学園生活(7)ラブコメが花開いた日
今日は休日なので、朝から重力制御室でトレーニングをして汗を流した後、シャワーを浴びて、イクスの部屋に行くことにした。
今日の昼にはシーナが来る予定だから、一緒に食べる料理の食材調達が目的だ。
デバイスでイクスに連絡をしておいたので、俺が行く頃には準備ができているだろう。
俺はミリカが作った衣装に身を包み、部屋を出て男子寮の廊下を歩いてイクスの部屋に向かった。
途中で2人の別の学生とすれ違ったが、二人ともギョっとした表情で俺の方をずっと見てたな。
よしよし、インパクトは絶大だ。
イクスの部屋に着くと、デバイスでイクスを呼び出す。
するとイクスが鍵を開けてくれるので、そのまま部屋の扉が開く。
俺が部屋に入ると、イクスも新しい衣装を着ていた。
壁面に鏡を設置しているあたり、自分の姿を何度も見てニヤけているんだろうな。
「よお、イクス。食材の提供ありがとうな」
「いえいえ、お安い御用ですよ。 それにしてもショーエンさんの衣服も、なんというか見ているこちらの力が湧き出てくるような感じがしますね」
と、俺が望む通りの効果を発揮しているようだ。
「はは、そうだろ? これが前にも言ったピグマリオン効果の応用ってやつだ。お前もなかなかいい感じだぜ?」
俺がイクスにそう言うと、
「はい。自分でも自分の姿に勇気付けられているのを感じます!」
と、部屋の鏡を示してそう言った。
なるほど、勇気付けられるってか。
「で? その勇気で、ミリカと相思相愛になれそうか?」
と俺が言うと、イクスは顔を真っ赤にして
「そ、そのように見えますか?」
と訊いてきた。
ほんと、この世界の連中は分かりやすいねぇ。
「ああ、もちろんだ。俺は惑星を統治する事を目指す男だぞ? それくらいの事が分からずして統治は目指せないぜ」
俺がそういうと、イクスは
「なるほど、やはりショーエンさんは凄いですね・・・」
と感心しているようだった。
「じゃ、これは貰っていくぜ」
とイクスが差し出した食材の袋を受け取り、
「今日はシーナと昼食をとるんで、あいつに俺の手料理を振舞ってやるんだよ。お前もミリカを呼んで、何か作ってやっちゃどうだ?」
と提案してみた。
イクスは「なるほど!」といった顔で、
「それは良いですね! やってみます!」
とやる気満々のようだった。
俺はイクスの部屋を出ると、また男子寮の廊下を歩いて自分の部屋まで移動していた。廊下でまた一人すれ違ったが、さっきの学生と同じ様に、驚いた顔で凝視してくるだけだった。
俺が廊下を歩いていると、ライドの部屋の扉が開いて、ライドが部屋を出てくるところだった。
「おう、ライド。おはよう」
と声を掛けると、ライドもこちらをみて
「おはようございます」
と返した。
ライドも新しい衣装を着こんでいて、これから食堂にでも行くところなのだろう。
「ライドはこれから食堂か?」
と訊くと、
「いえ、これからメルスさんの部屋に行って、研究のすり合わせをする予定です」
との事だ。
「へぇ、研究の成果はどうだ? 実験機とかが見れると嬉しいんだがなぁ」
「ええ、実験機は作る予定で、今日はメルスさんと必要な材料について話し合うんですよ」
「おお、そりゃ素晴らしいな!頑張ってくれよ」
と言ってライドの肩をポンと叩いた。
ライドは元気そうに頷いてメルスの部屋まで歩いて行った。
俺は自室に戻り、キッチンのカウンターに食材を並べた。
食材は、小麦粉、豆乳、卵、あとは果物を3種類だ。果物はオレンジとイチゴとブルーベリーだ。
あと収納庫から、砂糖と重曹を取り出した。
よし、これだけあれば大丈夫だろう。
この星にもパンは当たり前の様にあった。
なので、ベーキングパウダーみたいなものはあるはずだと踏んでいたのだ。
ある日食堂の職員に声を掛けると、「学園のセブンスター」という通り名の効果か、重曹を少し分けてくれたのだ。
ほんと、Aクラスってだけでも自由度が高くて、学園のどこでも自由に行ける。
そもそも、男子寮と女子寮の行き来なんてAクラスにしか出来ない事らしいし。
そのうえ「学園のセブンスター」だなんて通り名まで付いてしまっちゃ、有名にならざるを得ないってもんだ。
そうしているうちにデバイスから11時30分を知らせるアラームが鳴った。
おっと、そろそろ料理の下ごしらえをしなくちゃな。
俺は小麦粉と重曹を適量で混ぜておいて置き、ボウルに卵と豆乳と砂糖を入れてかき混ぜた。
混ぜ混ぜしてから小麦粉と重曹を混ぜた粉をボウルに投入。
それを更に混ぜ混ぜして、適度なトロみが付いたところでフライパンに動物油脂を塗ってしばらく弱火で温める。
そうしているうちに時計は11:50になっている。
俺はフライパンにボウルの中身を適量たらしてじわりじわりと焼きだした。
何を作ってるのかって?
