学園への帰還
今、俺達はクレア星に向かう宇宙船の準備が整うのを待つ為に、テキル星開拓団基地の中の食堂で時間を潰している。
「それにしても、ガイアさん達も一緒にクレア星に帰るので、本当に良かったんですか?」
とイクスがガイアに話しかけている。
魔境では同じチームとして行動していたからか、いつの間にか仲良くなってたみたいだな。
「勿論だよ。クラオ団長が許可してくれたからね」
とガイアは言いながらテラの肩を抱き「僕達二人が惑星開拓団の部署移動を認められたら、君たちと一緒にガイア星を目指せるだろ?」
とガイアはイクスとミリカの顔を見ている。
「お前ら、いつの間にか仲良しになってたんだな」
と俺が口を挟むと、イクスが笑顔で俺を見て
「はい! ガイアさんとテラさんに、相思相愛の手解きを受けたんですが、これがとても勉強になるんです!」
「なるほど・・・、それはそうだろうな。これからもよく学ぶといいぜ」
と俺は応えておいたが、本当に大丈夫だろうな?
まあ、愛情表現は日本人だった俺よりもアメリカ人だったガイア達の方が分かりやすくていいかも知れない。
それよりもガイア達の部署移動をクラオ団長が認めてくれたのはラッキーだったな。
俺達のガイア星を目指す話も「推薦」という形で学園に報告してくれるらしいし、惑星開拓団の方にもガイア達を俺達のチームに入れる事を前提に部署移動を推薦してくれるらしい。
先ずは学園に戻って俺達が正式に卒業し、惑星開拓団に入団して「ガイア星開拓団」が結成されれば、俺達は晴れてガイア星を目指す事が出来る様になるし、ガイアとテラも俺達の正式なメンバーとして行動できる様になる訳だな。
しっかし、昨日クラオ団長のズッコケを見れたのは貴重な経験だったな。
夢オチなんて漫画でしか見た事無かったけど、まさか俺が夢オチを演出する事になるとはな。
だけど、おかげで俺のガイア星の知識について誰も疑う者は居なくなったし、不思議な夢を見るのは「大いなる存在の
それに、そんな概念が存在するという事は、過去にもそうした事例があったという事の証明でもある訳で。
そして、そうした啓示を受けた人達は、例外なく偉人として名を残す偉業を成し遂げているらしいしな。
つまり、俺も「偉業を成し遂げる存在になるかも知れない」とそう思われたという事だろう。
そして、ガイアとテラに対しても同じ可能性をクラオ団長は感じたという事に他ならない。
まったく、責任重大だな。
そうしているうちに、宇宙船の準備が整った旨の連絡が、デバイスを通して知らされた。
宇宙船は、テキル星に来た時と同じ「アリア号」だという事なので、乗船の仕方は覚えているし、船の中でも困る事は無いだろう。
「クラオ団長ともお別れの挨拶は済ませたし、もう思い残す事は無いな」
と俺は立ち上がり「じゃ、乗船口に行こうぜ」
とみんなを見渡した。
みんなも俺を見て立ち上がり、
「行きましょう」
とティアが俺の右腕に自分の腕を絡めた。
すぐにシーナも俺の左腕に絡みつき
「今回は夫婦用の同じ部屋に入れるのが楽しみなのです」
と言いながらムフフと声に出している。
そうなのだ。
テキル星に来る時は、イクスとミリカは結婚していたので同じ部屋が当てがわれていたが、今回は俺達も夫婦になっているので、一番広い夫婦部屋に入れるらしい。
宇宙船の航行代金はすべて学園が負担しているという事だから、何とも有難い話だ。
通常、惑星開拓団員がどこかの惑星に移住した場合、その星のルールに従って報酬を得なければならないらしいのだが、俺達は特別研修生であって学生の身分という事もあり、更に宇宙船アリア号がクレア星が所有する宇宙船という事もあって、渡航費は学園が支払ってくれる事になっていた。
俺達がテキル星で行った様々な事は、クラオ団長を通して学園にも通知されているらしく、今回はクラオ団長からは非情に良い評価を通知してもらえた様で、クレア星に戻った時には、俺達はクレア星の善行による報酬が、そこそこ多額に貰えるのだそうな。
