地球(10) 政治的攻防

 それは突然の出来事だった。


 俺の前世の記憶には、1991年にソ連が崩壊して民主主義国家「ロシア」になるとういうものがある。


 しかし、1990年1月6日の今日、俺が予想だにしなかった出来事が起こった。


 テレビの報道番組を塗りつぶしたのは、こんな言葉だった。


「アメリカとソ連、そして中国が『三国同盟』を発表!」


 何故だ!?


 アメリカとソ連は「水と油」と同じで、政治的に交わる筈の無い関係だ。


 しかも、そこに中国も加わっているという。


 どういう事だ!?


 社会主義のソ連と、民主主義のアメリカ、そして共産主義の中国が同盟だと?


 水と油、そして卵が加わればマヨネーズになるのと同じ理屈か!?


 まさか中国が卵だったとかいう話か!?


 ともかく、世界の超大国3つが同盟を組むというのは、世界のパワーバランスが完全におかしくなる。


 イギリスなどはアメリカに追従するのが目に見えているし、フランスも同じだろう。


 もしかしたら、ソ連のエネルギー流通に依存しているヨーロッパ諸国は全てアメリカ主導の三国同盟に追従するのではないか?


 となると、日本を支援しようとする国がどれほどあるだろうか。


 この時代はまだIT技術が発達していない。


 アメリカを含む三国同盟と言っても、武力と経済力による脅威がメインになるだろう。


 しかし経済力に直結するエネルギー政策が石油や天然ガスに依存する国は軒並み三国同盟に追従する可能性がある。


 何故ならこの三国同盟とは、資源が無い日本を包囲するものに他ならないからだ。


 第二次世界大戦の時もそうだった。


 日独伊の三国同盟を結んでいた日本だったが、アメリカ、英国、中国、オランダによる「ABCD包囲網」によってエネルギーの輸入路を絶たれ、更にアメリカによって「ハルノート」と呼ばれる「日本を明け渡すか、日本を滅亡させるか」の二択を迫られた事によって開戦を余儀なくされたという歴史もある。


 今回の「米中露」の三国同盟は、そうしたエネルギー輸入路の遮断という形で日本を包囲した布陣と見るべきだという事だ。


 さて、この情勢を鮫沢はどう動くつもりだろうか。


 もし俺が手を打つとするならば、ティアの自然エネルギーによる発電技術によって電力の充実を最初に行う。


 本当はもっと後回しにしたかった「送電線を必要としない電力供給技術」の整備を急がせる事になるだろう。


 更に、北海道や東北地方など、厳寒の地域に石油ストーブが使える環境を整える必要がある。


 日本の石油備蓄は日本全国に配布するとして3か月分はある。


 これで春までを乗り切る事ができれば、そこからは、ティアが作った太陽光パネルを使った暖房システムを普及させる事も可能な筈だ。


 更に、この時代の日本には「エネルギー資源が無い」という通説があったが、前世の2035年時点では日本の近海の海底には莫大なエネルギー資源が埋蔵されている事が確認されていた。


 石油、天然ガス、そうしたエネルギー資源が日本にも存在する事を、この時点で公表する事もアリかも知れない。


 日本にもエネルギー資源が莫大にあるとなれば、この三国同盟によるエネルギー封鎖包囲網を覆す事が出来るからだ。


 エネルギーの採掘はそう難しい事では無い。


 当然だ。


 1940年代から世界では海底資源の採掘をするだけの技術があったのだ。


 1990年の日本にも当然その技術が無い訳が無い。


 更に起死回生のプランも俺の中にはある。


 それは「レアアース」だ。


 これも日本近海の海底に莫大な量が眠っている。


 レアアースとは、様々な精密機器に必要な材料だ。


 半導体もその一つ。


 これからやってくるハイテク時代を担う一大産業である半導体事業を、このタイミングで日本の国策事業として発表すれば、今回の三国同盟にも亀裂を生む事が出来るかも知れない。