ここまでの流れを見てりゃ分かるだろ? ホットケーキさ。
この世界では俺はまだケーキってのを見た事が無い。
ビスケットの様な料理はあるんだが、フワフワの料理ってのがパン以外に見た事が無いんだよな。
なので、今日の料理は「見た目はパンみたいだが、甘くて病みつきになるホットケーキ」ってわけだ。
俺が3枚目のホットケーキを焼いている時にデバイスからシーナの来訪を知らせる通知が来た。
俺が扉を解錠すると、シーナと一緒にティアも入ってきた。
「よお、ってあれ? ティアも来たのか」
と俺はティアの姿を見てそう言った。
二人とも、取決め通りに新しい衣装に身を包んでいる。
「二人とも、新しい衣装が似合っててカワイイぜ。さ、入れよ」
と招き入れた。
「か、かわいい?」
とティアはドギマギしている。シーナも頬を赤らめながら部屋に入っていつもの席に着く。そして
「なんだか甘くていい匂いがするのです」
と言ってキッチンでホットケーキを焼いている俺の方を見た。
「おう、そうだろ? ホットケーキってのを食わせてやる。ちょうど今3枚目が焼きあがるから、ちょっと待っててくれよ」
と言って、「あ、二人にお茶の準備を頼めるか?」
と、
「まかせて」
とティアとシーナは二人で立ち上がり、お茶の準備を始めた。
今日のお茶は、紅茶にしてもらった。
俺は出来上がったホットケーキを皿に盛ってテーブルに並べた。
ほどなく紅茶を入れたカップをティアとシーナがテーブルに並べてくれた。
「じゃ、いただきまーす」
と俺が言うと、二人も続けて「いただきまーす」と言ってナイフとフォークを手にした。
二人は俺の食べ方を見てから、所作を真似てケーキを切りだす。
そしてフォークに刺したケーキを口に運ぶ。
「んんんんん~!」
とティアとシーナは目を大きく見開いてお互いの顔を見合わせ
「おいし~!」
と声に出して応えた。
「おいしいだろ? ホットケーキっていうんだ。 作り方は簡単だから、後でレシピをデバイスに送っとくぜ」
俺はそう言いながら、紅茶をすすり、またホットケーキを口に入れてモグモグしていた。
俺は一通り食べ終わると、最後に紅茶を飲み干してから二人を見た。
二人ともホットケーキがよほど気に入ったのか、ほっぺを膨らませてモグモグしている。
なんとも愛らしい姿じゃないか。
俺はこの世で一番かわいいものは赤ちゃんのほっぺだと思っているのだが、この二人のほっぺもなかなかどうして悪くない。
そんな風にして見ていると、前世で子供の頃に、親戚の叔母さん達にほっぺをムニムニされてたのを思い出す。
子供の頃の俺は背が小さかったから、たぶんかわいいほっぺをしていたんだろうな。
今なら叔母さんたちの気持ちがよく分かるぜ。
俺も何だか二人のほっぺをムニムニしたくなってきたもんな。
と考えて、俺はすぐに頭を振った。
いやいや、いかんな!
頭を撫でただけで結婚騒ぎになったんだぞ?
ほっぺムニムニなんてしたら、
俺は何とかムニムニ欲求を心の隅に追いやり、一息ついてからシーナに話しかけた。
「なあ、シーナ。 昨日お前が見せてくれた通信機器なんだけどさ」
と俺が言うと、シーナはモグモグしていたケーキをゴックンと飲み込んで、お茶を一口啜ってから俺の方を見た。俺は続けて
「あれって、デバイスの通信を傍受できたりするのか?」
と俺が言うと、シーナはあからさまにガタガタと震えだし、大量の汗が顔から噴き出してきた。
ななななな、何で知ってるのですか?
