レイジ②

 食事をしてる間、ゼンが頬杖をついてオレの顔を見ている。

「なに? ゼン、なんか言いたそうだね」

「いや、綺麗だなと思って……」

   恥ずかしげもなく、そんなセリフを吐くゼンの足をテーブルの下で蹴り飛ばす。


「レイ、今晩空いてるか?」

「ゼン、今夜は駄目だ。分かるだろう?」

「そうか、今日はボスの所に行く日か……」

「行かせたくねえな」ゼンは俯いてボソッと言った。


 だってゼン、仕方無いじゃないか。

 ここに拉致同然に連れて来られた時から、ボスの玩具なんだから。アイツとオレは。


 ◇◇◇


 そう、あれは九年前のあの日だ。オレはまだ六歳だったのに。

「お前たちに選ばせてやる」

 突然現れた黒づくめの集団。両親はオレ達をかばい、固まって震えていた。

「何でも言う事を聞きますから。子供達は助けて下さい!」


 父が必死で頼んだ言葉に。

「どっちを取るのか、お前たちに選ばせてやる」とリーダーらしき男が言った。

「どっちとは……?」

 何の事だか分からず、父と母は困惑した顔をしてる。

 男が苛々しながら話すには、オレか双子の兄かどちらかを選べと言う事らしい。

 その要求が分かった時、両親の顔が苦痛に歪んだ。


「どっちを取るかなんて、選べる訳ないじゃ無いか!」

 母はオレたちを離すものかと、一層強く抱き締めた。

「それなら俺たちは、お前らを殺して二人とも連れて行くまでだ」

 苦渋の決断だったに違いない。でもあの時、父がオレを真っ直ぐ見つめたから。


「コイツか……」

 母を突き飛ばし、オレを抱えあげて家から出て車に押し込んだ。

 母が裸足のまま、玄関に出てオレの名を何度も呼ぶのが聞こえた。

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