ただ、ガイアとテラは既にテキル星に移住した者達なので、今回の渡航費は自腹らしい。
ガイアはテキル星でランタンを作ってそこそこ儲けていたみたいだが、テキル星の通貨をクレア星の通貨に換算すると、今回の渡航費は相当な高額になるらしく、ガイア達が溜め込んだ資金の半分近くを持っていかれる様だ。
こりゃ、ガイア達の地球への渡航費は俺達が何とかしなくちゃならないかも知れないな。
「いつ見ても大きいわね」
とティアが、窓から見える宇宙船アリア号を眺めながら
「テキル星に居た時は、重力に耐えられる規模の物しか見て来なかったから、宇宙船が余計に大きく見えるのです」
「ああ、本当にそうだな。宇宙ってのは、それだけ広大って事だよな」
俺はシーナの言葉に相槌を打ちながら、宇宙船乗り場へと続く無重力の通路を、壁面のレバーに引っ張られながら進んで行った。
やがて見覚えのあるハッチが見えて来た。
あのハッチを潜れば、艦内だ。
艦内を潜ると、前にも見た通りにスタッフ用の居住エリアを通った。
その先には重力調整ポッドがふたつあり、俺は左のポッドに通された。
「クレア星の重力と同等の重力になるんだろな」
と俺が思った通り、無重力で浮かんでいた俺の身体が重力によって床に沈んだ。
しばらくテキル星の重力で生活していたせいか、クレア星の重力は随分と重く感じる。
「倍程度の重力とはいえ、けっこうずっしり来るもんだな」
テキル星でも筋トレはしていたが、やはり重力装置が無いのは俺にとっては物足りなかったもんな。
やがてポッドの前面の扉が開いて、俺は扉の先へと進んだ。
扉を超えると、テキル星に似せた商店街があり、突き当りの扉を超えた先に俺達の居住空間がある。
俺達の部屋は一番奥の扉だった。
隣にイクスとミリカ夫婦の部屋がある。
ガイアとテラもこの世界では兄妹なので、イクス達の向かいにある家族部屋をあてがわれていた。
少し離れたところにライドとメルスが個室で生活する事になるようだ。
俺達が部屋に入ると、中は広いリビングと天井が低い寝室に分かれていた。
寝室は4人くらいが横並びに眠れそうな広さだ。
リビングはテーブルやソファ等もあり、なるほど家族で過ごす空間としては充分に見える。
「このソファなら3人並んで座れそうだな」
と俺が言うと、ティアとシーナは荷物を部屋の隅に置いてソファの両端に座った。
そしてシーナが笑顔で真ん中の空いた席のクッションをポンポンと叩いて俺を手招きしている。
はいはい、分かってますよ。
俺はキャリートレーをティア達のものと同じ部屋の隅に置き、ソファの真ん中の席にドスンと腰を下ろした。
背もたれはやや硬めだが、程よくクッション材が入っていて座り心地は悪くない。
ソファに座ると前面には大きな壁があるが、その壁全体がモニターになっていて、俺がデバイスで操作すると、宇宙空間を映しだす窓の様になった。
「しばらく、宇宙でも眺めていよう」
と俺は言いながらモニターに映る宇宙空間を見つめていた。
ここから体感時間で2週間ちょっと。
光速航行だから、現地時間では5か月が経過する。
俺達がクレア星に戻った時には、俺達は全員が18歳で3年生だ。
また週末にみんなで集まって、残り1年の学園生活を楽しみながら、卒業に向けて試験勉強なんかもしなくちゃな。
なんだか、夏休みが明ける前の学生になった気分だぜ。
テキル星での生活は、今思えばまるで夢の世界での出来事の様にも感じる。
時間が過ぎてみれば「あっという間だったな」と感じるのは、どこの世界でも同じなんだな。
その時、艦内アナウンスが流れだした。
「乗船された皆様にお知らせします。本船は、間もなくハッチを閉じ、出発のプロセスに入ります。本船は出航後、クレア星への進路を取ります。11分30秒後に安定軌道に入ります。安定軌道に入ってから、16分02秒後に光速航行に移行します。クレア星への到着は、体感時間で15日と1時間17分後となります。出航まで残り8分12秒です。出航後、光速航行に入るまでは、デバイスの誘導に従い、各居室内に滞在して下さい。ベッドを使用の場合は、念のためベルトにて身体を固定してください」