 ただ、気がかりな事もある。


 そもそも、この三国同盟を突然仕掛けたのが「誰の指示によるものか」という事だ。


 アメリカ政府が主導しているのであれば大した脅威にはならないが、これがアメリカの裏に潜むレプティリアンの指示なのだとすると、この策の裏の意図が見え隠れするのだ。


 その意図とは「既にハイテク産業をアメリカが完成させており、世界支配の準備が整った」という意思表示をしているという事だ。


 もしそうだとすれば、俺の策は「出遅れた」と言わざるを得ない。


 巻き返しを図るにしても、日本がダメージを受けるのは免れないだろう。


 もし日本が政治的にも経済的にも大きなダメージを受けてしまったら、戦況不利だと見られて諸外国が三国同盟に追従してしまうかも知れない。


 なので、ここからは微妙な駆け引きが必要になる。


 鮫沢はどう考えているだろうか。


 俺達に協力を仰いでくるだろうか。


 協力を仰いでくるだけならまだ良いが、パニックになって「どうしたらよいか分からないから助けてくれ」などと依存をしてくる様なら、戦況の不利は覆せないだろう。


 依存と協力は別物だ。


 俺達にはまだ、政治の表舞台に出るだけの下ごしらえは出来ていない。


 これまで準備してきた様々な施策も、まだ完成には至っていないのだ。


 そんな事を考えながらテレビの特集を見ていた俺に


「電話が鳴るのです」


 とシーナが声にした途端に自宅の電話がプルルと鳴りだした。


 電話が鳴り出す前にシーナがこう言うのはいつもの事だ。


 俺には分からないが、電話が鳴る前に届く電波を、シーナはその特殊な感覚で察知しているらしい。


「ああ、俺が出よう」


 俺はけたたましく鳴る電話機の方へと歩き、受話器を取った。


「もしもし、ショーエンです」


「あ、ショーエンさん! 私です。鮫沢です!」


 受話器から聞こえたのは鮫沢の声だった。


「ああ、鮫沢か。丁度いま、テレビで報道を見ていたところだよ」


「おお! なら話は早いですな! これから首相官邸にて緊急会議を行う予定なのです。是非ともショーエンさんもご参加頂けませんか?」


 まあ、そう来るわな。


「ああ、そうしよう。直接そちらに出向けばいいのか?」


「いえ、今からそちらに迎えの車を行かせます! もしもの場合に備えて、ショーエンさんには護衛を付けねばと思っておりますので」


「そうか、分かった」

 と俺は言ってから、「こちらは9名で出向きたいんだが、車の手配は可能か?」

 と訊いてみた。


 俺は何となく、俺達全員で赴いた方がいいと直感的に思ったのだ。


「9名ですか・・・、分かりました! では、4台の車で向かわせます!」


「悪いな。宜しく頼む」


 俺はそう言って受話器を置くと、デバイスを使ってメンバー全員に集合をかけたのだった。


 ---------------


 俺は、事の顛末を一通りみんなには伝えておいた。


 迎えの車が来るまでの間もそうだったが、車の中でも更に詳細に情報を共有しておいた。


 ティアとシーナは既にこの地球上の世界情勢を把握できている様だし、ガイアとテラは世界の経済情報からそうした動きを察知していた。


 イクスとミリカ、ライドとメルスはそうした国際情勢にはあまり触れていなかったみたいだが、それは別に構わない。


 今から向かう首相官邸では、俺達全員の能力を発揮しなければならないかも知れない。


 どれほどのカードを切る事になるかは分からないが、俺達が切れるカードは決して少なくは無い。


 その手段の中から鮫沢がどのカードを切るかを決めれば良い。


 俺達は今のところはあくまでアドバイザーという位置づけでいなければならない。


 俺達が表舞台に出て矢面に立つのは、レプティリアンが姿を現すか、又はラスボスが俺達に立ちはだかった時でありたい。


 そうしている内に、俺達を乗せた車両は新橋を抜けて虎ノ門の交差点まで来た。


 次の交差点を右折すれば首相官邸だ。


 この辺りは普段から制服の警察官が警備に当たっている。


 俺は車内からそれらの警察官に向かって情報津波を試しながら、警察官に扮した工作員が居ないかと探っていた。


 今はまだ午前11時過ぎで、人々の往来も多い。


 この辺りはオフィスビルもいくつか建っており、一般人も沢山いるのだ。


 俺の情報津波はそうした一般人へも向けられ、俺の頭の中は彼らの情報までを拾い集めてしまい、俺の頭はグワングワンと渦巻いていた。