昨日私がショーエンとティアのデバイス通信を傍受していた事を何で知ってるのですか?
もしかして、逆探知の様な技術をショーエンは既に開発しているのですか?
「あ、あの、あの、その・・・」
とシーナは見るからに様子がおかしい。
「お、おい、どうしたんだシーナ! 顔色が悪いぞ。ホットケーキを詰まらせたのか?」
と俺は心配になってシーナの傍らに立って、シーナの背中を軽く
するとシーナはビクっと身体を跳ね上げ、
「ヒャっ!!」
と、これまで聞いたことの無い素っ頓狂な悲鳴を上げて
「な、なな何を!?」
と涙目になりながら俺の方を見た。
横で見ていたティアも心配になって
「シーナ!大丈夫?」
と右手でシーナの腕を掴んで、左手でシーナの胸の真ん中あたりを掌で押さえた。
シーナはショーエンの手の平の体温が背中を温め、ティアの手の平が胸を温めるのを感じながら、ふーっと息を吐いて、何とか落ち着く事ができた。
「落ち着いたのです。そして、ごめんなさいなのです」
とシーナは声を振り絞り、
「あの中継器は、あれ単体ではデバイスの傍受は出来ませんが、コレを使えば限られた範囲ですが、傍受できるのです」
と言ってシーナは、手に握っていた小さなピンポン玉くらいの装置をテーブルに置いて、
ああ・・・ 終わってしまいました。
私がショーエンの通信を黙って覗いた事がバレてしまいました。
きっとショーエンは、私の事を気味悪がって近寄らなくなってしまうでしょう。
私はもう、生きていける自信が無くなったのです・・・
と心の中で辞世の句でも読み上げそうなシーナが、恐る恐る顔を上げると、
「すっげーな! さすがシーナ!」
と満面笑顔のショーエンがシーナのほっぺを両手でムニムニしながら、額にちゅっとキスをした。
!!!!!!!!!
ティアは顔を真っ赤にして声を失い、シーナも顔を真っ赤にして
「な、何を・・・」
と頭が混乱して訳が分からなくなっていた。
俺はそんな二人の顔を見て
あ、しまった。
と思った。
-----------------
「おほん。えーと、だな・・・」
ティアとシーナは、今なぜか俺の両腕にしがみついている。
ティアは俺の右腕に、シーナは俺の左腕に。
おいおい・・・ スキンシップが苦手なんじゃなかったのかよ。
事の発端はこうだ。
俺がシーナの額にキスをしちゃった後、しばらく固まってたティアが我に返ったかと思うと、何を思ったのか、俺の額にキスをしてきた。
それを見たシーナも我に返って、俺の額にキスをしてきた。
俺のおでこを取り合おうとする二人を引き離す為に、俺は左腕でシーナの腰を抱き、右腕でティアの腰を抱いて俺の両脇に座らせた。
するとシーナが俺の左腕に両腕で抱き着き、ティアもそれを見て俺の右腕に抱き着いて現在に至るという訳だ。
「落ち着いたか? 二人とも」
と俺は両腕の二人に声を掛けた。
「落ち着いた・・・けど、もう少しこうしてたい」
とティアが随分と乙女チックな事を言った。
おお・・・ これってラブコメのワンシーンじゃね?
