学園生活(11)最後の休日
長期休暇が今日で終わる。
明日からはまた授業が始まる訳だ。
それにしても、この2週間は色々な事があった。
まずは、俺がティアと恋人同士になった事は皆が知っての通りだ。
そしてシーナが成人し、ティアと並んで俺の婚約者を自称しだした。
そこで俺達3人は話し合い、とりあえず3人は恋人同士を公認し合う関係という事になった。
そして、結婚については「両方が平等に結婚できる法を整備するか、そうした法がある惑星に移住してから」という事になり、おかげでティアとの結婚をクレア星でしておこうと
で、それとは別に、イクスとミリカが3日前に結婚した。
俺が施した性教育の成果か、どうやら早く繁殖行為に至りたいとの気持ちが二人の間にあったようで、まさかの電撃結婚となった訳だ。
これには驚いた。
まさか俺より先に子作り活動が出来るようになるなんてな。
でもまぁ、喜ばしい話なので、俺は心からのお祝いを言っておいた。
あと、俺の中で大きなイベントの一つとなったのが、メルスとライドが人力飛行機の試作機を完成させた事だ。
先週の成果発表の場で、実際に研究所で飛行実験をしてみた訳だが、これがとんでもなく素晴らしい完成度だった。
二人乗りのシートが設置されていて、二人のうちのどちらかが足でペダルを漕いでプロペラを回し、ハンドルとレバーで翼の操作をすれば推力と揚力を得て空を飛べる仕組なのだが、実際にペダルを足で漕いでみて思ったのは、力が無くても簡単にプロペラを回す事ができて、操作も簡単という事だ。
上空に行けば気温が下がるので、あとは操縦席の風雨対策ができれば完璧と言っていいだろう。
テスト飛行の時間は2時間程度だったが、機体の状態は良好だし、機体の姿勢制御は自動なので、パイロットが特別な技術を要する事も無い。
この機体があれば、新たな惑星で生活する時の交通手段としては申し分無いだろう。
弱点があるとすれば、離着陸用に滑走路が必要になる事くらいだが、将来的にはこれを海上で離着陸出来るように出来ればいいなと思っている。
そして今週の大きなイベントはもう一つあって、イクスがとうとう俺が望む調味料を全て完成させてくれた事だ。
調味料の基本の「さしすせそ」。
いわゆる「砂糖、塩、酢、醤油、味噌」の5大調味料が完成したのだ。
他にも最初の方にイクスが作ってくれた「植物油」があったので、俺は「卵、酢、油」を混ぜて作ったマヨネーズのレシピをイクスに伝えておいた。
この星には数種類のスパイスが既にあり、それらは保存食の味付けにも使われていたが、そうしたスパイスをうまく調合する事で、いつかはカレーとかお好み焼き用のソースとかも作れればと思っている。
とはいえ、醤油が出来たおかげで、ここから派生する様々なソースを作って、この世界に広めていく事ができるだろう。
そして、先ほどデバイスで得た情報によると、俺達が着ている衣装が、正式にこの学校の制服として認可された様だ。
2週間の休暇中も、どうやら教官たちは仕事をしていたんだな。
定期試験の成績を評価すれば、衣装を着る事によって生まれるピグマリオン効果に疑いの余地は無かった事だろう。
勿論、衣装を着るだけで頭が良くなるなんて事は無いのだが、その衣装がステータスシンボルとなる事で、その衣装を着ている自分自身のレベルを「その衣装の格に合わせなければならない」と無意識に考える様になるという訳だ。
という感じで、この2週間に起こった大きなイベントはこれくらいなのだが、今日は連休の最終日という事もあり、ティアとシーナの熱烈な要望で、俺達3人で、また街に出る事になったのだ。
俺とのスキンシップにもずいぶんと慣れてきたティアとシーナは、学生寮の廊下でも食堂でも俺にくっついているので、とうとう他の学生達もスキンシップについて本気で考えだしている様子だった。
イクスとミリカが結婚した事は他の学生にも周知されているようで、俺が進めてきた「学園ラブコメ化プロジェクト」の効果は徐々に学園に浸透しつつあるのかも知れない。
そんな事を考えながら、俺はいつも通りに衣装を着て、ティアとシーナと約束していた通りに午前9時にはエントランスに到着した。
ティアとシーナは既にエントランスで待っていて、二人は手を繋いで俺を待っていた。
