隠れ中二病少女が異世界転移に成功した話

咲春響奏

第1話

「お願い!行かないで!」

私は少年に向かって叫ぶ。この手を離したくない、そう強く想っても少年は少しずつ光の中に消えていく。泣き叫ぶ私を見て、少年は悲しげに微笑んだ。


『君にもう一度会えたなら…』


(ピピピピッ ピピピピッ ピピピピッ)

「はっ、」

私は、目覚ましの音で目を覚ました。涙が頬を伝う。また同じ夢を見た、何度も何度も見た夢。遠い昔の大切な記憶。

「…。よしっ!」

私は今日も決意する。絶対に会いに行く、どれくらい遠くても、この世界に居なくても…。

「今日の朝ごはんは何かなー!」

今日も私の一日が始まる。



「その方程式が導き出す答えこそ、我を異世界へ誘う導の数式である!」


…。なんて叫びたい!叫び出したい!

「なにうずうずしてんの苺愛いちあ?」

「な、なんでもない!」

そう、今は数学の授業中。方程式なんて言葉を聞いたら思わず、かっこよく変換してしまうのが中二病たる宿命というやつだ。

そう私、桜木苺愛さくらぎいちあはいわゆる中二病を発症しており、今高校二年生17歳である。この歳で中二病なのが恥ずかしいので周りには隠しているが、たまにどうしても叫び出したくなる時がある。それも中二病の運命さだめであるが故。やはり風が我を呼んでいる、ここではないどこかへ導くように…。待っていて欲しい、いつか我が絶対にそこへ「いちあー!」

「…、はっ!」

「窓開けて何してるのー?早く食堂行こー」

「う、うん!」

いけない、また自分の世界に入り込んでしまっていた。窓を開けたら良き風が吹いていたが為に…。


「じゃあ、また明日ね!いちあ!」

「うん!また明日!」

学校が終わり帰路に着く。私は家に帰ったらいつも必ずやらなければいけないことがあるのだが、今日はなんだかいつもよりもやる気に満ちている。

「今日こそは成功する!そんな気がする!」

…まあ、このセリフを言うのももう何回目になるのか忘れたが。

「ただいまー!」

誰も居ない家に我の帰還を知らせ、二階の自分の部屋へ入る。先ずは魔法陣が描かれた布を敷き、その上に炎の灯ったロウソク、そして黒、白、紫、赤、青、桃のそれぞれの色をした6つのクリスタルを手に握りしめる。

「お願い、今日こそ成功しますように…」

そう願い、魔法陣の真ん中に立つ。


「我を待つ世界よ!我が名を導にし、その幻の扉を開きたまえ!!!」


・・・。


「…。今日もだめかっ、、くっ、、」

一応、毎回言葉は変えているのだが、それでも一向に成功する気配がない。呪文の言葉なども一通り試したのだが、効果はなかった。

「やっぱり私には無理なのかな…」

少し弱気になってしまう。もう5年間も続けているのに、まだ君に会いに行けてない。会いたい、君に会いたい。

「会いたいよ…。」

思わず涙が零れる。


『会えるよ』


「…はっ!」

そうだ。私がいつも悲しむ度、泣いちゃう度に君はいつも、また会えるよと、私の手を握って言ってくれた。私の手を握る君の手は、いつも震えていたのに、悲しい顔で笑っていたのに。

「弱気になるな、諦めるな、絶対にまた!」


君に会いに行くんだ


その時、思い出した。君がいつも泣いている私に言ってくれたおまじない。私の頭を撫でながら、抱きしめながら言ってくれたおまじない。


「ウィベチュトハトウィン」


そう呟くと、握りしめていた6つのクリスタルが突然光を放ち、輝き出した。自身を囲んでいた炎がクリスタルの中に入るとそれぞれの色に炎が変わり、私を囲む。

「わっ!」

その炎が一つに合わさり、目の前に扉が現れる。

「…この先に、きっと君が!」

私は扉を勢いよく開ける。待ってて、絶対に会いに行くから、そう強く願いながら扉の先へ一歩、足を進める。


そして、私の記憶はそこで途絶えた。




(暖かい温もり、誰かの膝の上に寝てる…?)

朦朧とした意識の中で、私は少しずつ目を開ける。


「あ、よかった。起きましたか?」


…ん?


「…。うわぁぁ!!」


心臓が飛び出しそうなほどびっくりした。思わず叫んでしまった。だって!だって目の前に、こんな…、こんなイケメンがいるんだもん!

「そんなに勢いよく起き上がってしまって大丈夫ですか?あなたは気を失っていたのですから」

い、一体何が起こっているのだろうか。理解が追いつかない。とりあえず大丈夫と言うことを伝える。

「は、はい!もう大丈夫です!ありがとうございます!」

にこっと微笑むイケメン。やばい、直視できない。すかさずそっと目を逸らすと気づいた。

「あの、大丈夫ですか?」

「無理しない方がいいぜ?」


周りに5人の美男美女が居ることに。


「うわぁぁ!!」

またまた叫んでしまった。だって、だって!

「それだけ声出せればもう大丈夫だな!」

見た目の可愛さとは裏腹に口調が男らしい少女がにかっと笑う。

「まだ無理をするな」

黒髪で顔が恐ろしく整った、見た目的にクール系男子に分類されるであろう美男子が心配そうに話しかける。

「よかった」

さっきも大丈夫ですか?と声をかけてくれた幼い顔の美少年が柔らかく私に笑いかける。

他にも、遠くの椅子に座ってこちらを心配そうに見つめる綺麗な幼い顔のメガネ少女、壁に寄りかかり、こちらを見て微笑んでいる片目が隠れたミステリアス系美少年など、今まで生きてきた中で見たことのない美男美女のオンパレードである。戸惑いを隠せない、私はもう一度〝君〟に会いに来たつもりだったのだが…。

「あの、ここはどこですか!あなた達は一体…」



「ここは第一空間世界、悪魔の住む世界です」


「えぇぇぇぇ!?」

私はついに異世界転移に成功した。しかし、辿り着いたのは悪魔の住む世界。


ここから私の長い長い冒険が始まるのです。



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