繰り返す転生、神が運営しているだろう転生ガチャが神運営じゃ無いお話。

戸川 八雲

始まりはいつも突然やってくる

第1話 始まり

「仕事の引継ぎも問題無く終わったし、そろそろ子供を作る事を考えないか?」


 俺はテーブルの上の書類を処理しながら、新婚間もない嫁にそう声をかける。


 俺の横に座り、やはり書類を確認しながら嫁は答える。


「そうねぇ、もう少し待ってくれる? だって貴方はこの領地を任されたばかりじゃないの、私に子供が出来てしまうと貴方の仕事を手伝う事が出来なくなってしまうわ」


 嫁は書類を確認する手を止めると、困った顔で俺の肩をさすりながら子供はまだ早いと言ってくる。


 残念な事だが、この領地の代官を任されたばかりで忙しいのも事実だ……。


「むぅ、それなら早くこの領地の管理を軌道に乗せないとな」

「……ええ、頑張りましょう……あなた」


 俺は隣に座る嫁と共に再度書類の確認作業に戻っていく。


 ――


 俺の名はレオン、転生者になるのだろうか?

 俺には日本という国でハタチくらいまで生きていた記憶がある。


 この地球ではありえないファンタジー世界に生まれたレオンという少年が、10歳の時に日本での記憶を思いだした。


 それが起きたのは教会で御祈りをしていた時だ。

 この世界では10歳を超えた人族が、神像のある場所で神に祈ると神様から祝福を得る事が出来、様々な能力を得る。


 日本の知識を思い出した俺はこう思ったよ、無料ガチャか? と。


 大抵の平民は10歳の誕生月に教会に祈りを捧げに来る。

 神像の前で祈りを捧げると、光る玉が現れて体に飛び込んで来るのだが、その数は人によって様々で、玉の数や光の強さや大きさで人としての評価が変わったりする世界だ。


 ただし必ずといって良いほど光る玉が一つは現れるらしいので……。

 ガチャの最低保証? とか思ってしまうのはゲーム脳だろうか。


 ただまぁ平民の場合光の玉は1~2個前後で、覚える能力もしょっぱい。


 例えばよく覚えると言われているのが〈財布〉という能力で、自分の手で握れるくらいの物を空間に仕舞っておける物で。


 ゲームのアイテムボックスやインベントリなんて言われるやつの小さい版だ。

 銅貨が20枚も入れば一杯になってしまう。


 それと〈着火〉や〈水生成〉やら〈光生成〉なんてやつも多い。

 地球の知識がある俺からするとそれらは、ライター、水筒、懐中電灯、って感じか……平民は魔力も低いのでほとんど使えないのが現状だ。


 しかも能力が重複したりする事があるらしいのだけど、昔平民の子供が光の玉が7個も現れたのが教会で確認をされた事があったらしいのだが。

 それを見ていた周りの人間にすごい期待をされたが……その子供の覚えた能力が〈財布〉6個に〈着火〉1個だったのだとか……。


 その子供は硬貨を120枚前後くらい空間に仕舞う事が出来たが……そんな物はバッグが一つあれば代えが効くわけで……。

 だがしかし、平民にしては魔力の多いその子は、何度も火をつける事が出来る子として重宝されたとか。


 という感じで、平民が一杯光の玉を吸収しても、あまり期待してやるなという笑い話がこの世界にはある。



 そうして俺は教会の孤児院に居たのだが、日課である神への祈りを捧げた時に光の玉を2個吸収したので、その日が捨て子だった俺の10歳の誕生日という事になった。



 光る玉の数は2個だが、そのうちの一つの大きさがそこそこ大きく光も強いので、司祭様が驚きと共に俺にどんな能力を得たのか聞いてきた時に……俺は日本の記憶を思い出したんだ。