 様々な人々の過去の行動や接した人、物、場所の情報が渦巻く中から「工作員に関する情報」だけを探し出すのは、広大な砂漠に落とした指輪を探し出す様な作業だ。


 しかし、砂しか無い砂漠の中で、指輪は確かに異質な輝きを放ち、決して見つけられない物でも無いのだ。


 俺はズキズキと痛み始める頭を両手で抱えながら、目を凝らして車窓から見える人々全てに視線を送り、情報津波を試して行くのだった。


 俺は助手席に乗っていたが、俺のそんな様子を後部座席のティアとシーナが心配そうに見ている。


 しかし、俺はここに来る前に、もし俺が苦しそうでも、決して声をかけるなと伝えてあった。


 そんな中、ふと俺の頭の中に違和感のある情報が流れ込んできた。


 それはライフル銃による暗殺のイメージ。


 ターゲットは鮫沢。


「どこだ!?」


 俺は違和感のある情報を得た者が何処にいるかを突き止める為、もう一度過ぎた景色を振り返りながら窓から視線をグルリと回し、そして交差点の角に建つ10階建のビルの8階部分の窓にソレを見つけた。


「居た!」


 俺は声を上げてティア達にデバイスで情報を送る。


 ティアとシーナは即座に後部座席の窓を開けて、俺が送った情報の通りのビルの窓に映る人影に向かってレールガンの照準を合わせる。


 シュン!


 と、まるでロケット花火が横切って行く様な音が聞こえたかと思うと、レールガンから放たれた弾丸は目標のビルの窓を打ち抜き、窓際の人影がその場に倒れたのか、姿が見えなくなった。


 レールガンを打ったティアとシーナはすぐに後部座席の窓を閉め、何事も無かった様に座席に身を預けた。


「よくやった」


 と俺はティアとシーナにそう言うと、強く目を瞑って、まだズキズキと痛む頭を両手で何度もマッサージした。


 車の運転手は、

「な、何があったんですか?」

 と俺達の動きの意味が分からず困惑している様だったが、

「気にするな。必要な仕事をひとつ片付けただけだ」


 ティアが作ったレールガンの弾丸は、直進する力が強い。


 この角度で撃てば、ガラスを貫通して工作員を貫き、もしかしたら部屋の天井を貫いて、天井裏の配管などを傷つけているかも知れない。


 もしそれが消防設備だとしたら、非常ベルが鳴って緊急車両が集まり、他のスナイパーが居る場合に検索が難しくなる。


 俺はそんな心配をしていたが、幸いそのビルから非常ベルが鳴り響く事は無かった。


 俺達を乗せた車はそのまま交差点を右折し、首相官邸に向かう門を通ろうとしたところで、更に警察官の検問に合う。


 俺はここでも情報津波を利用しながら警察官の情報を得ていたが、怪しい人間が居る様には見えなかった。


「ショーエン様ご一行ですね。鮫沢首相や他の大臣が会議室でお待ちになられています。どうぞお急ぎ下さい」


 検問をしてきた警察官はそう言い、車両はそのまま首相官邸の駐車場へと入って行く。


 駐車場は、SPが要人を防御しやすい様に周囲からは隠れたところにあり、壁面や天井にも人が隠れるところなど無い。


 車両が停車すると、SP達によって後部座席の扉が開けられ、俺達が官邸に入るまでをサポートしてくれる。


 俺は念のために駐車場で控えているSP達にも情報津波を使っていたが、ここにも怪しい人間は居なかった。


 俺達が首相官邸の会議室に通された時、俺は会議室に居た面々を一通り見渡した。


 一番奥に居るのは総理大臣の鮫沢だ。


 その隣に副大臣の小林。


 そして手前には防衛大臣の遠藤えんどう、外務大事の鱗金うろかねと続き、一番手前には大蔵大臣の竹上たけがみが座っていた。


 俺達はその向かいの席に9名が並んで座った。


「揃いましたな」

 と鮫沢が言って俺達を見回している最中も、俺は閣僚達に情報津波を使っていた。


 ここまで情報津波を使い続けたのは久々だが、これくらいの用心はしておかなければならない。


 俺の様子がおかしいのは鮫沢も気付いているかも知れないが、ティアとシーナが「心配ない」と言って俺を支えているので誰も何も言わなかった。


 そして俺が一通り情報津波を試した最後の一人、竹上たけがみの情報を得たところで違和感のある情報が頭に流れ込んで来た。


 竹上昇たけがみのぼる、大蔵大臣に就任して衆議院議員を4期務めるベテラン。

 中曽路なかそじ大臣の頃より大蔵大臣を務め、諸外国からは日本の金庫番と呼ばれる様になる。

 しかし、中曽路なかそじがニューヨークで殺害された事件をきっかけに身の回りに不穏な出来事が増え、ある日35歳になる娘と11歳になる孫娘が何者かによって誘拐された事を知る。


