問題と温泉が噴き出して1

「なあ」


「ん?」


「これってさ、お前の馬車だよな?」


「だよ」


「なんで……俺たちが屋根に?」


「そりゃ女の子を屋根に乗せるわけにはいかないだろ?」


「そーだけど……」


 ジケとライナスは馬車の上にいた。

 なぜなら馬車の中にリンデランが増えたからであった。


 ジケたちだけでギリギリだった馬車にリンデランが乗る余裕はない。

 しかしここにきてリンデランだけ別というのも可哀想なので女の子で一緒に馬車に乗ってもらうことにしたのである。


 となるとジケかライナスのどちらか一人が押し出される形になるのだけど一人だけ押し出されるのも可哀想だし女の子の中に男一人というのも気まずい。

 リンデランの方の馬車はあるけれどせっかく天気もいいのだしと馬車の天井に二人で乗っているのだ。


 ただライナスは馬車の上で寝かされていることになんか納得いってなかった。


「んじゃ入るか?」


 馬車の中からは楽しそうな声が聞こえている。

 身分もそれぞれ違うけれどこうして集まればそんな違いなど関係ない。


 時々妙に険悪な雰囲気になったりするけれど基本的には女の子たちも女の子たちで仲は良い。


「入れるわけないだろ?」


 多少のことなら空気も読まずにいられるライナスだが女の子たちのど真ん中にいれば針のむしろである。

 邪魔だと言われればまだいいが何も言われなければそれはそれでまた辛い。


「もう少ししたら昼だ。そしたらリンデランの方の馬車に移るか」


 当然のことながらリンデランも馬車に乗ってきている。

 そちらの馬車は空のまま引かれていて誰かが乗るを待っていた。


 リンデランの馬車なのだからフィオス商会特製揺れない馬車である。

 ジケの馬車とほとんど変わらないのだ。


「まあいいや。そんなこれから向かうのが……ハンナー……」


「ハンナーディカだな」


 今向かっているのはハンナーディカという貴族のところだった。

 ミスリル鉱山の見学の前に鉱山を持っている領主から食事のお誘いがあったのである。


 ジケは出資者であるしヘギウス商会の賓客だ。

 それに加えてリンデランまでいるのだからもてなさないわけにもいかないのだろう。


 お連れの方もということだったのでみんなで移動している。


「焚き火の跡がこの先にあるので休憩をしたいと思います」


 リンデランの護衛の騎士がジケたちに声をかけてきた。

 日が落ちれば魔物などの危険が大きくなるので焚き火なんかをして夜に備える。

 

 ただあまり自然を汚さないようにあちこちに焚き火を置くのではなく、前にそこで他の冒険者や商人などが休んだだろう跡を利用することもある。

 まだ昼間なのでここで留まることはしないけれどお昼に焚き火で物を温めて食べるぐらいはしようと考えていた。


「枝も置いてあるな」


 こうした焚き火跡では使わなかった枝などをまとめて置いてくれている人もいる。

 近くに木立があるので意外と枝も集まるのか焚き火の近くに枝がまとめてあった。


 ありがたく枝を使わせてもらって焚き火に火をつける。

 出発前にある程度準備してきたお肉があるのでフライパンを使って焼いていく。


 野営するなら石でも集めて置けるようにするのだけど今は手に持ってフライパンを火に晒す。

 ジュワジュワとお肉が焼けたらそれをパンに挟んで食べる。


 馬車旅で外でも温かい物を食べればただの携帯食料と気分は違う。


「ねぇ〜、ジケ兄〜」


「ジケ兄ちゃん〜」


 一度顔を見合わせたタミとケリが猫撫で声でジケを挟み込むように擦り寄る。


「どうした? 足りないか?」


 まだお腹が空いているのかなとジケは思ったけれどタミとケリはキラキラとした目でジケのことを見上げている。


「私たち」


「剣が欲しいなぁ〜って」


「剣?」


 ジケは突然のお願いに首を傾げる。


「一体なんでまた……」


 タミとケリが武芸に興味を持っているようには思えなかった。

 踊りと料理、その他色々平和な趣味を持っていたのにいきなりどうして剣なんて欲しいというのか謎である。


「私たちのせいかな……でも危ないことじゃないよ!」


 ミュコがリンデランと視線を合わせて苦笑いを浮かべた。


「どういうことだ?」


「二人にも私の剣舞、教えてあげようかなと思って」


 タミとケリの母親とミュコの母親は同じルーツを持つ人である。

 部族というのか、その集団に伝わっている踊りがミュコが歌劇で披露しているシュレイムドールを守るという剣舞であった。


 過去ではミュコがこの国を訪れたのもタミとケリの母親を訪ねて不完全だったシュレイムドールを守るを復活させようとしてのことであった。

 馬車の中での会話の中でタミとケリももっと踊りを習いたいという話になった。


 そこでミュコが剣舞を習うかと聞いてみたところ習いたいとなったのだ。

 これまでは流浪の歌劇団だったのでタミとケリに教えることも難しかったが、今はフィオス歌劇団としてフィオス商会に所属している。


 町に拠点も構えているしタミとケリに教えるような時間もある。

 タミとケリの母親も踊っていた可能性があるし教えてもいいだろうと思った。


「それで剣?」


 剣舞を習いたいから剣が欲しいという一定の関係は理解できる。

 ただなんで今おねだりするのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る