相手は知らぬ恩を返し1
町で行われていた祭りも終わり、町中はいつもの調子に戻っていた。
ジケもいつも通り過ごしていたのだがただ何もせずに過ごしていたわけではない。
生産力の強化は急務であると日頃から考えていた。
クモたちの負担も減らしてあげたいし、トカゲやカエルも増やして本格的に商品を作るつもりもあった。
ジケは王様を色々助けたので恩賞として貧民街や平民街における魔獣契約事業のに関わっていて、その範囲内であれば誰がどんな魔獣と関わっているか分かる。
さらには実験目的である正当な理由を用意することができればクトゥワを通して魔獣の情報を公開している人ならリストも入手することも可能。
こうした情報力を活かしてジケは共に働けそうな人を調べていた。
もちろんジケだけの手では足りない。
なので今回はオランゼのでも借りている。
ゴミ捨て事業でもいまだに関わっているけれど情報屋の顧客としても優良でお得意さんになっておくのだ。
そうして調べる中で一人気になる人がいた。
ボスタンド・ケライドという人である。
クモを魔獣としていて研究目的の魔獣リストの中に名前があった。
オランゼに調べてもらったところボスタンドはとある小規模な工房の工房主だった。
フィオス商会におけるノーヴィスの工房みたいに商会に属している工房なのだが、注目すべきはボスタンドの工房を所有している商会の方だ。
シゴム商会というところが工房を持っている。
なんてことはないただの商会なのだがジケにとっては違う。
実はシゴム商会というのは過去においてクモノイタを開発した商会なのであった。
ジケにも罪悪感はある。
クモノイタを先んじて作ってしまったためにシゴム商会の未来を潰してしまったという思いはどこかにあった。
だがもう少し調べてもらってシゴム商会についても分かったことがあった。
「工房の人を増やすだと?」
ジケはノーヴィスのところを訪れていた。
馬車作りを始めとしてノーヴィスの工房には色々と作ってもらっている。
今のところ孤児院の子供たちも手伝えるようになって手はギリギリ足りているけれど、クモを増やして生産力を上げると工房の方が回らなくなる可能性がある。
新しく人を雇って育てていく方法もあるのだけど手っ取り早いのは他でやっている職人を抱えてしまうことだ。
そしてもっと早いのは工房ごと買収してしまうことである。
ジケは小規模な工房の職人を丸っと買収してしまおうと考えてノーヴィスに相談を持ちかけたのだ。
「まあ確かに今のうちに余裕は必要かもしれないな」
ノーヴィスは腕組みして考える。
現在工房の手は足りている。
ただ子供たちも少しずつ職人として成長しているがギリギリなことに変わりはない。
むしろ今以上に忙しくなったら新しく人が来ても教えてあげられるような余裕すらなくなる。
どこかを買収して人を入れるのにもちょうどいいタイミングかもしれないとは思った。
「ただどうしてケライド工房なんだ?」
首都の中でも工房は山ほどある。
商会持ちの工房など狙わなくとももっと金銭的に困っているところや経験のありそうなところだってあるだろうとノーヴィスは指摘する。
「そうですね……馬車作りの経験もありますし……」
罪滅ぼし。
その言葉がジケの頭に浮かんだ。
最初は申し訳ないからシゴム商会のボスタンドを引き抜くのはやめておこうと考えていた。
しかしシゴム商会について調べてみて考えが変わった。
「何より彼らは搾取されているんです」
「搾取だと?」
「シゴム商会はクズです」
ジケは過去でいろんなところで働いた。
長くいたところもあったが短く終わったところもある。
ジケは貧民で能力も低かったために基本的にはあまり良いとは言えないところでばかり働いていた。
人を使い潰してどうにか運営しているような商会もたまには存在している。
他に行く当てがなかったり借金があることを盾にして安く人を使うところもジケの経験にはあった。
シゴム商会はそうした商会なのである。
「シゴム商会は一部の商会員が私服を肥やして他の働いている人から金銭的な搾取を行っているんです」
そんな予感はあった。
過去でもシゴム商会はクモノイタの技術についてギリギリまで高い利益を得ようとしていた。
ジケは平民向けにオーダーメイドではないタイプの馬車を用意したりして価格を抑えたものを購入できるようにした。
もっと普及が進んでいけばより価格を抑えたものも検討しているが、過去のシゴム商会は貴族用のものを平民でも買うように言って利益を上げていたのだ。
それを悪いとは言わない。
商会として利益を得るのは当然のことである。
ただあくどいやり方をする商会は大体中でも何か問題のあるやり方をしていることも多い。
シゴム商会はボスタンドを搾取していたということが調査によって分かった。
「まぁーたなんか嗅ぎつけたんだな」
ノーヴィスはジケの目を見ながら口の端を上げて笑った。
「嗅ぎつけたってほどのことじゃないですよ」
知ってしまった、というのが正しいかもしれない。
ボスタンドは若くして工房を継いだ真面目な青年らしい。
工房には馬車作りの経験があり、なおかつボスタンドはクモの魔獣の契約者である。
そのことから考えるとボスタンドがクモノイタを見つけて開発し、馬車も作っていたのではないかとジケは思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます