身も心も温まりたい5
ジケの狙い通りに箱の中で膨らんだケントウシソウのコブは四角くなった。
「面白いなこれ」
リアーネはずっしりとしたケントウシソウのキューブコアをくるくると投げて回している。
「やはり会長殿はアイデアマンですね」
クトゥワもジケの発想に驚いていた。
確かに丸い状態だと積み重ねるのも難しい。
けれど四角い状態ならば丸よりも積み重ねやすく、保管や移動もしやすくなる。
クトゥワはあくまでもケントウシソウの乾燥コブが水をどう吸収するかしか考えていなかった。
きっとこうした視点は自分の中からは出てこないのだろうなと感心するしかない。
ジケたちは持ってきたケントウシソウの乾燥コブにせっせと水を吸わせる。
ケントウシソウのコブを四角くするための箱はお試しで一個しか持ってきていない。
なのでケントウシソウのキューブコブは実験用として少しだけ作って持って帰ることにした。
「よし帰ろうか」
持ってきた全てのケントウシソウの乾燥コブが水を吸ってまん丸、又は四角い形になった。
かなり窮屈になった馬車に乗って再び町に戻る。
「何読んでる?」
帰りの馬車の中でジケは髪を広げていた。
キーケックが覗き込むと何やら手紙のようであった。
「ん? ああこれは手紙だよ」
「誰から?」
「シダルケイっていって、イェルガルって国の王様なんだ」
「王様!? 王様と友達?」
「友達ってわけじゃないけどね」
「なんのお手紙?」
「これはお礼さ」
「お礼……?」
馬車での行き帰りにでも読もうと思ってイェルガルのシダルケイから送られてきた手紙を持ってきていた。
内容はお礼状のようなもの。
しかもジケが国を助けた恩人であるというものではない。
では何のお礼かというとジケはお疲れ気味のシダルケイにアラクネノネドコを即位祝いとして送っていたのである。
最上級の眠りをお届けするアラクネノネドコはシダルケイにも大ウケだった。
お礼と共にもう少しアラクネノネドコや揺れない馬車が欲しいという要望まで添えられていた。
さすがは商機を逃さない男、ジケである。
ボスタンドのクモも板作りに慣れてきたのでクモたちの負担を減らしつつちょっとだけ増産もできている。
これでイェルガルにさらに恩を売ることもできたのである。
大変そうだから少しでも助けになればと思ってのことだったけれどシダルケイとの関係はもう少し続きそうだ。
「もうすぐ着くぞー」
イェルガルで何があったのか聞かせてほしいとキーケックにせがまれて話してやってるとあっという間に戻ってきた。
馬車を止めてケントウシソウのコブの一部を倉庫にしている部屋に運び込み、他の一部をコブを蒸す部屋に運び込む。
外も少しずつ暖かくなってきたので一階の温かい部屋に日中からいる子供はかなり減っている。
ただ夜になると安全で温かい場所として寝に来ている子供は多い。
時々お礼だといって食べ物なんかをジケのところに置いていく律儀な子もいる。
凍えることなく安全に寝られる場所があるというだけでも貧民街の子供たちにとってはとてもありがたいことである。
「んだこりゃ?」
コブ搾りもちょっと進化している。
最初は押し潰すようにして頑張っていたのだが今は大きなネジを回して圧力をかけて搾るものを使っていて、多少時間はかかるものの子供でも簡単に水を搾れる圧搾機が部屋に備えてある。
リアーネも何度か部屋に入ったことがあるので圧搾機の存在は知っていた。
リアーネが気になっているのは圧搾機ではなく部屋の隅に置いてある見慣れない木の箱であった。
人が入れそうなサイズがある木の箱でこれまで見たこともなければ何のために使うのかも分からない。
「ふふふ……」
「な、何笑ってんだよ?」
ジケは不敵な笑みを浮かべる。
「これはお風呂、の試作品なのだ!」
「ふ、風呂ぉ? 風呂ってあれか、貴族とかが入ってるやつか?」
「そのとーり!」
この世界にお風呂という文化がないわけではないが貧民街にそんな文化はないといっても過言ではない。
水も貴重で、お湯を沸かすのだってなかなか大変なのにお風呂になんて入っている余裕なんてある人が貧民街にいるはずはない。
基本は相当汚れるまで放置して水を浴びたり、綺麗好きなら濡れた布で体を拭くぐらいである。
リアーネは女の子らしく普段は濡れた布で体を拭いて、時折水をかぶって体を綺麗に保っている。
けれどお風呂に入ることなんてまずない。
平民でもお風呂に入る人は少なめで首都であるここにはお金を払えば入れる公衆浴場もあるけれど、毎日通う人は少数派になる。
「まずは蒸して水を取り出せるか試してみよう」
そもそも水が取り出せねば何の意味もない。
一階中央にある大きな焚き火の上に鉄鍋を置いて水を入れる。
程なくして水が沸騰し始めて蒸気が立ち上る。
焚き火の上の天井は網目になっていて蒸気がそのまま二階の部屋にやってくる。
圧搾機がある部屋には箱状になっている場所があって中に蒸気が溜まるようになっていて、その中でケントウシソウのコブを蒸し上げる。
「そろそろかな?」
ジケがかぱっと箱を開けるともわっとした空気が立ち上り、覗き込む顔がほんの少ししっとりとする。
「任せとけ」
厚手の手袋を身につけたリアーネが箱の中からケントウシソウのコブを取り出す。
「こっちに」
圧搾機ではなく部屋の隅に置かれた簡易浴槽の方にケントウシソウのコブを持っていく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます