骸骨と戦って8

 切り裂かれた剣のスケルトンナイトは地面に倒れた。

 そして骨の部分がサラサラと崩れて消えていく。


 後に残されたのは剣のスケルトンナイトが持っていた剣とリアーネに切り裂かれた鎧だけだった。

 骨のところがなくなってしまったので完全に倒したとみてもいいだろう。


「次は……」


 次に何を相手にすべきかジケは戦いの様子を見回す。


「ダンデムズさん!」


 バルダーとグルゼイは相変わらずの戦いをしていた。

 グルゼイの方はやや槍のスケルトンナイトを押している感じであったけれど、完全に形勢が傾くまではいっていなかった。


 それに対してまた新たな戦いが起こっていた。

 複数に囲まれて不利な戦いにもかかわらずリッチが剣のスケルトンナイトを支援しに来なかったのには理由がある。


 それはリッチも戦っていたからであった。

 明らかに人数不利で押されていたリッチは剣のスケルトンナイトを手助けしようとした。


 しかしそれをいち早く察知したダンデムズがリッチを止めようと動いていたのだ。

 リッチはアンデッド系で最高峰の魔物であり、魔法を使う魔物としてもトップクラスになる。


 そしてダンデムズは世界中の魔法使いが集まる魔塔で長老という座についている人である。

 おそらく人間の中でもダンデムズは上位数パーセントに入る魔法使いといってもいい。


 ジケたちが見ていない横で魔法による激しい戦いが繰り広げられていたのであった。

 しかしジケが見た時ダンデムズは膝をついてリッチのことを睨みつけていたのである。


 どう見たって勝っている状況じゃない。


「おや、やられてしまいましたか。まあいいです。……恨まないでください。所詮は人間の身であり、どうしても限界はあるのです」


「ふん……魔物に身を落としてまで強くなりたかったのか?」


「落ちるだなんてとんでもない。私は上がったのです」


 人の体を捨てて魔物であるリッチになることは魔法使いの間でも最大の禁忌とされる。

 愚かで恥ずべき行為であり、リッチのことを人としての誇りを捨てた者だと蔑む人もいる。


 ただリッチになる者、なろうとする者は後をたたない。

 理由はたくさんある。


 主なものとしては生への執着だろう。

 人生の先が短くなると人間は残された時間の短さに思い悩み始める。


 残された時間と残した物の大きさが釣り合わない時には悩みは執着へと変わる。

 こうした執着の先にリッチになるということがあるのだ。


 だがリッチになるということは魔物になるということであり、どれだけ取り繕っても人間性を捨てるということに他ならない。

 自分の位が上がったなど詭弁であるとダンデムズは思う。


「あなたなら分かるでしょう? 肉体というものの限界、魔獣に頼らざるを得ない魔力、そして何をするにも足りない時間……」


 手を広げたリッチは偉そうに講釈を垂れる。


「リッチになれば全てが解決する。好きなように生きて、好きなように実験もできる。魔力を魔獣に頼ることはなく、この体は疲れることも知らない」


 リッチは笑っているように見えた。

 表情などないのでそんなはずないのにカタカタとアゴを鳴らすリッチはダンデムズを嘲笑っているように感じられた。


「あなたもこちらに来ませんか? 今なら私が手伝いますよ」


 リッチは差し伸べるようにしてダンデムズに手を伸ばした。


「ダンデムズさん、大丈夫ですか!」


「おっと……邪魔が入ったか」


 ニノサンとユディットがリッチに切りかかる。

 その間に再びフィオスを盾にしたジケがダンデムズに駆け寄る。

 

 後ろから切り付けたのにリッチは簡単にかわしてしまった。


「よく彼を倒しましたね。剣で名を立てた高名な冒険者だったのですが流石に四人相手では厳しかったかな? いや……前に戦わせた時は十人相手でも」


「何をブツクサ言ってやがる!」


「あなたたちなかなか強そうですね」


 リッチが振り下ろされるリアーネの剣に手を伸ばすと一瞬で凍りついてしまった。


「らああああっ!」


「はははっ、ワイルドな女性だ!」


 剣が動かないと察したリアーネは一瞬で判断を下した。

 剣を手放して素手でリッチに殴りかかる。


 ほとんど迷うこともない判断で、ジケも見習うべきような素早さだと感心してしまった。


「リアーネ!」


 けれどリッチの行動も早かった。

 逆の手をリアーネの方に向けると小さく爆発が起きた。


 魔法使いというのは基本的に接近戦を苦手とする。

 魔法の修練に多くの時間を割くので体を鍛えたり接近戦闘を習うことがないために近づかれるとどうしても対応できないのである。


 だがリッチは魔法を使ってリアーネの攻撃に対応してみせた。


「リアーネ、大丈夫か!」


「問題なし」


 爆発の煙の中からリアーネが下がってきた。

 リアーネはとっさに腕に魔力を集めて爆発の衝撃に耐え抜いた。


 少しばかり火傷を負ったけれどこれぐらいなら後で治せばいい。


「リアーネ、一回下がるんだ!」


「でも……」


「でもじゃない!」


 リアーネにとっては軽い怪我かもしれないけれどジケにとっては軽かろうが重かろうが怪我は怪我である。

 ジケに言われてリアーネは引き下がる。


 エニならばすぐに腕も治してくれるだろうと走る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る