相変わらず、サービス精神に欠ける艦内放送だな。
だけど、それも仕方が無い事なんだろう。
何せ俺達は「個として尊重される人格」とは見られていない訳だからな。
あくまで「優良な遺伝子」という扱いなだけで、いわば「商品」な訳だ。
ただ、俺達が誰にとっての商品なのかがまだ不明瞭だ。
おそらくそれが判明した時、俺が出会った「あの本」の謎が解けるという事なのだろうな。
「乗客の皆さまにお知らせします。本船の出航プロセスが完了しました。間もなく出航します」
という艦内放送が流れた。
「光速航行までは30分くらいあるのです。光速航行になったら、3人であのベッドで昼寝がしたいのです」
シーナが早速、家族部屋の特権を行使しようとしている様だ。
「ティアはそれでいいのか?」
と俺がティアの方を見ると、ティアも少し頬を赤らめながら頷いている。
「そうか。じゃあ、そうしよう」
と俺が言うと、ティアとシーナの二人は俺の肩に頭をもたれさせて目を瞑った。
俺は二人の頭の熱と重さを感じながら、モニターに映る宇宙空間をずっと眺めていたのだった。
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アリア号の中での生活は、テキル星に向かう時とは違って各自の自由行動としていた。
夏休み最後の2週間を満喫するって感じだ。
普通のプレデス星人なら、ただ生きる為に生活をするんだろうが、テキル星で「人間らしい感情」が育まれた俺達メンバーは、前世の地球で見た学生達の夏休みの様に楽しそうにはしゃいでいる。
商店街では土産物でも探している様な素振りで商品を眺めているガイアとテラ。
テキル星に向かう時にはあまり艦内を楽しめなかったらしく、レストランでも色々な店を試している様だ。
そして、きっと話が尽きないのだろう、おしどり夫婦のイクスとミリカは、カフェでお茶を飲みながら一日を過ごす事が多い。
食事とオシャレが大好きな二人らしくていいと思う。
ライドとメルスは相変わらず二人で本を読み耽っているみたいだが、クレア星に帰ったら、あいつらにもちゃんとラブコメさせてやんないとな。
このまま放っておいたら、男同士でどうにかなっちゃいそうだもんな。
2週間はあっという間に過ぎ、今夜にはクレア星に到着する予定だ。
先ほどまで俺とティアとシーナの3人は商店街のレストランで夕食を摂り、丁度今しがた自室に戻ったところだ。
俺達が部屋に戻ってソファに座った時、
「この船は、3分後に光速航行から通常航行に入ります」
というアナウンスが聞こえた。
「なんだ、もうそんな時間か。そろそろ下船準備もしておかないとな」
と俺は言ったが、実は荷物も増えていないし、大してする事も無さそうだった。
「通常航行に入ります」
というアナウンスが聞こえ、俺は壁面のモニターの電源を入れた。
モニターは最初、青白い光を放っていて、あまりの眩しさに目を逸らしたが、徐々に黄色い光に変わってゆき、やがて少しずつ光が消えていくのが、目を
「クレア星宇宙ステーションへの到着まで、残り29分45秒です」
というアナウンスが聞こえ、俺はモニターの景色を見てみた。
テキル星に到着する時と同じ様に、ものすごい速度で星が流れていくのが見える。
クレア星の学園がある地域の時刻はもう夜中になるはずだから、俺達が学園の寮に戻る事が出来るのはもしかしたら早朝かも知れない。
出発の時も同じ宇宙ステーションだったが、到着するのが宇宙ステーションの到着専用エリアという事なので、もしかしたら別の宿泊施設に誘導される可能性もあるな。
宇宙ステーションは学園がある都市からは少し離れているし、俺達がまだ知らないクレア星を知るには丁度良い機会かもしれないぜ。