そう、ティアとシーナもスキンシップをするようになって、お互いの仲は更に良くなっていると思う。
ティアがお姉さんでシーナが妹みたいな雰囲気だが、2週間前まではまるで親子の様に感じていたので、これはシーナの成長の証でもあるのだろう。
俺は二人に手を振って「おはよう」と声を掛けた。
二人も手を振って「おはよう」と返してくる。
「よし、じゃあ行くか!」
と俺が二人の方に両手を伸ばすと、ティアが俺の右手を掴み、シーナが左腕に飛びつく様に抱き着いて来るのだった。
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俺達3人は、以前にも来た「惑星疑似体験センター」に来ていた。
「ねえ、ショーエン。今度はどこの部屋に入ってみる?」
とティアが俺の右手を握りながら笑顔でそう言った。
「今度は重力の軽い星にも行って見たいのです」
とシーナも俺の左腕に絡みつきながら、俺の顔を見る。
「そうだなぁ・・・」
と俺は空いている部屋の前に来て、扉の表示を確認してみた。
扉には「重力比0.501~0.800」と表示されていて、惑星の種類は300種類以上ある様だった。
前回来た時には気付かなかったが、よく見ると表示にはタグが付いていて、「重力比」の他に「人口数」という検索条件があった。
俺が「人口数」のタグを選択すると「10万人未満」「10万人~1000万人未満」「1000万人~1億人未満」「1億人~10億人未満」「10億人以上」の5つが選択出来る様だ。
俺は地球の人口について考えていた。
第三次世界大戦が終わって10年、確か世界の人口は90億人くらいになっていたと思う。
世界大戦で先進国の人口が大きく減少した代わりに、発展途上国の人口が大きく増加し、結果的に大戦後10年で世界人口は戦前よりも増加してたんだよな。
俺は「10億人以上」のタグを選択した。
すると表示は惑星の種類を3つまで絞り込んだ。
そこには「ガイア星・テキル星・ユポ星」の3つが表示されていて、それぞれの人口と重力比が表示されていた。
ガイア星:人口88億人 重力比0.551
テキル星:人口25億人 重力比0.604
ユポ星 :人口16億人 重力比0.784
俺は、ガイアという星の名と人口数を見て、心臓の鼓動が高鳴るのが分かった。
ガイア・・・ これは地球の事じゃ無いのか?
俺がじっと表示を見ていると、ティアが心配そうに
「ショーエン?」
と俺の顔を覗き込んできた。俺はティアの顔を見て笑顔になり
「ああ、いや。 ちょっと気になる惑星の名前が出てきたもんでな」
と言って、「このテキル星ってところ、人口数がいい感じだよな」
と適当に思いついたセリフを口にしながら、
「ここにしようぜ」
と言って部屋の中に入った。
部屋の中は20メートル四方の無機質な部屋で、前回に入った部屋と何も変わらない感じだ。
さらに前回同様、入口を入ってすぐ左側に操作パネルがあり、そこには惑星のリストが並んでいる。
俺は少し悩んでから「テキル星」を選択する事にした。
今日はデートなんだ。
ティアとシーナと俺は、惑星の疑似体験を楽しみに来たんだ。
ガイア星について調べるのは、ティア達が居ない時にしよう。
もしガイア星が「地球」だったとして、その情報が俺が思う以上に酷いものだったとしたら、俺は正気でいられる自信が無い。
場合によっては怒り狂ってしまうかも知れない。
そんな姿は、ティア達には見せられない。
ほどなくして部屋は真っ暗になり、やがて宇宙船の艦橋内の景色に変わった。
「この前と同じなのね」
とティアはそう言い、艦橋の窓から見える惑星を指さし「ねぇ、凄く綺麗な星よ」
と言った。
窓から見える星は、青い海と緑の大地のコントラストが映える美しい星だ。
その姿はまるで地球の様にも見えるが、大陸の形は地球とは全く違う。
北極と南極部分の氷に覆われた面積が地球よりも広く見える。
恒星からの距離のせいなのか、はたまた氷河期のような時期に入っているのかは分からないが、温暖で過ごしやすいエリアは限られている様だ。
宇宙船はどんどんとテキル星に近づいてゆき、大気圏に突入した。
前回よりも少し強めの振動があったが、宇宙船は問題なく地上に着陸した。
