ラグカ1
ラグカという国はやや特殊な文化を持つ国である。
魔獣常在主義という考え方に基づき魔獣を常に出している人がほとんどの国なのである。
一般的にはジケの国も含めて基本的に魔獣を出しておくかは自由であるが、どこでもというわけでなく時と場合によってという側面は強い。
宿なんかだと大型の魔獣はダメなんてところもあるけれど、ラグカでは部屋に大型魔獣用のスペースだったり外に魔獣用の厩舎なんてものを用意しているところまである。
ちなみにフィオスは基本的に出しっぱなしで、たとえ宿だろうとどこだろうと出ていて何も言われることがない。
可愛いから当然であるとジケは思う。
そんなラグカに着いたのなら魔獣を出しておくのが周りに溶け込む秘訣でもある。
ラグカに到着したジケたちは軽く町を観光しながら歩いていた。
各々も魔獣を出しているが出来る限り小さくなってもらっている。
「改めて考えてみるとどうやって小さくなってるんだろうね?」
エニがフィオスを乗せて飛んでいる自分の魔獣のシェルフィーナを見る。
みんな普通のこととして受け入れているけれど魔獣が小さくなったり魔石になったりと自分の体を変化させることはとても不思議なことである。
野生の魔物にはそんな能力はないので魔獣になると急にそんなことができるようになるのだ。
「かつて研究した人がいたみたいだけど……結局分かんなかったらしいよ」
小さくなっている自分の魔獣であるヴェラインを抱きかかえるウルシュナが答える。
イフリートと呼ばれる火の上級精霊であるヴェラインはパッと見ではコボルトのような二足歩行の獣に近い見た目をしている。
けれどコボルトよりも愛嬌がある顔をしているし、戦いの時になると炎をまとうので今の姿は力を抑えた姿であるとウルシュナは言う。
火の精霊らしく激しい性格をしていて割と周りのものに牙を剥き出したりするのだけど噛み付くことはない。
ジケたちには慣れてきたのか警戒することはなくなってきたので普通の顔を見ると案外可愛い。
「今度クトゥワさんにでも聞いてみればいい」
「そっか、クトゥワさんも魔物研究してたね」
実際クトゥワの知識はすごい。
聞けばなんでもさらりと答えてくれるし知らないことは知らないと言って調べてくれることもしてくれる。
子供相手だからと誤魔化すこともしない。
「にしてもなんか……入り口デカくねえか?」
町を歩いていたリアーネは家の玄関のドアが大きいことに気がついた。
大きさもさまざまであるけれど背の高いリアーネよりも大きなものも多い。
そのためか押したり引いたりして開くものではなく横にスライドさせるような形の入り口の家もある。
「聞いた話では魔獣も入りやすいように大きく作っているらしいです」
リアーネの疑問にユディットが答える。
他の騎士がラグカについて話しているのを聞いていて、その話ではいかに魔獣が小さくなれるといっても限界はあるので普通のサイズの入り口だと入れないこともある。
そのために入り口を大きく作って魔獣も入りやすくしているとのことだった。
「あとは横開きのドアだと魔獣でも開けられるなんてことがあるらしいです」
「ほぉーん」
「家そのものの作りも魔獣用に大きいらしいですね」
どこまでも魔獣に寄り添ったような考えをしている国であるとジケも感心する。
「なんか肉でもくおーぜ」
ウルシュナのことを奪い去ろうとする国ではあるものの、住まう人が全員悪いわけじゃない。
町の雰囲気はとてもいいし、魔獣も共にという考え方は良いものだとジケは思った。
「そうだな。お腹空いてきたしお店探そうか」
今いるのは港町なのでまたしても魚料理のお店っぽそうなのが多い。
完全に空腹になってからお店を探し始めるのは辛いので早め にお店を探してみることにした。
「お待ちしておりました、神女様」
和気藹々とした空気のジケたちの前に立ちはだかる人が現れた。
杖をついた老女を先頭に武装した男たちが数人。
ウルシュナを警護している騎士が二人そっと前に出て、リアーネやニノサンも警戒するように剣に手をかける。
一瞬で空気がピリついたものに変わり、道ゆく人たちがジケたちと距離をとる。
「お迎えにあがりました。まいりましょう」
「まずは名乗るのが先じゃないか?」
ジケがウルシュナを庇うように前に出る。
何者かも分からない相手にウルシュナを連れて行かせることなんてしない。
「ふむ……それは確かに失礼いたしました。私は神巫女のソーネと申します」
「俺はジケです。なんのご用ですか?」
「神女様のご到着を感じ取りました。そのためにお迎えにあがったのです」
「私は別に神女になりに来たんじゃない!」
「そう言われましても、神女様は神女様でございます」
「違う」
「何でしょうか?」
「ウルシュナはウルシュナだ。神女じゃない」
まさかこんなに早くウルシュナのところに人が来るなんて予想外だった。
ウルシュナはまだ神女の役目を受け入れたわけではない。
むしろ神女にならないためにここにいる。
勝手に神女だといって勝手に連れて行かせなんかしないとジケは険しい顔でソーネを見る。
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