異世界快男児
南雲麗
第一章
序 彼は死んだ
赤井ホムラという男が居た。
中肉中背。肉体的な特徴は薄い。しかし赤髪を始めとして、妙に赤を好む男だった。
例えば赤のパーカーに赤のシャツ、赤色のズボンといった具合である。
当然風体は異様に目立つ。あまりに目立つから、良くも悪くも有名だった。
彼はこの時分には一等珍しい、芯の通った男だった。
弱い者いじめを蛇蝎の如く嫌い、非道には暴力をもって抵抗した。たとえ相手が年嵩、権威者であろうとも、それを理由に矛を収めはしなかった。
古い言葉で言えば「弱きを助け、強きをくじく」という言葉がよく似合う男だった。
東にイジメを見れば相手を叩きのめし、西に困る者あれば行って助けてやる。
南に恐喝を目撃すればこれを粉砕して被害者を助け、北に権力を笠に着る者があらば敢然と挑んで打ちのめす。
しかし。いや、だからこそと言うべきか。
彼の人生は、おおよそ真っ当なレールからはかけ離れていた。
小中と暴力沙汰を繰り返して成績は不当に下げられ、それに文句をつけてはまた成績を下げられた。高校も、地域最低クラスの学校へと追いやられた。そしてそこでも――
「テメエ先公をイジメてんじゃねえ!」
「ぶげら!」
「ひぃ! 暴力! 暴力事案ですよ!」
己に起因しない理由で幾多の暴力沙汰を起こし、一年で退学となってしまった。
だがホムラは、己を決して曲げなかった。バイト先でも暴力沙汰を起こしてはクビになることを繰り返し、遂には実の親に勘当されるまでになってしまった。
そして彼は、裏の世界へと身を落とした。極道である。俠気と義理と人情を尊ぶと言えば聞こえはいいが、実態は犯罪社会である。落ちた犬を、ケツの毛までむしり取るような世界である。そんな世界において、ホムラの正義感ぶりは使いっ走りには最適だった。差し伸べられた手は、悪魔の誘惑にも等しいものだった。
しかしホムラは、極道の思惑以上に狂犬だった。同じ下っ端が課された理不尽に業を煮やした彼は、遠慮なしに教育係へと飛び掛かっていった。
「うおおおおお!」
「うわ、コイツ教育係を殴りやがった!」
「囲め! 囲んでシバき倒せ!」
「上等だ! 相手になってやる!」
先輩上役相手に牙を剥いたホムラは、しかし勝利に至るにはあまりにも無力だった。多勢に囲まれ蹴られ殴られ。倒れれば足蹴にされ、やがて暴行はエスカレートしていった。
「こん……の……!」
「まだ意識があるぞコイツ!」
「手を止めるな! 徹底的にやれ!」
「ぐあああああ!」
そうして彼は、意識を失う。狂気にうなされた極道たちが音を上げる頃には、彼の呼吸は停止していた。死体は隠滅され、彼の生の記録は、無為に消えた。
赤井ホムラ。死因:暴行死。享年二十一。それが彼に残された、最期の記録だった。
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