シーナも俺の左腕をギュッと抱きしめ、
「私もずっとこうしてたいのです」
と、何やらティアと張り合っているようにも見える。
で、ラブコメの主人公が、何故か俺になってるってところが、俺の計画と違うところなんだが・・・
とはいえ、両腕に美少女が抱き着いているというのは、何となく心地がいいもんだ。
俺の肘に二人の胸の感触が伝わるが、それも何となく心地がいい。
昔、前世でバイトしてたコンビニの店長が、こんな事を言ってたっけな。
「いいか吉田、女の子のおっぱいには、幸せが詰まってるんだ。赤ん坊だけじゃなく、大人になっても男はおっぱいが大好きだろ? それは、おっぱいに幸せが詰まってるからなんだ。よ~く覚えておけよ」
はい・・・ 店長・・・
ハッとして俺は我に返った。
いかんいかん。危うく俺の精神がどこかの桃源郷にでも旅立っちまうところだった。
俺は右腕にしがみついているティアに
「そろそろ離す気にはならないか?」
と訊いた。ティアは首を横に振り、
「私もずっとこうしていたい。なんだかすごく落ち着くの」
と言って、俺の腕をますます強く抱きしめた。
俺はシーナを見て
「シーナ・・・」
と声を掛けようとして、やめた。
シーナは俺の左腕に抱き着いたまま、ウトウトとして眠そうにしている。
それを見たティアが
「シーナが寝てる。なんだか、ショーエンの腕を枕にして寝てるみたいね」
と言った。
腕まくらか・・・
昔、親戚の子供を連れて公園に行って、芝生の上で子供達を腕枕で寝かせてやった事があったな。
「腕まくら、ティアにもしてやろうか?」
と俺は言ってみた。するとティアは上目使いに俺を見て「うん」と頷いた。
俺はよっこらせっと二人を抱きかかえたまま立ち上がり、デバイスでリビングに2メートル四方くらいのマットを呼び出した。ベッドと同じく低反発クッションみたいな肌触りで、本来はストレッチをする時に使っているのだが、昼寝をするのにも使えるだろう。
俺はマットの上に大の字になって寝転がり、左腕にシーナの頭を乗せて寝かしてやり、右腕をパタパタと上下させて、ティアに「おいで」と促した。
ティアはおそるおそるショーエンの隣に寝そべり、頭をショーエンの腕に乗せ、ゆっくりと首の力を抜いて、頭の重みをショーエンの腕に預けていった。
シーナは「むにゃむにゃ」と言いながら既に眠っていて、ティアも目を瞑って静かに息をしていた。
俺は両腕に、少し熱くなっている二人の頭の温度を感じながら「こういうのも、たまにはいいもんだな」と思った。
時間はまだ13:05だった。さっき甘いものを食べたばかりで眠くなったんだろう。1時間くらい昼寝をすれば、頭もスッキリするはずだ。
俺もなんだかんだで疲れていたのかも知れない。いつの間にか寝息を立てて眠りについていたのだった。
------------------------
ティアは目を瞑ってはいたが、全然眠れずにいた。
さっきまでショーエンの頭にキスをしたり、腰を抱かれたり、腕に抱き着いたりと、自分でも何をやってたのかと、思い出すだけで恥ずかしくなるが、それにしても今のこの状況。なんと腕まくらだ。しかもショーエンに誘われるままに自分から身体を預けてしまった。
何コレ何これぇぇぇぇ!
何で私こんな事ができちゃったの!?
シーナを見てたら負けたくなくて、思わず張り合っちゃったんだと思うけど・・・
だからって、ショーエンの腕に抱かれたお昼寝だなんて、そんなの考えた事も無かったよぉぉぉ!
心臓がバクバクしてるのがショーエンに聞こえないかしら?
まるで私の耳元で心臓がバクバクいってるようにさえ感じるわ!
ショーエンの腕の筋肉すごいぃぃぃ!
ショーエンの胸板すごいぃぃぃ!
私の身体をヒョイって持ち上げるなんてすごいぃぃぃ!
そして、今私の目の前にショーエンの横顔があって、無防備に寝息を立てているなんて、すごいぃぃぃ!
そこでふとティアはショーエンの唇に目を止めた。
ショーエンはこの唇でシーナの額にキスってのをしたのよね。
私もショーエンの額にチュってしたけど・・・
もしも・・・
もしもよ?
もし私の唇と、ショーエンの唇を直接くっつけたりしたら、どんな事になっちゃうのかしら?
ティアはますます心臓がバクバクと鼓動を早めるのが分かった。
ショーエンの唇を見るティアの目は、まるで獲物を見定める獣の目のようになっていた。
ただ1点だけを凝視するその視線は、スキあらば逃げてしまう小動物を逃がすまいと追いつめる獣の目そのものだった。
はーっ はーっ
と熱い息を吐くティア。
顔が火照ってるのが分かる。
今なら・・・
そう、シーナもショーエンも眠っている今なら、この唇に私の唇を押し付けても大丈夫なんじゃないの?
こんなチャンス、二度と無いかも知れない。
今ここでこの唇を私が奪えば・・・
ティアはショーエンに気付かれない様に、そろそろと頭を持ち上げ、自分の髪がショーエンを起こさないようにと髪を掻き上げた。
そして、少しずつショーエンの寝顔の正面に自分の顔を近づけてゆき、ショーエンの唇に狙いを定め、少しづつ顔を近づけていった。
あと15cm・・・
あと10cm・・・
あと5cm!
ショーエンの寝息が私の顔に届くのを感じる!
もう少し!
その時、シーナが寝返りを打つ様に身体をショーエンの方に回転させ、そのはずみでシーナの左腕が宙を舞ったかと思うと、そのままティアの後頭部に落下した。
パチン!