「テキル星に到着しました。小型艇でテキル星を航行できます」
とのアナウンスがあり、前回同様で俺達の周囲から艦橋の景色が消え、小さなゴンドラの姿に変わった。
周囲は草原だった。空は青く、草原は若草が茂っている。
「テキル星には政府系AIが存在しません。小型艇を自ら操縦して下さい」
これも前回と同じ様だ。
「よし、じゃ、テキル星を探検しようぜ!」
と言って俺はゴンドラの窓を全開にした。
すると心地よい風が吹き抜けてゆく。
「すごい! 気持ちいいね!」
とティアは景色の美しさと風の心地よさに満足している様だ。
シーナも、風で乱れる髪を両手で押さえながら
「ショーエン、あっちに何かあるのです!」
と視界の左側に、50メートルくらいの高さはありそうな建物を発見していた。
「よし、行って見ようぜ」
と俺はゴンドラを操作して、塔の様にそびえ立つ、その建物に向かって移動した。
塔に向かうまでは草原しかなく、塔の右側には城壁の様な壁が続き、左側のすこし離れた所には森林が見えている。
しばらくして塔の
「あれは何なのでしょうか」
とシーナは少し不気味なものでも見る様な目で男達を見ている。ティアは何も言わないが、俺の右腕を強くつかんで離さない。
「あれは、あの塔を守る門番だろうな」
と俺は言い「ちなみに、全身を覆っている金属は、鎧という衣装だ。あれの中身は人間だぜ」
と、未知の生物ではない事を伝えておいた。
「でも、何故あんな重そうな衣装を着ているの?」
とティアは素朴な疑問を持った様だ。
「そうだな・・・」
と俺は少し考えながら「人間の命を奪おうとする、敵が存在するという事だろうな」
と言った。ティアとシーナは驚いた様に
「命を奪うって・・・ まさか人を殺すという事!?」
ティアは「信じられない」といった表情で俺に訊く。
「ああ、そうだ。プレデス星には無かったが、クレア星では俺達は肉を食べる為に動物を飼ってたろ?」
「うん、それがどうしたの?」
とティアは理解できていないようだ。
「つまり、俺達人間を食べる為に殺しに来る何かが居るかも知れないって事だ」
と俺がそう言うと、ティアとシーナは俺の腕を抱く力を強めた。
「なんて恐ろしい・・・」
とティアは声を漏らした。シーナは俺の左腕に顔を埋めている。
そこで俺は、もう一つの可能性を説明するべきか迷っていた。
人間同士が殺し合う「戦争」をするのも騎士の役目だ。
しかし、これはティアやシーナに説明しても良いものだろうか?
明らかに人間の敵と認識できる「人間を食べようとする獣」とは違い、同じ人間同士が殺し合うという事を、ティアやシーナの心は受け止められるだろうか?
俺がそう考えていると、塔の入り口から、神官服の様な衣装を身にまとった男が二人現れ、門番の騎士に何かを話している様だった。
俺達3人は門番に近づいて何を話しているのかを聞き取ろうとしたが、俺達のゴンドラが近づいた時には神官らしき男は門番から離れて、塔の裏に繋がれていた馬に乗って、城壁の方へと向かって行った。
門番は塔の扉を塞ぐ様に立っており、この塔で何かが起こる様子には見えなかった。
「よし、あの男を追ってみよう」
と俺は神官風の男を追ってゴンドラを城壁の方に移動し始めた。
城壁の手前には大きな堀が作られており、城壁の門をくぐる為には、跳ね橋が降ろされている橋を渡るしか方法が無いようだ。
先に城壁に向かった神官風の男は跳ね橋を渡り、門番風の鎧の騎士に何かを話しているところだった。
俺達のゴンドラもすぐに跳ね橋を渡り、門番の元を去った神官風の男に付いていく事にした。
神官風の男は馬を走らせ、城壁内の街の中央通りを駆けてゆく。
街は、これぞ「中世ファンタジー」といった感じの石造りの建物が並び、先ほど見た塔以外には高層建築は見当たらない。
殆どの建物が2階建か3階建で、表通りに面した建物は全て何かの商店の様だった。
神官風の男を追ってしばらく街を奥に進むと、正面に少し大きな建物が現れた。
それは5階建くらいの石造りの建物で、屋根が急こう配に
俺はその建物を見て「教会みたいだな」と思っていたが、先ほどの神官の様な男は、その教会らしき建物の脇で馬を降り、その建物に入っていった。