「見えて来たわ」
とティアがモニターの景色を見ながら口にした。
俺もモニターを見てみると、うっすらとクレア星の
ただ、クレア星には見覚えのある街の光が点在していた。
「あの光が集まってるところが学園のある街だよな」
と俺が言うと、シーナが頷いて
「一番明るい所が学園のある所なのです」
と付け足した。
宇宙船アリア号はゆっくりと進行方向をクレア星に向けていく。
やがてモニターからはクレア星の姿は見えなくなったが、俺達がクレア星を飛び立つ時に宇宙ステーションの窓から見えた景色に似た景色が見えていた。
それから20分は経っただろうか、どこか遠くで地響きの様な音が聞こえたかと思うと、モニターから見える景色がピタリと止まるのが分かった。
「クレア星、宇宙ステーションへのドッキングが完了しました。乗客の皆様は、デバイスの誘導に従い、120分以内に下船願います」
アナウンスが終わるや否や、デバイスから下船誘導の通知が来た。
俺達はキャリートレーに荷物を載せ、靴を履いて部屋を出る事にしたのだった。
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「今日の宿はここか」
俺の目の前には、初めてクレア星に来た時に宿泊したのと同じ様な宿泊施設があった。
アリア号には俺達9人の他には3人しか乗客は居なかった様で、惑星開拓団の任期を終えた者達が一旦クレア星に帰るタイミングだったようだ。
あれだけ大きな宇宙船なのに、それだけしか乗客が居ないってのは経営的にどうなんだろうな。
まあ、経営って概念も地球と比べる事は出来ない様な仕組みだから、俺がそんな事考えても仕方が無いのかも知れないけどな。
宿泊施設のエントランスロビーでデバイスに誘導されるままに宿泊手続きを行ったが、部屋は12人部屋が全て一人用個室で準備されていて、俺とティアやシーナも一人部屋へと通された。
ティアやシーナ、イクスやミリカもこれには不満がある様だったが、そもそもクレア星もプレデス星と同じで、人間同士の交流が淡白な世界だから、こういう仕組みでも仕方が無い。
だいたい、俺はこういう世界が退屈だったから他の惑星に移住したくて惑星開拓団を目指した訳で。
「さっさと学園を卒業してガイア星を目指せば、また俺達は一緒に行動できるんだから、もうしばらくの我慢だぞ」
と俺はみんなをそう
その日は久々に一人でベッドに着く事になった訳だが、宇宙船と同じくクレア星の宿のベッドには睡眠誘導装置が備わっているので、体内時計のリズムがどうであろうと、俺達はグッスリと熟睡する事ができた。
翌朝もスッキリ目覚め、俺達が宿泊施設のエントランスロビーで学園行きのバスを待っている間も、みんな驚くほどにスッキリした表情をしていた。
「睡眠の質がいかに大切かという事が、他の惑星での生活を経験すると、よく解りますね」
とメルスがそう言ったのを聞いて、みんなは共感した様に頷いている。
「学園でショーエンさんがパジャマを作ろうと言った時にはおぼろげだった私の理解も、こうして体感すると、パジャマの効果を深く理解できますね」
とミリカも新しい発見を喜んでいる様だ。
「しかし、他の宿泊客が動く歩道を使っていたのに、私達は自分の脚で歩く事に慣れてしまっていて、ちょっと変な感じでしたね」
とメルスも感じた事があった様だ。
便利な世の中に慣れきってしまうと、人間というのは退化していくものだ。
プレデス星に住み続けていれば、こいつらはこんな事に気付く事も無かっただろう。
テキル星での経験は、みんなにとっても本当に良い経験となった事は間違い無いな。
そしてこれから目指すガイア星。
俺の魂の故郷でもある「地球」を目指す事になるこれからの事を考えれば、テキル星での経験は必要不可欠だったと思うし、役立つ発見が沢山あったに違いない。
「バスが来たようなのです」