 俺が得た能力は〈回復魔法微〉という簡単な怪我を治せる物で、もう一つは〈財布〉だった。


 回復魔法を得た事で教会で働く事も可能ではあったんだけど、その孤児院がある領地を治めている領主の下働きとして雇われる事になった。


 そしてまぁ色々あって、日本の知識で領主様を儲けさせる事に成功をし、準騎士爵の位を貰える事になる。

 それが18歳くらいの時の事だな。


 そのまま領主様の元で準騎士として扱かれて働いていたのだが。

 20歳を過ぎたあたりで、領主様の館で行儀見習いとして働いていた下級貴族の娘を紹介されて結婚をし、そのままとある小さな街の代官として派遣されて今に至る訳だ。


 20歳というと日本での記憶がある年代に追いついた感じ。

 それで、この世界は結婚をしたらすぐ子供を作るみたいなんだが……嫁があんまり乗り気じゃないのよな。


 てか正直あまり好かれてないのかなーと思っているんだが。

 領主様からの紹介では断れないし、子はかすがいとも言うし子供を作って時間をかけて仲良くなれればなとも思っている。

 結構美人な嫁だしな。



 ……。



 ――



 ふぅ……書類を全て確認し終わったが、小さな街で歳入は良くないから代官としての収入もかなり低めになりそうだ。

 なんとか特産品の一つでも生みだせれば、下級貴族だった嫁にも満足して貰えるくらいの稼ぎにはなるだろうと思う。


 何か考えてみるか……土地があるなら特殊な作物とかかねぇ……甜菜とかこの世界にあるといいのだが。


 金に成りそうなリバーシやら何やらの玩具は、領主様の利権として献上しちゃったからなぁ……。

 それら玩具類のおかげで、王様の跡継ぎになる事が確実なお子様な王子に良い印象が与えられたとかで。

 その事で領主様に褒められ、そうして俺が準騎士にまで成れたのだが……。


 俺が執務室の椅子の上で色々考えながらウンウン唸っていると、嫁のヘンリエッタが部屋に入って来る。


「……あなたお疲れ様、お茶を淹れてきたわよ」

「ああ、ありがとうヘンリエッタ、頂くよ」


 嫁であるヘンリエッタが淹れてくれたお茶を飲む。

 そういえばお屋敷でも侍女として働いていたのだから、お茶を淹れるのも得意なんだっけか。


 こういったコミュニケーションを重ねて仲良くなれれば良いな……ん?


「美味しいよヘンリエッタあり……が……げぅ……なん……」


 ごふぉぉ、息が……くる……なんだこ……。


 苦しい……息が……意識が遠くなっていくのが分かる。

 そしてこのまま気絶するのはまずいと、俺は近くにいる嫁に手を伸ばし助けを……。


「卑しい孤児の出には、お似合いの最後ね」


 嫁のその言葉を聞いた瞬間に何をされたのか理解をし、そして俺の意識は途絶える。



 ……。



 ――



 リザルト

 〈財布〉〈回復魔法微〉

 〈魔力+2〉



 ……。



 ……。



 ――



 意識が戻りガバっと上半身を起こす俺……って、生きてる!?


 俺は素早く左右を確認する……なんだここ……林か?


 立ち上がって周りを……うぇ……なんで俺は素っ裸なんだ!


 立ち上がろうとした時に自身が服を着ていない事に気付いた……。


「なんだ? 殺されて素っ裸で何処かに放置されたがまだ生きていた? 咄嗟に自分に回復魔法でも掛けたとか?」


 いや、そんな事はありえない、あれが毒なのだとしても俺の〈回復魔法微〉には解毒作用なんて無いんだ……。


 俺はもう一度周りを確認してみると、木々の向こうに道らしき物が見えるので、そちらに向かった。



 ……。



 むーん、街道のどちらかに向けて歩いて行くべきか、俺は素っ裸で考える。

 するとそこに馬にひかせた荷馬車が通りかかり、そして俺の目の前でそれは止まった。


「おおいそこの小僧、お前さん素っ裸で何してんだ?」


 野菜やらを積んだ荷馬車に乗っている農家らしきおっちゃんが、そう俺に声を掛けて来る。


 小僧? いやまぁ中年のおっちゃんからしたら俺はまだまだ小僧なのかもだが。


「なぁおっちゃん、ここは何処か教えてくれるか?」


「なんだそりゃ、この先はウラールの街だぞ」


 おっちゃんは進行方向を指さして教えてくれた。


 ウラールの街!?


 そりゃ俺が代官をしている街じゃんか、てことはやっぱり殺されて死体を捨てた……?