俺はゴンドラをそのまま教会らしき建物まで寄せて、デバイスで扉を開けてゴンドラを教会の中に進めた。
中はまさしく教会の様だった。
正面中央には長い通路があり、突き当りには龍を
通路の両側には長ベンチが祭壇を囲む様に設置されており、おそらく、日曜学校か集会の様な事をする場所なのだろう。
「ねぇ、ショーエン、あの人は何をしているのでしょう?」
シーナは神官風の男が祭壇の前で膝をついているのを見てそう訊いた。
「あれは、あの石像に向かって祈りを捧げているところだろうな」
「祈り、ですか?」
「ああ、そうだ」
「それはおかしいのです」
とシーナは俺の答えに納得がいっていない様子だ。
「石像に祈っても何も変わらないのです」
と続けるシーナを俺は制止した。
「シーナ、よく見ろ」
と俺は竜の石像を指さし、「あの石像が、何の生き物を模したものか分かるか?」
と訊いた。するとシーナはしばらく石像を見ていたが、「ヘビですか?」
と、確かにそう見えなくも無い答えを導き出した。
「ティアにはあの石像は何に見える?」
と俺はティアにも訊いてみた。
ティアもしばらく考え込んだが
「分からないわ。見た事が無い生き物ね。敢えて言うなら、シーナの言う通り、ヘビが一番近い気もするけど・・・」
と、少し困った様な表情で言った。
俺はティアとシーナの顔を交互に見て、
「あれは、龍だ」
と言った。
「リュウ?」
とティアとシーナが同時に声を上げた。
「そうだ。龍だ」
俺は、あの夢を思い出した。
石像の龍は、まるで巨大な蛇の様な姿で、しかし手足があり、その右手には玉を握っている。
まるで、日本の神話に伝わる龍の様な姿だ。
これと同様の姿をした龍の伝説は、前世の地球では、主にアジア地域に残されていて、中国では大きな建築物を設計する時には1階部分に「龍の通り道」という南北を突き抜けられる間取りで設計していたほど、龍への信仰心が強かった。
日本にも龍の伝説は数多くあり、北海道から九州までで龍神を祭る神社は25社くらいあったはずだ。
そもそも、干支の十二支の中にも龍がいるほどに龍の存在が誰もに認知されていた。
更に西洋でも俺が夢で見たドラゴンに似た竜の伝説が残されており、それは恐ろしい破壊をもたらす生物として神話の中に残されている。
当時の俺は「どうして通信が発達していない時代に世界中で同じ様な竜の伝説が残されているのか」と疑問に感じていたものだが、まさかテキル星にも龍が信仰の対象として認知されているとは思わなかった。
「龍は、人々から絶対的な存在として信仰される伝説上の生き物で、その姿を見た物はごくわずかだと言われている」
と俺は石像を見ながら情報津波を呼び出し、その情報をティアとシーナに語りだした。
巨大なヘビの様な姿をした「龍」と、トカゲに翼が生えた様な姿をした「竜」がいて、どちらも「リュウ」又は「ドラゴン」と呼ばれる強大な力を持った生き物で、5000年を超える寿命と、高い知能を持ち合わせ、人間との会話も可能だという。
「龍」は主に人間を守る「守り神」として信仰され、「竜」は人間を食らう「破壊神」として信仰されているらしい。
俺はそこまで語ってティア達の顔を見ると、二人はキョトンとした表情で俺を見て、
「ショーエンって、本当に何でも知っているのね」
とティアは言い、シーナも「ショーエンが言うなら間違いは無いのです」
といつもの調子で言った。
「よし、ここを出て、街をもっと奥に進んでみよう」
と俺はゴンドラを教会の外に移動させ、更に町の奥に進めてみた。
そこは賑やかな商店街が続いており、左手には大きな宿屋があった。
「なあ、あそこは宿屋だと思うんだが・・・」
と俺はそこまで行って、ティア達の顔を見た。
二人は前回の宿屋で見た男女が裸でまぐわう光景を思い出したのか、少し顔を赤らめたが、
「情報収集は酒場から、でしょ?」
とティアはそう言ってシーナを見た。シーナも
「私も、もう大丈夫なのです。酒場での情報収集をするのです」
と言って頷いた。
「よし、じゃあ宿屋に入ってみよう」
と俺はゴンドラを宿屋の扉の中まで移動させる事にした。
宿屋の扉を潜ると、そこは大きなロビーになっていて、酒場は隣の部屋にある様だった。ロビーには沢山の人が居て、商人らしき恰好をした4,5人のグループが数か所に陣取ってそれぞれで何かを話し合っている。
