木を守るモノ1

「何もないね……」


「ああ、何もない」


 他の場所も特別何かの痕跡があるわけじゃなかった。

 ただやはり自発的な失踪ではなさそう。


 なぜならお昼食べかけの残りが置いてあったり、木材を処理する途中だったりと失踪するにはタイミングがおかしい跡は残っていたのである。

 けれどその他の痕跡はない。


 襲われたタイミングもバラバラなようだし痕跡がないということからこれ以上情報もない。


「何か最近変化はなかったか?」


「変化ですか?」


「そうだ。ここまでのことが起きるのには何かきっかけがあってもおかしくない。森の中での変化、あるいは人間側の森に対する変化などだ」


 時として何の理由もなく魔物が移動することもあるが多くの場合物事には理由がある。

 こんなに人間が襲われるのならきっかけがあってもおかしくないのだ。


「最近あった変化ですか……」


 冒険者はルシウスに言われた変化が何かあったか考える。


「そういえば……」


 ふと手に持っていた地図に目を落とした。


「少し前に担当区域の変更がありました」


「担当区域の変更が?」


「……どこの国だったか忘れましたが木材類を高値で買い取ってくれる時期があって伐採量を増やしたんです。今ではそんな状況も落ち着きましたが、木が少なくなってしまったところがあったり木こりの数が増えたりしたので担当区域を見直したんです」


「木材を高く買い取ってくれるところって……」


「ああ、きっとうちの国だろな」


 話を聞きながら木材を高値で買い取った国はジケたちの国だろうと思った。

 モンスターパニックの影響で虫が大量発生して植物に大打撃を受けた。


 気温が下がってきて寒さを乗り越えるための燃料が国内で確保することが難しくなったので他の国から買い入れたのである。

 どこから買ったかなんて知らないが広く色々な国から買っていたという話は聞いた。


 この国もそうした状況で木材を売った国であった。

 港に近いところに伐採できるところがある。


 他国に木材を売るのにも適した立地だといえる。


「木こり同士の兼ね合いがあるので変更も意外と難しかったようで少し前に正式に決まったんです」


「どんな変更があったのか分かりますか?」


「人が増えたことと木が少なくなったことを踏まえてこれまでよりも森の奥に伐採区域を広げました。……まさかそれが原因で?」


「分からない。だが人間の変化が魔物の変化を呼び起こすことも少なくない」


 やはり何かしらの変化があったとルシウスは目を細めた。

 人間の活動域が広がった。


 単に森の奥に入るのではなく奥に留まって伐採を行うことが今回の事件のきっかけである可能性が浮上してきた。


「森の奥に向かおう。どうにも……そこに原因がある気がする」


 ーーーーー


 森の奥に進んでいくとより木が鬱蒼としてきて、森の湿った空気感が強くなってきた。


「この辺りは伐採区域になって日が浅いので木も多く、魔物が出る可能性も大きいので気をつけてください」


「森の中でも特徴的なものや……目立つものはないか?」


「そのようなものは……もう少し先に行けば古くからある大きな木があります。それぐらいですね」


「古い木か……そこに行ってみよう」


 冒険者の案内で森の奥にある巨木の前にやってきた。


「立派な木だな」


 歴史を感じさせるような太くて高い木が森の奥には生えていた。


「ね、ねえ! あれ!」


「なんだ? ……あれは!?」


 高いなと木を見上げたウルシュナが木の上を指差した。

 何だろうと見上げたジケも驚いた。


「木こりか?」


 木の上の方に木こりがいたのである。

 ツタにぐるぐる巻きにされて木の上から吊るされていた。


「ん?」


 みんなが木こりたちを見上げる中でジケは前に一度感じた不思議な気配を感知した。

 またしても一瞬で消えたけれどまた違う場所に気配が現れて消えるを繰り返している。


「……何かいる」


 これはもう気のせいなんかではない。

 感知をすり抜けるような何かが近くいる。


「総員警戒! 戦闘準備だ!」


 ルシウスはジケが魔力で周りを感知できることを知っている。

 感知能力が優れているジケが何かいるというのならいるのだろうとルシウスは周りを警戒する。


「エニ!」


「わっ!?」


 感知に集中して周りを警戒していたジケはエニの手を取って引っ張った。

 直後エニが立っていたところ何かが飛び出してきた。


「エニ、下がれ!」


 飛び出してきた何かがエニのことを追いかけてきたのでジケは剣を振る。


「枝……根っこ?」


 ジケが切り落としたものを見てエニは目を細める。

 飛び出してきたものは根の枝や根っこに見えるものだった。


「まだ来ます!」


 地面から根っこが次々と飛び出してくる。


「防御陣形だ! 魔法使い、ウルシュナたちを守れ!」


 ルシウスの指示が飛び、騎士たちがウルシュナやエニ、魔法使いたちを囲むように動く。

 襲いかかってくる根っこを騎士たちが切って防ぐ。


「……どこか近くに本体がいるはずだ」


 ただの木の根っこが自発的に攻撃を仕掛けてくるはずがない。

 魔物の一部や魔物が操っている可能性が高い。


 ならば近くに根っこを使っている犯人がいるはずなのだ。

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