骸骨と戦って5

 短い間にしっかりとした柵を用意できたのはオオツアイの職人たちが協力してくれたからだった。


「本当に来るのかね?」


 準備はすごいけれど若干の懸念はある。

 そもそもこの準備、スケルトンがまっすぐ進行してくるだろうという予想を元に計画されている。


 スケルトンが避けたり、もし仮に相手にリッチがいるなら迂回するということも可能性としてあり得るのだ。

 なのでちょっと不安。


 草原の片側に大きめな川が流れているので迂回方向などの特定は容易で待ち構えることはできる。

 でもその場合は柵もなく正面からやりあうことになるのだ。


 そのまま真っ直ぐ来てくれと願うしかない。


「現在スケルトンは予定通りにこちらに向かっております!」


「そうか」


 偵察に出していた兵士が戻ってきてカイトラスに報告する。

 今のところスケルトンはオオツアイの町に真っ直ぐ進行を続けている。


 このまま進むとジケたちが待ち受けている場所とぶつかることになる。


「スケルトンは武器を所持しているものも多いです」


「……それは厄介だな」


 やはり戦場の死体かとカイトラスは思った。

 スケルトンは多くの場合人間の骨が魔力を持って動き出す不思議な魔物である。


 そこらに倒れているものが急に魔物化することもあるのだが元死体なので何も持っていないということも普通に起こりうる。

 けれど例えば冒険者の死体がスケルトンになった場合近くに生前使っていた武器などがあると手に取ることがある。


 大体の場合スケルトンになるまで放っておかれているので武器もサビサビだったりするのだけど何もないよりは遥かに脅威度が上がってしまう。

 イェルガルは長いこと内戦が続いていた。


 戦いによって亡くなった人も当然多く、戦いによっては亡くなった人の回収ができていないところもある。

 そうした人たちは戦場でなくなったのだから近くに武器がある。


 武器を持ったスケルトンが多いということは戦場で亡くなった人がスケルトンになった可能性が高いのである。


「止めねばならないな」


 悪魔教がやったことかもしれないということはカイトラスも聞き及んでいる。

 本当に悪魔教がやったことだとしたら死体を弄ぶ侮辱的な行為であり、スケルトンにされてしまった人たちを倒して止めてやらねばならないと怒りすら覚える。


「見えてきたな」


「おっ、本当に真っ直ぐきたんだな」


 朝早くから待機していたジケたちにも遠くの方にスケルトンの姿が見え始めた。

 ゆっくり移動しているように見えるスケルトンは着実にオオツアイの方に向かっていて一定程度の統率が取れているようにも感じられた。


 けれどその一方で不自然な柵を迂回していくような様子はなかった。

 ただ真っ直ぐオオツアイに向かえと命令でもされたようだとジケは思った。


「このペースなら昼頃には戦いになりそうだな」


 今陣取っている場所で問題なく戦えそう。


「ほんじゃ戦いに備えて飯でも食うか」


 ーーーーー


 生きているものの気配をスケルトンが感じ取った。

 表情なければ泣き声を上げることもないスケルトンが何を思っているのか知る人はいないが、スケルトンは生きている人を羨ましく思って襲いかかるのだと言う人もいる。


 一番前に配置した柵の後ろにジケはいた。

 もうしっかり姿が見えるぐらいの近さまで来ていたスケルトンはジケたちに気がついて移動の速度をわずかに上げた。


「おーおー、怖いね」


 全く怖いとも思っていなさそうな顔でリアーネはスケルトンを見ている。


「全員準備を!」


 用意していた作戦は柵を立てるということだけではない。

 ジケはサッと手を上げた。


 その手には布のようなものが握られている。

 他の人たちもジケと同じものを手にしていてスケルトンを睨みつけて構えている。


「放て!」


 カイトラスの号令で一斉に動く。

 布のようなものを振り回してパッと手を離すと布の中から石が飛んでいく。


 勢いよく飛び出した石は迫り来るスケルトンに当たって骨を砕く。

 カイトラスは少しでも安全にスケルトンを減らすための準備もしていた。


 それがジケたちの使っている投石器である。

 布と紐で作られたものでジケのような子供でも石を高威力で飛ばすことができる道具だ。


 普通の魔物が相手なら弓矢を使用するのだけど、弓矢は扱いが難しくスケルトンに対して効果も薄い。

 対して石ならば矢よりもスケルトンに対して効果は大きくて準備も容易く、投石器を使えば高い威力で真っ直ぐ飛ばしやすくなる。


「当たりぃ!」


 投石が当たってリアーネは子供のように喜ぶ。

 力もあるリアーネは投石器を使って石を投げるのが非常に上手かった。


 リアーネが投げた石はスケルトンの頭蓋骨を粉々に粉砕して、残された体の部分は機能を失って地面にバラバラと崩れ落ちる。


「ふんっ……上手くいかんな」


「やった! 当たりました!」


 異端審問官たちも投石器を使って石を投げている。

 弓矢だと多少コストもかかるが石ならばそこらに落ちているのでコストはかからない。


 乱雑に石を投げても全く問題にならない。

 石を投げるのを補助してくれるのが投石器である。


 スケルトンが来るまでの間の少しの練習で基本的にみんな上手く投げられるようになったのだけどバルダーは不器用で石をうまく投げられなかった。

 味方に石を投げないだけマシであるが明後日の方向に石は飛んでいってしまう。

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