そのうちの1グループが、ロビーのカウンターの方に移動して、宿泊の手続きを始めた様だ。
ここでの通貨も金貨や銀貨等の貨幣が使われていて、正に中世ファンタジーの世界そのものだった。
「ねえ、ショーエン。また客室の様子も見てみたいのです」
と今回はシーナが積極的に宿屋を見たがった。
「ああ、それはいいが・・・」
とティアの方を見てみると、ティアも
「うん、大丈夫。あの時は驚いてちゃんと理解できなかったけど、今度はちゃんと学べるようにするから」
と、まるで真面目に性教育を受けたい生徒の様な眼差しだった。
いや、毎回あんなシーンに出くわす訳では無いと思うんだが・・・
と俺は心の中で思いながらも、
「よし、じゃあ、あそこの階段から登ってみよう」
とカウンターの横の階段をゴンドラで登ってみた。
2階に上がると、そこは石造りの廊下で、右側の壁には窓が並んでいて、左側の壁に客室の扉が8つ並んでいた。
扉は全て閉まっていたが、手前から順番にデバイスで扉を開ける事が出来た。
一番手前の部屋の扉を開けると、そこは少し小さめの部屋で、それこそ日本のビジネスホテルの様な間取りだった。
人が一人やっと寝れるくらいの大きさのベッドが一つと、小さなテーブルと椅子が、窓際に一つずつ置かれていた。
ここの宿泊客は、旅人らしい一人の男だけで、今はベッドの縁に腰かけて地図を眺めている様だ。
ここのベッドは木製のベッドではあるが、マットレスがある辺り、随分と技術は進歩していると言えるだろう。
浴室の扉を開けてみた。
浴室には湯を溜める浴槽があり、湯は浴槽の窯に薪を入れて燃やす事で沸かす仕組の様だ。薪を燃やした煙は、浴室の奥にある煙突から建物の外に排気しているらしく、浴室内に煙が充満する事は無さそうだ。
それにしても驚いたのは、ここには水道がある事だった。
なので、浴槽には水道から水を入れられるし、浴室の隣にあるトイレも水洗トイレになっていた。
これにはティア達も安心した様子で、
「この星なら何とか生きていける気がするわね」
と、前回の汲み取り式トイレへの恐怖がどうやら尾を引いているようだ。
シーナは部屋をキョロキョロと見回し、
「ここには裸の男女は居ないのですか?」
と、少し肩透かしを食らった様な表情で俺を見た。
「何だ、裸の男女が見たかったのか?」
と俺は少しからかう様に言うと、
「み、見たかったのです」
と、顔を真っ赤にして視線をキョドキョドさせながら言った。
俺はそんなシーナの顔を見てハハハっと笑い、
「シーナはシャイなのか豪胆なのか、よく分からんな」
と言いながら「でもお前は、きっとスケベ心で言ったんじゃなくて、本気で繁殖行為を学びたいんだろうな」
と言うと、
「スケベ心の意味は分かりませんが、ショーエンと結婚した時に繁殖行為が出来るようにしておきいのです」
と、恥ずかしがっている割には堂々たる意見を口にした。
「そうかそうか。シーナの気持ちは嬉しいぞ」
とシーナの頭をなでなでしてやった。するとティアも
「わ、私も同じだよ」
と頭を俺の方に近づける。
俺は、ティアの前髪を右手で掻き上げ、額にチュっとキスをして
「ああ、知ってるよ」
と言って、ティアの腰に腕を回して抱き寄せた。
ティアは「ヒャ!」っと小さな声を上げたが、顔を赤らめたまま、俺に身体を預けていた。
それを見たシーナは、負けじと俺の左腕に抱き着き、ぐいぐいと俺の腕に顔を押し付けていた。
「よし、じゃあ別の部屋も見てみよう」
と俺達はその部屋を出て、隣の部屋を覗いてみようと扉の前までゴンドラを移動した。
すると、階段を登って来る足音が聞こえて来る。
俺達が階段の方を振り向くと、薄手の生地で作った簡素な赤いドレスを着た茶髪を腰まで伸ばした女が姿を現し、廊下を歩いて俺達が居る場所を通り過ぎて隣の扉をノックした。
すると扉の奥から「開いてるぜ」と男の声がし、女はそのまま扉を開けて部屋に入っていった。
あ~・・・
これはアレだな。
きっと風俗嬢を部屋に呼んだんだな。
と俺は思い、
「ティア、シーナ。生殖行為とはちょっと違うが、概ね同じような事がこれから隣の部屋で始まりそうだ。どうする?見てみるか?」