 よく判らんが、まぁまずは帰って嫁に問いただして場合によっては……うーん……なんだろうか? 酷い事をされたのにあんまり怒りが湧いて来ない。

 俺が俺で無い、そんな感じだ……。


 まぁ何にせよだ。 


「おっちゃん、俺を街まで乗せてくんねえか?」


 農家っぽいおっちゃんは俺の頼みを聞くと、俺の頭の先から足元までを確認するように視線を動かし……。


「まぁ盗賊の罠って事もねぇか……いいぞ後ろに乗んな、ただし! 野菜には触るなよ変態小僧」


「誰が変態じゃ!」


 いきなり酷い事を言うおっちゃんに抗議の声を上げる俺、だがしかし。


「真っ裸で街道の脇に立って居る変態小僧に言ってるんだよ」


 ぐうの音も出なかった……く……せめてパンツくらいを履かせたまま放置してくれれば!


 取り合ず荷馬車に乗ろう、ていうかでかい荷馬車だなぁ……。

 普通の荷馬車より一回り大きいんじゃ?

 高さもちょっと高いし、よっこらしょっと。


「乗ったよおっちゃん」

「ほいよ、ほれ、これでも巻いとけ」


 おっちゃんが俺に手ぬぐいのような物を投げつけて来た……汚いし、恐らく手ぬぐいではなく雑巾の類だと思われる。


 だが背に腹は代えられんので腰に巻く、温泉上がりのお兄さんの出来上がりだ!


 ……これは無いな……。


「おっちゃん代えのパンツとか持ってない?」


「日帰り出来る距離で、そんなもん持ってくるかアホウ」


 ごもっともです。


 荷馬車を出発させる御者席のおっちゃんだが、体格いいなぁプロレスラーか?

 なんてな、しかし俺も負けてねぇぜ、準騎士として鍛えられたこのシックスパックの腹筋を見……。


「あああああああああ!」


「うわっと、どうした小僧、トイレか?」


 俺の声のせいか馬が驚いて、ちょっと揺れた荷馬車。


「ちげぇよ! 俺が鍛えに鍛えた筋肉がプニプニになってるんだよ! うああイケメンじゃないのだから、せめて細マッチョにと頑張ったのに……これでは女性受けが悪くなってしまう、いやまぁモテた事なんてないんだけどさ!」


「元気のいい小僧だなぁ、色恋沙汰なんてまだ早いだろうによ、確かに強さに憧れる女性もいるからな……頑張れや……まぁ一番見られる部分は大抵稼ぎの多さなんだけどな」


 おっちゃんは何か諦観を籠めた呟きを最後につけ足していた。

 やめてそれは聞きたくない、てかよ。


「小僧小僧って俺の事いくつだと思ってんだよおっちゃん! これでも結婚してんだぜ?」


「ハハハ10歳かそこらの小僧が結婚か、あれか、幼馴染と約束をしてたとかそんな奴だな、判る判るぞぉ、俺のかみさんも結局村で俺を待っていた幼馴染になったしな、昔から慣れた相手が一番だよな」


 何言ってんだおっちゃんは、可愛い幼馴染とラヴラヴなんてのは、日本では幻想で楽しむしかないコンテンツだった……いやちょっと待て! ……10歳?


 え? 自分の腕やお腹を見る。


 言われてみると子供のようなぽっこりお腹に細い腕……やけにでかいおっちゃんかと思ったが、顔の大きさとかを考えるとそれほどでもないか?


 俺の感覚として自身が180cmくらいだと思っていたんだけど。


 今が10歳だとすると? ……え?


「なぁおっちゃん」


「なんだ小僧」



「俺の年齢10歳くらいに見えるんだね?」


「そうだな、茶髪で少しタレ目で鍛えられてない体の人畜無害な小僧に見えるな、もし筋肉モリモリで体に剣やらでついた傷があったら、盗賊の手下の可能性もあるし荷馬車には乗せなかっただろうな」


 ……茶髪? タレ目? 俺は黒髪でつり目だったはず。


 金や銀やカラフルな髪色も多いこの国で、黒髪はちょっと珍しくて忌避されていたし、つり目のせいもあって俺を怖がる人もいたんだが……。


 ちなみに目の色は髪と同じなのが基本だ。


 たまに両親の色を両方受け継いだオッドアイとかも居るみたいだが、基本は髪と同じ色、毒殺されたっぽい俺なら黒髪で黒目、おっちゃんなら茶髪に茶色目みたいにな。


 自分の前髪をつかんで引っ張り、目の上で確認してみる。


 ああ確かに茶髪だなこれ……どういう事だ……。











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