強きスライム5

「まっ、なんとか勝ち上がってきたな」


 アイアンゴーレムの攻撃をかわすのに多少の体力を浪費したものの怪我もなく勝ち残ることができた。


「あと二つか……」


 残り二つ勝ち上がれば神炎祭の優勝となる。

 ここまでの道のりを思い返してみると意外と長かった。


「あれ?」


 またしても別の控え室に案内されているなと行きと違う道を歩きながら思っていた。

 部屋に入ってみるとこれまでの控え室と違ってベッドが置いてあった。


「今日の試合はここまでです。残りの試合は明日となりますのでこちらの部屋でお休みください」


 不思議に思ったジケが案内してくれた人を見るとざっくりと説明してくれた。

 一日で無理に全部終わらせるのかと思ったけどそうではなかったようである。


 外を見るとすでに暗くなっている。

 このまま続けると終わる頃には真夜中になってしまうかもしれないので万全の状態で戦わせるためにも休ませるのも納得はできた。


「後ほどお食事も運ばれて来ますのでこちらの部屋から出ないようお願いします」


「……わかりました」


 ーーーーー


「なんでだ!」


 小じわの目立つ老年の男性が壁を叩きつけた。

 顔には苛立ちが浮かんでいる。


「なぜあのガキは平然としていられる! 確かに毒を仕込んだのだろう!」


「は、はい……確かに食事に毒を混入させました。口にしたところも確認しました。料理も全て平らげていました」


 老年の男性が睨みつける先には顔をひきつらせた男性がいる。

 それは二回戦目の後ジケを部屋まで案内してくれた神炎祭の係員であった。


「ならなんで平気な顔をして戦っていたんだ!」


「そのようなこと……おっしゃられましても」


「毒を混入させ忘れたんじゃないだろうな! もしかして毒に勘づいて料理をこっそり捨てたのかもしれない」


「おそらく……食べたと思うのですが……」


「また混入させろ。よそ者に神炎祭を優勝させるわけにはいかない。しかも二連続でそんなことになるなんて決して許されるはずがない!」


「……分かりました」


「はぁ……」


 老年の男性は深いため息をついた。


「ウラベには勝てないだろう。しかし万が一ということがある……サーシャに続いて神女を連れて行かれるわけにはいかないのだ……」


 ーーーーー


「こんな美味いのにさ」


 ジケは部屋に運ばれて来ていた料理を食べていた。

 テーブルいっぱいに色々な料理が運ばれてきていてどれもこれも絶品である。


 ただし問題が一つある。


「毒入れるなんてさ」


 料理の中に毒が入っているのだ。

 おそらくそんなに強い毒ではない。


 せいぜい体調を崩す程度、腹でも下すぐらいの毒だろうとジケは思う。

 ただ無味無臭なために毒が入っていても気づくことは難しい。


 ならばどうしてジケは毒の存在に気付いたか。


「お前がいなきゃ危なかったな」


 ジケはフィオスのことを料理を食べているフィオスであるが青いボディーの中にはフィオスの中心である核と食べている料理、そして黒い塊があった。

 黒い塊は毒であった。


 フィオスはなんでも食べる。

 実は毒やなんかも平気で摂取しても全く問題ないということはクトゥワと慎重に調べてあった。


 ついでにゴミを溶かすときにお金である金属だけ残すように体に有害な毒だけを食べずに残すということもフィオスにはできた。

 二回戦の後フィオスがお菓子を食べていると少しずつお菓子に含まれていた毒を分離した。


 そこでジケはお菓子に毒が含まれていると気がついた。


「あとは師匠に感謝だな。なかなか辛いアレだったけど……」


 毒があると気付いた時点ですでにジケはお菓子を食べてしまっていた。

 だがジケは次の試合の時も平然としていた。


 毒が平気だったのには二つの理由がある。

 一つはジケが毒の効きにくい体質であったから。


 師匠であるグルゼイはグルゼイの魔獣であるスティーカーの特性上毒をよく扱う。

 スティーカーに扱わせるだけでなく自身も知識を深めて毒を扱うこともできた。


 さらには自分で毒を摂取したりして自身の扱う毒にも耐性をつけていた。

 当然のことながら弟子であるジケに対しても毒の備えはさせていた。


 スティーカーが出す毒を時々摂取させられるという修行なのだけどこれがなかなか辛かった。

 お腹痛くなったり震えが止まらなくなったり毒による異常は大変で耐え難かったけれどもおかげでジケにはある程度の毒耐性ができた。


 元々道端に落ちているものだろうと生きるために食べていたジケには強い胃腸があって毒耐性の習得も早かった。

 猛毒には耐えられないけれど、それなりの毒であれば効かないし強めの毒でも他の人より耐えられるぐらいにはなっていた。


「フィオス、頼むよ」


 そしてさらにもう一つジケが平気な理由があった。

 ジケは空になったグラスをフィオスに近づける。


 するとフィオスはニュッと体をグラスに伸ばした。

 フィオスの体から透明な雫がグラスの中に垂れ始める。


「不思議だよな〜」


 あっという間にグラスに溜まっていく液体を見てジケはニヤリと笑う。


「解毒薬まで作れちゃうんだから」


 フィオスから出た雫は解毒薬である。

 以前フィオスにポーションを作ってもらったことがあったけれど、毒を治療するための解毒薬も作れないかとフィオスに試してもらった。


 結果は大成功。

 フィオスは怪我も治せるし毒も治せる万能スライムとなった。


 ジケは毒耐性に加えてフィオス製解毒薬を飲んでいた。

 そのために全く毒の影響を受けることなく活動することができていた。


「ムラミとかいうやつがやったわけじゃなさそうだったな……」


 ジケが普通に動けることに対してムラミはなんの疑問も抱いていなさそうだった。

 ならばムラミは関わっていないのだろうと思う。


「誰が犯人かは知らないけど……俺とフィオスのこと舐めてもらっちゃ困るな」


 フィオスは毒を分離しながら残りの料理を楽しんでいる。

 毒も効かず、毒を分離し、解毒薬まで作れる。


 フィオスがパートナーでなかったら危険だったかもしれない。

 でもジケには最強で最高なパートナーがいる。


「ふん、優勝してほしくないのなら優勝してやるよ。フィオスと一緒にな」

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