シーナがそういう前に、俺達みんなのデバイスにバスの到着が知らされていた。
「さて、行くか」
と俺が立ち上がると、みんなも「はい!」と返事をして立ち上がり、エントランスの扉を潜って宿泊施設を出たのだった。
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「学園前に到着しました」
というバスの案内が聞こえる前から、学園の敷地を囲む長い塀を車窓から見ていた俺達は下車の準備を整えていた。
俺達はバスが停止するなり席と立ち、バスの扉が開くと同時にバスを降りて学園の敷地に入る門へと歩いた。
「帰って来たな!」
と俺が声を上げると、みんなも背筋を伸ばして学園敷地内の巨大な建物を見上げて頷いた。
「何だか懐かしい気もしますが、またここで、残りの学園生活を送る事になるんですよね」
とイクスが言ったが、シーナが俺の左腕に絡みつきながら
「だけど私達が学園で学べる事など、それほど多くは無いのです」
と言って俺の顔を見て「もう一度学園長に会って、早々に卒業させてもらうのがいいかも知れないのです」
と付け加えた。
「おう、実は俺もそれを考えていたんだ」
俺はシーナの言葉にそう応えたが、本当にそうだ。
そもそも俺達が特別研修生としてテキル星に行く事になった理由も、俺達が学園の教官が教えられるレベルを超えてしまった事だったはずだ。
となると、学園に戻って来たところで、残り1年を勉学に勤しむってのも少し違う様な気がしていたんだよな。
テキル星に来る前、学園長からは3つの選択肢を準備されていた。
ひとつは繰り上げて学園を卒業し、惑星開拓団への正式入団を行う事。
2つ目が学園の教官となって後進を育てる事。
そして3つ目が特別研修生としてテキル星に行く事だった。
俺の我儘で、3つ目の選択肢を俺達は選んだが、そもそも学園に帰って来たところでこれ以上学べる事が少ないとなると、今後は学園に貢献するか、又は惑星開拓団に貢献するかの2択になる筈だ。
これまでの経験から得た知識も踏まえると、惑星開拓団に入団し、更にガイア星を目指す事が俺達にとって最も良い選択肢の筈だ。
となると、ここは学園長と交渉し、出来るだけ早くガイア星を目指せる様にしたい所だ。
「さ、先ずは学園長に帰還の報告だ。その後は寮の食堂でメシでも食いながら、次の計画を練ろうぜ!」
俺はそう言うと、学園の門をくぐって教官が集まる建物の方へと歩き出したのだった。
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「おい! 僕達の英雄のご帰還だぞ!」
「ああ、メルス様がいるわ!」
「ティア様~! 本当にショーエンと結婚してしまったんですか~!」
「シーナちゃ~ん! こっち向いて~!」
「ショーエンのあのすごい衣装は何だ? あれもミリカさんの作品か?」
「イクス様よ! 食堂に奇跡を起こしたイクス様がいるわよ!」
「ライド様~! 私と結婚して下さい~!」
「おい!ショーエンがティア様とシーナちゃんの二人と結婚したって本当か?」
「そうらしいぞ。テキル星っていう重婚がある星に行ったのはその為か!」
「それに新しいメンバーも加わっているみたいだぞ?」
「本当だ、どうやって取り入ったんだ?」
「あの女を貢いで入れてもらったに違いない」
「ショーエンの奴、許せない・・・」
「ショーエンのやろぉ・・・」
「だけどショーエンを怒らせると、ティア様やシーナちゃんに無視されるらしいぞ」
「マジか~・・・」
「マジらしいぞ」
「くそ~・・・、ショーエンの奴・・・」
「くそ~・・・、ショーエンめ・・・」
「まったくウルサイ連中なのです」
とシーナは通信傍受の玉の電源を落としてしまった。
食堂には数人の惑星開拓団員と、20人位の学生が居たのだが、みんながミリカの作った制服を着用していて、青、緑、白、赤の4色の制服を着た生徒が入り混じっていた。