とシーナの手がティアの頭を打ち据えた反動で、ティアの唇はショーエンの唇に重なった。
!!!!!!!!
驚いたティアはピョンっとシーナの手を跳ねのけてその場で起き上がり、正座を崩したような姿勢のまま上半身を直立させた。
「んん・・・ 何だぁ?」
とショーエンが目を覚ます。
それにつられてシーナも目を覚ました。
ショーエンは右腕が自由になってるのを見て、右手で自分の目をこすった。
「なんだ、ティア。もう起きたのか」
とさっきの口づけには気づいていない様子だ。
シーナも自分の目をこすりながら身体を起こし、きょろきょろと辺りを見回して、今の自分の状況を確認している。そして、自分がショーエンに腕枕されてた事を悟ると
「しょしょしょショーエン・・・ ご、ごご、ごめんなさいなの」
と震えた声を出して上半身を起こした。
ショーエンも身体を起こし、まだ眠そうな目を開いて二人を交互に見て
「なんだ二人とも、昼寝はもうおしまいか?」
と何事も無かったかのように訊いてきた。
「う、うん。もう大丈夫よ」
とティアは立ち上がりながら言い、シーナは
「わ、わ、私・・・ ショーエンと寝てたですか?」
とまた顔を赤くしている。
「なんだ、シーナ。今日は顔を青くしたり赤くしたり忙しい日だなぁ」
と言うとショーエンは、またシーナの腰を抱いて自分の方に抱き寄せて、腰のあたりを軽くポンポンと叩きながら、
「こんな事だったら、いつでもやってやるから、遠慮なく言えよ~」
と言って、またその場に寝そべった。
え?
いつでもお願いしていいの!?
ティアとシーナの頭の中に、広大なお花畑がものすごい勢いで花開いていくのが分かった。
ショーエンが「いつでもやってやるから」って言った~!
ティアとシーナは見つめ合い、そしてシーナが先に口を開いた。
「ショーエンは凄いのです。 私たちのどちらかではなく、両方と結婚できるのです」
ティアもシーナの言葉に共感した。
「ショーエンは凄い人・・・」
そう言って、ティアはシーナの手を握り、
「これからは、二人一緒にショーエンの為に頑張ろうね!」
「私もそのつもりなのです! ふんっふんっ」
とシーナも鼻息荒くティアに誓ったのだった。
しかしティアは心の中で思っていた。
ショーエンの唇、柔らかかったっぁぁぁ!
私の唇とショーエンの唇が、あんなに密着して、体中に電気が走ったみたいになったぁぁぁ!
もしかしたら!
唇と唇のキスで、発電できるかも知れないわ!
しばらくして再び目を覚まし、上半身を起こしたショーエンは、自分を見つめる二人の視線を交互に見ながら
「何だ、どうした?」
と訳が分からないといった表情で二人の顔を見返すのだった。
----------------------
翌朝、俺はいつも通りに目が覚めた。
昨日シーナが持ってきたピンポン玉みたいな機器は、限られた範囲のデバイス通信を傍受できるという説明を受けた。
昨日の俺は、シーナに「明日の食堂でそれを使ってほしい」と依頼した。
目的は、新しい衣装で食堂に集う俺達を、周囲がどのように感じるかを知る為だと告げた。
ティアもシーナも同意し、シーナは機器を「食堂の広さに限定する様に調整して持ってくる」と言っていた。
俺はいつも通りにシャワーを浴びて歯を磨き、朝食の為に食堂へと向かう事にした。
勿論、新しい衣装で。
俺が部屋を出ると、ちょうどイクスが歩いてくるところだった。
「おはようございます。ショーエンさん」
「おはよう、イクス」
と俺はイクスと並んで歩く事にした。
そういえば、イクスは昨日、ミリカを部屋に呼んだのだろうか。
「なぁ、イクス、お前昨日ってミリカとランチとかしたのか?」
と訊くと、イクスはちょっと顔を赤らめながら
「ええ、ミリカを食事に誘って、一緒に昼食をとりました」
「へえ、で、どうだった?ミリカは喜んでたか?」
と訊くと、イクスは満面の笑みを浮かべて
「はい!ミリカとは、相思相愛になれたと思います!」
と昨日の事を思い出しているのか、ソワソワとして落ち着かない様子だ。
「ほう、そりゃ良かったじゃねーか。二人がずっと相思相愛でいられる事を願ってるぜ」
と話しているうちに食堂の入り口まで来た。
食堂の入り口はいつもより少し混雑しているようで、
「何だ?」
と食堂の中を見回すと、いつもの窓際の席に陣取っている異色の集団を生徒たちが遠巻きに囲んでいる様だった。
異色の集団とは、学園のセブンスターこと1年Aクラスのメンバーの事だ。俺とイクスを除く5人が既に揃っていた。
俺とイクスは
「ちょっと通してもらうぜ」
と人混みをかき分けて食堂に入っていった。
人混みは、俺とイクスの姿を見てザザっと道を開けてくれた。
なんだろね、俺達は遅れてきたヒーローって感じか?
