兄の決断

 反撃に失敗したシダルテイは追い詰められた。

 もはや盛り返すことが不可能というところまできていたのだがシダルテイはとんでもない提案をシダルケイに持ちかけた。


「なりません! きっと相手は何かの策があるはず」


「もしかしたらシダルケイ様を引きずり出すための罠かもしれません」


「この後に及んで決闘などあり得ません!」


「だが決闘で勝負がつくなら早く戦争が終わるかもしれない」


「昔からシダルケイ様の方がシダルテイより強かった。決闘であっても間違いなく勝てるはずだ」


 シダルケイ陣営が開いた会議は紛糾していた。

 それはシダルテイの提案のためであった。

 

 反撃の気勢を失い防戦に転じたシダルテイが使者を使って書簡を送ってきた。

 シダルテイは書簡にて一時停戦とシダルケイとの一騎打ちの提案をしてきたのである。


 もはやシダルテイの負けは決定的であるけれど長く続いた内戦はシダルケイとシダルテイの関係を相容れないものとした。

 負けが見えていたとしても大人しく降伏することなどできないところまできているのだ。


 このまま戦争を続けたとしてもシダルテイは降伏せず最後の一人になるまで戦うことになる。

 無駄に被害は大きくなり、望まぬ血が流れ続けてしまう。


 そこで決闘で勝敗を決めようと提案したのである。

 シダルケイとシダルテイの決闘で勝負を決めて負けた方が降伏する。


 かなり突拍子もないことを提案してきたもので、シダルケイ側も意見が二つに割れていた。

 一方は決闘を受けるべきではないという意見。


 このまま戦っていけば勝てる戦争なのだからリスクを冒して決闘に応じる必要などなく、停戦の申し出もつっぱねてしまえばいいと主張している。

 他にも罠の危険がある、万が一決闘で負けたり、勝ってもシダルケイの身に何かがあればと心配する声も上がっている。


 もう一方の意見としては受けるべきだという意見がある。

 内戦の早期終結はイェルガルの多くの人にとっての悲願である。


 長く抵抗が続くのなら決闘で終わらせることも一つの考えなのだ。

 シダルケイとシダルテイでは昔からシダルケイの方が強かった。


 よほどのことがない限りシダルケイの方が強く、決闘に臨んだとしても勝てる見込みの方が大きかった。

 どちらにしてもメリット、デメリットがある。


 何を優先するかによって取るべき選択は変わってくるのである。


「いかがなさいますか?」


 シダルケイは目を閉じて黙したまま考え込んでいた。

 耳に聞こえてくるさまざまな意見を聞きながら己がどうすべきなのか己に問うていた。


 正直なところ信じたいという思いがどこかにあった。

 最後の最後に直接対決で終わりにしたいというシダルテイの心意気が本物であるということを信じたかった。


 王座が兄弟の仲を引き裂き、戦争が二人の溝をより深くした。

 仲が良かった頃に戻ることはないけれども争いがシダルテイを卑怯な人間にしてしまったと思いたくはなかったのである。


「……この手で終わらせよう」


 シダルケイが口を開くとその場一気に静かになった。

 ここまで戦争でもついてきてくれた部下たちを見るシダルケイの目には決意が宿っていた。


「民のためを思えばこの内戦は早く終わらせるべきだ。たとえ罠でも我々は負けない。正面からシダルテイを倒し……イェルガルを平穏の時代に導こう」


「……どこまでもついていきます!」


 真っ先に立ち上がったのはカイトラスだった。

 実直な男であり、シダルケイの信頼も深い。


 たとえ罠が待ち受ける決闘だとしても命尽きるその時までシダルケイと共にするつもりであった。


「やってやりましょう!」


「これを最後の戦いに!」


「お供いたします!」


 次々にみんなが立ち上がり、シダルケイの意見に賛同していく。


「攻撃を止め、決闘の詳細を詰める。備えよ。決着の時は近い」


 シダルケイは決闘に応じることを覚悟した。

 決闘に向けて戦場では兵が戦いをやめて引き下がり、どこで戦うことになるのかシダルケイとシダルテイで互いに使者を出して話し合いが行われたのであった。

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