大泥棒が休む場所1

 グルゼイが流した情報を元にして森林周辺で冒険者たちが魔物の捜索を行うことになった。


「行くんですか?」


「当然だ。魔物など恐るるに足らん」


 一方でジケたちもまた森の中にいた。


「むしろチャンスかもしれません!」


 理由はいくつかある。

 第一にグルゼイが暇だから。


 せっかく外に出る理由ができたのに魔物如きに恐れをなして止めるなんてことをするつもりなかった。

 見えない魔物だろうがジケとグルゼイには感知できるので戦いようもある。


 一度引いてしっかり冷静になったので魔物の感じも掴めた。

 次はグルゼイも逃すつもりがなかった。


 第二にモロデラがまた興奮した様子でジケのところを訪ねてきたからである。

 他に秘密拠点のヒントになりそうなことはないかと調査するといって帰ってすぐに手記を眺めていた。


 そこで手記に今回の件に関して繋がりがありそうな言葉を見つけたのである。


「もしかしたらあの魔物はパルンサンの魔獣だったものかもしれません!」


 非常に鼻息の荒いモロデラによるとパルンサンの魔獣についての記述が見つかったのだという。

 これはパルンサンがどうやって盗賊としてやっていたかにも大きく関わってくる。


 姿を消す能力を持った魔物がパルンサンの魔獣であった。

 その能力を活かしてパルンサンは色々な場所に忍び込んでいたというのだ。


 やはりか、とジケは思った。

 姿を消す能力なんか本当にあるのかと普通の人なら疑うところであるがジケは実例を知っている。


 だからあり得ない話ではないし、むしろ数々の盗みを成功させたことを考えるとそれぐらいの能力があって然るべきだ。

 その記述に合うような魔物がたまたま現れた。


 つまりはパルンサンの秘密拠点が近くにあるからそのような魔物がいるのではないかとモロデラは考えたのである。

 多くのツッコミどころは残っている。


 森はずっとあったわけだしどうして今になってそんな魔物が出てきたのかとか、パルンサンそのものが遥か昔の人であり魔獣が生きているはずがないということなど細かいところで疑問はある。

 ただ偶然と片づけるのにも少し話が合っている感じはある。


「きっと森のどこかにご先祖様の秘密拠点があるんですよ!」


 グルゼイに怒られるので控えめにしながらも興奮しているモロデラは地図を見ながら次の候補地に向けてみんなを先導している。

 例の消える魔物を探しているのか冒険者と思わしき人と時々すれ違う。


 流石にこれだけ人がいたらジケたちが襲われることもないだろう。


「私としてはここら辺が一番怪しいと踏んでいるんです」


 モロデラが案内してきた場所は森の中にを走る川の源流となっているところだった。

 少し高いところから水が染み出し流れていってやがて川となっていく。


 そんな水が染み出すところが周辺にいくつかあった。


「どうしてここが怪しいと?」


「パルンサンの手記を調べると川で遊んだような記述が出てくるのです。懐かしい思い出の地。正確にはどこの川なのかまでは分かりませんが他の川は違ったので」


 関わりのある場所ならば何かがある可能性が高い。


「それにしてもどう探すの?」


 エニが周りを見回す。

 涼しくて気分のいい場所ではあるがゴツゴツとした岩が多くあって前の開けた場所のように地面を突いて探すのは難しそう。


 仮に地面を突いても岩が多いので何か硬い物に当たっても隠された入り口だと分からない。

 ジケもその意見には賛成だ。


「簡単なことですよ」


 おっ、何か方法があるのかとジケは期待した。


「ここらにある全ての岩や石を触って確かめるんです!」


「なんだって?」


 聞き間違いかと思ったのはジケだけじゃなかった。

 怪訝そうな顔をしてリアーネが聞き返す。


「ふふふ、私の調査によるとですね! パルンサンには協力者がいたんです!」


「協力者?」


「そうです! 彼、なのか、彼女、なのかは分かりませんがともかく装置のプロが仲間にいたようです!」


 モロデラはさも自身ありげに胸を張って説明を始める。


「装置ってなんの装置だよ?」


「主に罠などのプロのようです。大事なものを守るためにトラップなどを設置している人も多くいます。そうしたトラップを避けたり解除したりするために協力者してくれる人がいたようなのです」


「それがなんの関係あんだよ?」


「その協力者は元々建築関係の人で罠を解除するだけでなく罠の設置やそうした罠装置を含めた拠点を作ることもできたそうです」


「じゃあその人がパルンサンのために秘密拠点を作ったということ?」


「その可能性は高いと思います。そして協力者が作った拠点なら入り口もなんらかの装置となっていると思われるのです。自然物に紛れさせてスイッチとなるものがあるはず……なんです」


 最後言葉のキレが悪い。


「それでここにある全ての岩を触って確かめるというんですか?」


「時間がかかることは重々承知です。ですが他に方法はありません」


 ジケは改めて周りを見る。

 無数の岩がある。


 これら全てを確かめるにはどれだけの時間がかかることだろうか。

 でもジケはきっとモロデラはやり遂げたんだろうなと思う。

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