている席のすぐ側のテーブルに着いていた三人の年若い少女の会話が耳に入って来る。
『酷かったですわね……酷すぎて最後に泣いてしまいました……』
『ええ本当に酷かった、この劇って本当にリリユリが関係していますの?』
『……さっき演劇関係者に直球で聞いたら答えを濁されました……』
『という事は?』
『一切関わって無さそうです! だって騎士物語にあんな展開はありえませんもの!』
『社交界にはリリユリが関わっていると噂が流れていましたけどこれは……』
『この劇のパトロンをしている貴族が流している可能性が高いですわね?』
『酷い! これは会員の皆様にすぐにでも情報を流すべきです』
『ですわね、そしてリリユリの名を語った者にはしかるべき……』
『……罰が必要ですわね』
『わたくし、お父様にお願いしますわ』
『わたくしも、こういった事の法整備が必要な事をお父様にお伝えします』
『ではそのように、良き本の為に』
『はい、良き恋愛本の為に』
『ええ、良き百合本の為に』
三人の女性は自分達の馬車が来たのか席を離れて行った……。
あの『良き本の為に』ってのは、お母様が携わって今は王妃殿下がトップの『書を囲む会』で使われている会員同士の合言葉だったはず……うん、気にしない事にしよう。
というか一応ハッピーエンド的な最後だったのに観客から泣き声がするのはおかしいと思ってたんだけど……酷すぎて泣いてたのかぁ……あれ? じゃぁ兵士さんも?
帰りの馬車で私とユリアと同乗した護衛の女性兵士と話をしたのだけども、どうにも軍の女性兵士の中では、お金を出し合って本を買って回し読みする同好会の様な物が存在するらしい。
活版印刷が普及したと言ってもまだまだ本は高い、庶民向けな一番安い装丁の『騎士物語』でも一冊で銀貨が五枚以上飛ぶからねぇ……安くしたいんだけど人件費やら材料費や何やらでどうしてもね。
それに貴族向けの立派な装丁の『騎士物語』だと金貨単位になるし。
まぁ女性兵士さん達はそうして回し読んだ『騎士物語』のファンで、今回の護衛時に演劇化されているらしいのを知って喜んだのだが……実際の演劇内容が酷すぎてつい泣いてしまったらしい。
四人中三人がファンだったのか、ユリアも少し嬉しそうだ、私達が作者だとは言えないが帰り道では『騎士物語』の話をして仲良くなってしまった。
送ってくれてありがとうと兵士達を見送り……さて、と……私達の小屋の前でソワソワとしている馬鹿ロバートのフォローをせねばなるまい、あいつはこの後ユリアと二人っきりでお話が出来ると思ってるんだろうけど……結婚する前に離婚の危機だって判っているのだろうか?
いや……この場合は婚約破棄か?
私はこの後、プンプンと頬を膨らませて怒るユリアを前に戸惑うロバートに。
原作を勝手にパクられて、しかもそれで出来た劇の内容が作品を軽んじているのが判る物だったらどんなに悲しいのかを淡々と説明をしてあげるのだった。
そしてユリアに頭を下げるロバート、でも私に対してまったく謝罪しないロバートにユリアが怒ってしまい、結構大変だった。
ユリアは『次に似た様な事があったらペシンッてしますからね』と怒っていたが、ペシンッてされてーなーとか思うくらい可愛らしかった。
ロバートも怒られているのにニヤケそうなのを必死で堪えていたね。
そんな二人をちょこっと離れた所から見つつ私は思う。
私も異世界の作品をパク……インスパイアだから! 私のはインスパイアだから! そう心の中で叫んでおいた。
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