と俺が訊くと、ティアとシーナは少し身体を硬直させた。
そして数秒そうしていたかと思うと、ティアが先に、意を決した様に口を開いた。
「うん。見ておきたいわ」
それに続いてシーナも「わ、私も見ておきたいのです」
とリンゴの様に顔を赤くした二人がそう言った。
俺はゴンドラを更にとなりの扉に移動し、デバイスで扉を開けて部屋の中に入った。
部屋の中は明かりを落として薄暗くなっていた。
ベッドには、
しばらくして女は浴室から全裸で出てきた。
長い茶髪を頭の上で留めていて、白いうなじがなんとも色っぽい。
年の頃は25歳前後といったところか。
白い肢体がベッドの方に歩み寄り、右足を上げてベッドのマットレスに膝を乗せて両手をベッドの上につき、屈強そうな男を見つめながら
「金貨2枚よ」
と言った。
男はテーブルの上を指さし、
「そこに置いてある」
と言って、女の手を掴み、自分の方へと引き寄せた。
浅黒く日に焼けた男の身体は、薄闇に溶けて見えにくい。
それは、無骨な男の裸など見たくも無い俺にとっては丁度良かった。
白い肢体を露わにしている女は、男の手に引かれるままに男の胸に身体を預け、男がその場に仰向けに寝そべると、女は男の身体に
ティアとシーナは息をするのも忘れたかの様に、顔を赤らめ、額に玉の汗を浮かべてその行為に見入っている。
女が男の身体を両手で撫でまわしたかと思うと、男は両手で女の背に手を回し、白い肢体を筋肉質の浅黒い手で撫でまわし始める。
そして・・・
突然辺りは暗闇に包まれた。
「制限時間になりました。テキル星の疑似体験を終了します」
ティアとシーナの二人は俺の両腕にしがみ付きながら、真っ赤な顔で「はあはあっ」と息を荒げている。
二人とも額には玉の汗が浮かんでいて、身体を震わせながら、思う様に身体に力が入らない様だ。
「大丈夫か?二人とも」
と俺が声を掛けると、
「だ、大丈夫」
と気丈に言うティアだったが、どうにも足に力が入っていない。
「こ、ここ、これくらい平気なのです」
と言うシーナも、言いながらストンとその場に座り込んでしまった。
前回のミリス星といい今回のテキル星といい、他の惑星の宿屋ってのは、どうしてこう性が乱れているんだか。
本来この「惑星疑似体験センター」ってのは、これまでに開拓された惑星の情報を得る為の施設のはずなんだが、これじゃあまるで「ポルノ閲覧センター」だぜ。
俺は腰砕けになっている二人を両手でひょいっと担ぎ上げ、部屋を出る事にしたのだった。
------------------
その後俺達は、惑星疑似体験センターの中にある休憩室で休んでいた。
他の疑似体験を試してみようと考えていたんだが、ティアもシーナもさっきのピンクなシーンに当てられて、ずっと動けずにいた。
ティアは俺の隣に座りながら、ずっと俺の右腕に縋り付いて俺の肩に頭を乗せて休んでいた。
シーナは俺の膝枕でベンチに寝ていた。
そうしているうちに時間は経過し、惑星疑似体験センターの閉館時間が迫っていた。
どうやらここは夕方の5時には閉館するらしい。
「ティア、シーナ。もうすぐここも閉館だ。そろそろ行くぞ」
と俺が二人を起こすと、ティアはずっと起きてたのかそのまま頷いて、ゆっくりと立ち上がった。
シーナは「うーん」と呻いてから目を覚まし、目の前にシーナを見下ろす俺の顔を見て、
「はっ!お、起きるのです!」
と言って跳ね起きた。
俺達はそのまま立ち上がってエントランスに向かって歩いてゆき、疑似体験センターを出て、学園に向かって歩き出した。
「今日はどうだった?」
と俺が訊くと、二人は目を見合わせ
「勉強になりました・・・」
と顔を赤くしたまま消え入りそうな声で言ったのだった。
何の勉強になったのやら・・・
俺は心の中でそんな事を思い、苦笑した。
「ま、思春期ってのはそんなもんだ」
と言って二人の頭を撫でてから「早く帰って夕食にしようぜ!」
と歩調を早めた。
明日からは下半期の始まりだ。
惑星開拓団への入団に向けて、みんなで頑張らなくちゃな!
俺は心の中でそう言い、学園に向かって更に歩調を早めるのだった。
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