俺はクラスメイトがいるテーブルに歩み寄り、
「よう、みんな。おはよう」
と声を掛けた。
するとみんなはその場で立ち上がって、俺に一礼し
「おはようございます!」と元気に挨拶してくれた。
「さ、朝飯の注文に行こうぜ」
と俺は促し、みんなでカウンターまで注文をしに行った。
その間も食堂にいる他の生徒たちはまじまじと俺達を見ている。
俺達は気にする素振りも見せず、いつも通りに注文した食事トレーを持ってテーブルに向かった。
クラスのみんなが席に着くのをみて、俺はシーナにデバイスでメッセーシを送った。
「準備はできてるか?」
「もちろんなのです」
「よし、じゃ、起動してくれ」
「了解なのです」
シーナが手に握っている機器を起動すると、食堂の生徒たちのデバイス通信が俺達のデバイスにも受信されだした。
「すごいぞアレ」
「うわぁ、今日のセブンスターはいつもより輝いてるなぁ」
「ティア様、美しいです!」
「シーナちゃん、いつもかわいいな~」
「ライド様も素敵~」
「イクス様とミリカ様、ちょっとくっつき過ぎじゃない?」
「もしかしたら結婚してるのかも」
「ええ~そんなのやだ~」
「主席のショーエンって、ちょっと怖いよねぇ」
「うんうん。ショーエンってちょっと怖い」
「ショーエンって、セブンスターのリーダーでしょ?」
「そうそう、ショーエンって、Aクラスを力でねじ伏せたって噂もあるぞ」
「僕知ってる!この前、地上から3階の窓まで飛び上がってたの見たよ!」
「ショーエン怖いね~」
「ショーエン怖いよ~」
「でもメルス様は素敵よね!」
「うん!私メルス様のファンなの!」
「メルス様、あの銀髪に触れてみたいわぁ」
「ダメよダメダメ!メルス様と結婚するのは私よ!」
「みんな落ち着いて、メルス様はみんなのメルス様なんだから、取り合っちゃダメだよ」
「そうよね~、みんなのメルス様だものね~」
・・・・・・・・・・・・・・
「シーナ、もういいぞ」
俺はシーナに傍受を止めるように頼んだ。
うん。おおむね好評じゃないか。
学園のセブンスターは、どうやらみんな人気者だ。
それに、ティア様だシーナちゃんだと、みんな好き勝手に俺達を呼んでいる事も分かった。
イクスとミリカもそれなりに人気はあるようだし、ライドもなかなかにウケが良さそうだ。そして何よりメルスの人気が凄い。
で、俺の人気は無い、と。
何だよ「怖いね~」って。
ま、別にいいけどな。
俺達は食事をしながら
「大体分かったよな?」
と俺は言った。
みんなはちょっと照れてるようでもあったが
「おおむね好評のようですね」
と女子学生に大人気のメルスが言った。
ライドも
「ぼ、僕がこんな風に思われてるなんて初めて知りました」
と謙虚なやつだ。ティアとシーナは複雑な面持ちだが
「ショーエンの魅力は私たちだけが知ってればそれでいいもんね」
「そうなのです。あんな下等な人達にショーエンを語られたくは無いのです」
と、何やら独占欲を満足させているらしい。
イクスとミリカは
「私たちは、誰が何と言おうとも、相思相愛でいましょうね」
「う、うん! 僕もミリカといつまでも相思相愛でいるよ」
と、二人だけの世界が出来上がっている様だ。
ともあれ、「学園ラブコメ化プロジェクト」は発動した。
生徒たちの反応は色々だが、これならこのプロジェクトはうまくいきそうだ。
「よし、じゃあ、今週も真面目に授業を受けて、週末を迎えようぜ」
「はい!」
俺はみんなの返事がいつもより元気に揃っていたのを聞いて、みんなの団結力がさらに固まったのを感じたのだった。
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