骸骨と戦って9

「残念、女性が行ってしまった」


「ユディット、ニノサン、行くぞ!」


「はい!」


「お任せください!」


 ニノサンが光の軌跡を残しながらリッチに接近する。

 昔は全く見えなかったニノサンの動きもジケはいつの間にかそれなりに追えるようになっていた。


 それでもまだしっかりと動きをとらえて反応するのは難しい速度で動くニノサンがリッチに向かって剣を振り下ろす。


「うっ!」


 リッチに当たる直前で剣が止まってニノサンは顔を歪めた。

 リッチは魔力による薄い膜のようなシールドを作り出して剣を防いでいた。


 想定しないところで想定しない衝撃が手に襲いかかってきてニノサンが怯む。


「ふふ、僕はイケメンが嫌いだ」


「させるか!」


 リッチがニノサンに手を伸ばした。

 リアーネのようにはさせないとユディットが剣を振った。


「むっ? おっと」


 リッチはニノサンに伸ばした手を止めて飛び退き、一瞬遅れてユディットがシールドを切り裂いてガラスが割れるような音が響いた。

 剣はかわされたもののユディットの魔剣は魔法でも防ぐのは簡単じゃない。


「厄介な……」


 ユディットの魔剣に脅威を感じざるを得ないリッチにジケが迫った。

 真白な魔力をまとうジケの剣を見ればそれも魔剣であることは間違いない。


 単に魔力を固めただけのシールドではなくちゃんとした防御が必要だとリッチは氷を固めて小さい盾を作り出した。


「瞬間の妙技、師匠の剣はどんな魔法でも切り裂く」


 白い魔剣にはさらにジケの魔力も込められている。

 魔力をとらえることもできるリッチにはジケがほとんど魔力もないことは分かっていた。


 子供の力でもあるし、いかに魔剣といえど頑丈な氷の盾を切り裂くことはできないだろうと思っていた。


「……んん? なに?」


 気づいたらジケは剣を振り切っていた。


「うわっと!?」


 手を返して再び振られたジケの剣をリッチはなんとか回避した。


「……どうやったのかな?」


 氷の盾は斜めに切り裂かれていた。

 それだけでなく氷の盾の裏にあったリッチの左手も切り落とされて地面に落ちている。


 痛みを感じないリッチは切り落とされた左腕の骨で頭をかく。


「ただの子供じゃないみたいだね。油断したよ」


 氷の盾を切り裂くなんて常人の技ではない。

 なぜこんなところに子供がいるのか分からなかったけれどただの子供ではなかったのかとリッチは納得した。


「今度はこちらからいかせてもらうよ」


 リッチが残された右手をサッとあげると空中に十数個の黒い闇の玉が生み出される。

 なんだかかつて戦った悪魔教の男を思い出すなとジケは思った。


 あの時はまだまだ剣を習い始めたばかりだったし体は細く、武器はなんとか見つけ出した火かき棒だった。

 今は体つきもしっかりしているしグルゼイにだって多少は褒められるぐらいに技量も上達した。


 武器だってまともなものを持っている。


「ほほぅ?」


 黒い魔法の玉を飛ばしたリッチは驚いていた。

 ジケは下がるどころか前に出てきた。


 自分に迫る魔法を切り裂いて進み、全く速度を緩めることをしない。

 ユディット以上にジケの攻撃は魔法使いの大敵だとリッチは察した。


 殺さねば。

 

 そうリッチは考えた。


「ダークハンド」


 巨大な黒い魔法の手がジケに迫る。


「会長!」


 魔法の手がジケのことを握りつぶすように包み込む。

 ユディットが慌ててジケのところに向かうけれど間に合わない。


「……これもダメ?」


「こんなものきかないさ!」


 魔法の手を切り裂いてジケが中から飛び出してきた。


「めんどくさい!」


 ジケに目の前に来られてリッチは舌打ちしたいような気分だった。

 そもそもリッチは目がないので視覚でものを見ていない。


 ジケが行っている魔力感知のような原理で魔力で世界を見ていた。

 けれどもジケは魔力が多くない。


 みんなの魔力をもらって少しはマシになったけどそれでもまだ多いとはいえないのである。

 表に出しているような魔力なんてものは当然少ないのである。


 さらにはその少ない魔力だって常日頃から完全にコントロールしている。

 つまりリッチの感覚でジケを見た時には非常に存在が希薄なのである。

 

 魔力を持った剣が浮いているぐらいに極端で、ジケの動きがリッチにとってはとても見えにくいものとなっていたのだ。

 魔法を切り裂いてくる上にどう動くのか見えない。

 

 魔法を使ってジケ周辺の魔力が濃くなってしまうと余計にジケの姿が魔力に覆い隠されてしまうなんて不都合まで起きていた。


「あっ!」


 リッチは空を飛んで逃げた。

 しつこく食い下がってくるジケと距離を取りたかったのである。


「なんなんだ……」


 舌があったら舌打ちしてる。

 計画のためにはこんなところで立ち止まっていられない。


 それなのに見知らぬ異端審問官と見知らぬ魔塔の魔法使いと見知らぬガキに邪魔されている。

 リッチは内心で苛立ちを覚えていた。


「シダルテイ……雑な仕事しやがって……」


 スケルトンもかなり減ってきている。

 柵がないところまできて直接の戦いとなっているけれど異端審問官と魔塔の協力がある兵士たちはスケルトンに一歩も引かずに戦えている。

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