 娘の自宅には置手紙があり、竹上や一部のCIAコードを見た事がある者だけが分かる文字で「鮫沢の政策に従うな。鮫沢の政策に予算をつけるな。娘達は預かっている」と書かれていた。


 それからの竹上は鮫沢の指示を聞くふりをしながら情報をCIAに横流しし、鮫沢が進める世界戦略の急所ともなり得るタイミングで、今回アメリカ主導の三国同盟が発表された・・・


 なるほど。


 竹上昇たけがみのぼる、お前が裏切者か。


 いや、娘や孫娘を誘拐された事で止むを得なかったのだろうと同情もするが、それでもこの国を売り渡して良い理由にはならない。


「さて、今回のアメリカ主導の三国同盟が発表された件についてだが・・・」

 と鮫沢が会議を始めようとした。

 俺は咄嗟に手を挙げてそれを制し、

「ちょっと待ってくれ、鮫澤首相。まず、今回の三国同盟が起こる発端について、話をさせてくれ」

 と言った。


「ショーエン様、三国同盟が起きた理由をご存じという事ですか?」


「ご存じな訳じゃないんだ。俺に分かるのは、そこに居る竹上昇が日本を売った裏切者だという事だけだ」


 俺の声に竹上が驚いて立ち上がる。


「な、何を言うんだ! 日本を売っただなどと・・・、何を根拠にそんな・・・」


 取り乱して声を荒げた竹上だったが、興奮し過ぎているのか、言葉が思う様に出て来ない様だった。


「何を根拠にそうおっしゃるのです?」


 と今度は冷静な声で、鮫沢が俺に訊いた。


 俺は鮫沢をチラリと見てから他の閣僚を見渡し、


「この中で、家族や親類を誰かに誘拐されている者はいるか?」


 と訊いてみたが、誰も手を挙げようとしない。


「では、シーナ。絶対に嘘を見抜ける機器があったと思うが、それを起動してくれるか?」


「了解なのです」


 とシーナは、俺達がいつも使っている、何でも無い小型中継器をテーブルに置き、俺の合図で音が鳴る様にセットして準備させた。


「この機器はそいつが嘘をついていると音が鳴る。これから俺の質問には全て『いいえ』で応えるがいい」


「もう一度訊く、小林から順にだ」

 と俺はそう言いながら情報津波を使っていた。


 先ほども情報津波を使っていたが、こうして検索する情報を絞り込む事で、随分と俺の負担が楽になる。


「お前の家族や親類を誰かに誘拐された事はあるか?」


「いいえ」


 小林はそう答えたが、彼らが嘘発見器と思っている機器は何も音を立てない。


 もちろん俺の情報津波でもそうした情報は現れなかった。


 次に防衛大臣の遠藤にも同じ事を試したが何も起こらず、更に外務大臣の鱗金うろかねに同じ事をすると、微かな違和感が頭の中にあった。


 情報津波によると、鱗金は家族を誘拐された等の経験は無いが、アメリカでエリア51とは別の地下施設を案内された事があり、そこでレプティリアンと遭遇している様だった。


 そこではレプティリアンから数本の注射を打たれ、それが遺伝子を改変する薬だと聞かされた。そして、アメリカが外交的な提案をする時には全て賛成に回る様にと圧力もかけられている様だった。