そして俺達が食堂に入る姿を見つけて、学生達が俺達を遠巻きに眺めなていたので、俺がシーナに通信傍受を頼んだのだった。
「ショーエンがどれだけ凄いかも理解できないなんて、話す価値も無いのです」
とシーナは不満そうに頬をふくらませている。
「シーナのほっぺは可愛いな」
と俺がシーナのほっぺを指でつつくと、シーナはぷふっと口から空気を洩れさせ、俺を見て
「でへへへ」
と今まで聞いた事の無い様な声でデレ笑いをしながら頭を掻いていた。
「で、今後の方針についてなんだけどな・・・」
と俺は言いながらみんなの顔を見回した。
俺達がガイアに行きたいという話は、既にクラオ団長から学園長の耳に届いていた様で、俺達が帰還するまでの間に教官たちや惑星開拓団の幹部達の間で協議が行われていたそうだ。
その結果、俺達は「特別卒業生」として取り扱われる事になったそうで、2つの選択肢を与えられたのだった。
1つ目は、惑星開拓団への正式入団を行い、惑星開拓団の一員としてガイア星を目指すというもの。
この場合は惑星開拓団が全面的にバックアップをしてくれるらしい。
2つ目は、惑星開拓団とは別に「ガイア星開拓団」を俺がリーダーとして組織し、惑星開拓団からはテラまでの渡航のみを提供され、あとは俺達が独自にガイアを目指すというものだった。
惑星開拓団に入団すれば様々なサポートは得られるが、ガイア星での行動は、テラでガイア星調査団に任命されなければならない上に行動にも制限が設けられる。
一方、ガイア星開拓団を新たに創設する場合は、行動の自由がある代わりに、テラやガイアでの生活も含め、惑星開拓団のサポートは得られないというものだ。
「学園長の提案だが、お前達の望みはどちらだ?」
と俺がみんなの顔を見渡しながらそう訊くと、みんなはまるで当然だとでもいう様に
「勿論、ガイア星開拓団の創設が希望です」
と答えた。
「ショーエン以外がリーダーの組織になんて興味は無いのです」
「やっぱりリーダーはショーエンじゃないと、これまで私達を導いてくれた人だしね」
シーナとティアは想定していた通りの答えだったが、他のメンバーも
「勿論ショーエンさんがリーダーの組織に属しますよ!」
という事の様で、ガイアとテラもそれらの意見に賛成らしい。
「そうか、じゃあ決定だな。俺も行動の自由が欲しいから、選択肢は最初から一つしか無かった。みんなも同じ気持ちでいるなら、迷う必要などどこにも無い」
俺はそう言って立ち上がり、
「じゃ、さっそく学園長に返事をして来よう!」
と声に出して言ったのだった。
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「クレア星惑星開拓団が発足する新たな組織、ガイア星開拓団の創設を宣言する」
と学園長が惑星開拓団に関連する施設全ての放送設備を使って放送を流した。
それは俺がリーダーとなって、地球を目指す為の新たな組織が創設された記念すべき日だった。
しかし、学園側はそんな俺の選択を「事前に判っていた」とでも言う様に、組織の設立から宇宙船の準備まで、様々な準備が既に整っていた。
そういう事か。
俺達は期待されているんだな。
しかも、これまでにない規模の期待を背負う事になる。
だけど気にする事は無い。
俺が目指す世界は、きっと皆が幸せな世界だ。
だから誰がどんな期待を寄せようと関係無い。
俺は俺が目指す世界を、この手で作るだけだ。
俺が満足する世界は、皆にとっても満足できる世界の筈。
傲慢な考えかも知れないが、俺はそう信じて突き進む。
俺の魂の故郷は地球だ。
誰かによって汚された故郷を、俺が綺麗にしてやるぞ!
その日、俺達9名は「ガイア星開拓団」として正式に紹介され、2週間後にクレア星を出発する事が決まったのだった。
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