「お前は外務大臣だからな。もう少し質問を変えた方がいいかもしれないな」

 と俺はそう言うと「お前はレプティリアンに注射を打たれた事があるか?」


「い、いいえ!」

 と鱗金が答えた途端に中継器からビビビビ!と音が鳴りだす。


「ほほう、レプティリアンから注射を打たれたのか。そして、その注射によってお前はレプティリアンの命令に逆らうと死に至る病気になると言われているな?」


「い、いいえ!」

 と鱗金が答えると、またビビビビ!と音が鳴りだす。


「鮫沢首相、今回の直接的な原因では無いが、この男も更迭こうてつした方がいい」

 と俺は鮫沢にそう言い、鮫沢は頷いて竹上の番を待った。


「次はお前だな、竹上」


 と俺は「お前は家族を誘拐されてCIAの命令に従って情報を漏洩してきたな?」


「いいえ! やってません!」

 と竹上は大声で叫んだが、ビビビビ!とけたたましくなるブザーの音が掻き消える事は無かった。


「鮫沢さん。そういうことだ。事が済むまで、この二人は地下牢にでも入れておくといい」

 と俺が言うと、鮫沢は頷きながらSPを呼んで二人を地下にある牢屋へと連れて行った。


 結局はこういう事だ。


 この地球の政治というのは、全てが利己的で自己保身的で、強欲で傲慢。


 プレデス星で禁止されてきた全ての事がこの地球の人類を蝕んでおり、それはまるで毒も薬も混ぜて煮込んだドロドロのシチューの様な混沌カオスを感じさせた。


 その混沌の軸に居るのはレプティリアンによる恐怖政治であり、その手下にあたるアメリカ政府による恐怖外交であり、その仕事を実践する為の報酬であり、それでしか報酬を得られない社会構造であり、それを作った人類のエゴであり、エゴが作った金融システムであり、金融システムを動かす為の嘘であり・・・・・・・・・


 そうした答えの出ない混沌の中で人類は数十年を生きており、力ある者による圧力の中で生きていく為の知恵が、彼らに従属して共に悪事を働く事だったのだろう。


 悪魔は悪事を働く仲間を増やして悪魔の帝国を築き、気が付けば悪魔の帝国こそが正義であり悪事こそが正義の行いと信じられる社会になる。


 それが今始まりだしたところだったのだろう。


 政治の中枢にまで奴らの工作員は入り込んでいるし、閣僚の中にまでその影響は及んでいた。


 だが、今なら止められる。


 鮫沢首相の国民からの信頼が厚い今だからこそだ。


 この世はスキャンダル一つで国会議員の人生など簡単に覆ってしまう。


 特に女がらみの猥褻行為わいせつこういなどをでっち上げれば、メディアはあっという間に食いつくだろう。


 しかし、今回はそうさせない布石を打っている。


 テレビのCM枠の大半を、俺達の企業が買い占めている事だ。


 メディアは下手な報道は出来ない筈だ。


 俺達が不快になる報道をした場合は、俺達が全てのCMスポンサーから降りると通達したからだ。


 ギリギリ持ちこたえるだけの施策は打てている筈だ。


 俺達の事業で「衣食住」の分野は全ての国民に良質なサービスを提供できている筈だ。


 次に外交を左右するのは「資源、技術、通信、メディア」等で、これらも俺達が概ね押さえている。


 とにかく、前世の日本はこれら全てが外資に牛耳られていたのだ。


 その教訓を経て今回の俺は、その全てに対応してきた筈なのだ。


 だから海外の諜報員スパイがいくら日本を好き勝手に食い漁っても、核心に迫る俺達の技術は誰にも掴ませていない。


 そうだ。


 この三国同盟をもってしても切り崩せない国「日本」を、今こそ見せつけてやらねばならない。


「という訳で原因に関する問題は解決したが、対策の方について話そうと思うが良いか?」


「宜しくお願い致します」


 微動だにしない鮫沢と俺達の姿に、もう他の閣僚も従う事しか出来ない様だった。


「よし、ではこれから日本を救う手段について説明する」


 俺は閣僚達を席に着かせ、ティアが作ったプロジェクターで俺のイメージを壁面に投影させる事にした。


「これは・・・、映写機ですな?」

 と興味深げに訊く閣僚を

「技術は違うが似た様なもんだ」

 と軽くあしらいながら、


「改めて、この日本を救う手段について手順と詳細を説明するぞ。一度しか言わないから聞き漏らすなよ」


 と俺は声を張り上げたのだった。


 ・・・この計画は一種の戦争と言えるかも知れない。


 しかし、第三次世界大戦の様な民衆を苦しめる戦争では無い。


 政治家が政治的に命のやり取りをする。


 これが本来の戦争の姿では無いのか?


 戦争とは政治の果てにある行為だ。


 その行為が兵器による大量殺戮でなければならない理由等無い筈だ。


 だから教えてやる。


 最小限の兵器で行う「新しい戦争」というものの姿を!


 俺は計画を説明しながら、心の中でそうした闘志を燃やし続けるのだった。

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