ニャボルト2

 ニャボルトたちはウサギを引きずっていき、少し木々の密集しているところまでやってきた。


「結構いるな」


「中ぐらいの規模ってところだな」


 木々の間からニャボルトが飛び出してきてウサギを食べ始めた。

 ちょっとばかりグロテスクな光景にリアーネが心配そうな視線をジケに向けるけれど、ジケは普通に顔をしかめていた。


「はー、気持ちのいい光景じゃないな」


 当然ながら上品なお食事シーンではない。

 でも別に自然の摂理ではあるしそれ以上は何も思わない。


「大体の数も棲家は把握できたな」


「そうだな。バレる前に帰ろう」


 ーーーーー


「うわぁー、ほんとに可愛くない……」


 エニがニャボルトを見て顔をしかめる。

 ジケから可愛くないぞと聞いていたけど実際に見てみると確かに可愛くなかった。


 ニャボルトは倒せそうだから倒してみることにした。

 タミとケリには村でお留守番してもらうことにしてジケたちはニャボルトの棲家近くまで来ていた。


 今ニャボルトたちはお腹が満たされたからなのか寝ていたり毛づくろいしている。

 仕草としては可愛いはずなのにニャボルトが可愛くないからこうした仕草も可愛さを感じない。


「あれぐらいなら問題はないだろう。ジケとユディット、それにエニで戦うといい」


「え、私も?」


「いつまでもジケの後ろに隠れているつもりか?」


「むっ、そう言われると戦わないわけにいかない……」


 これまでヒーラーとしての役割が大きかったエニであるがただ治すだけがエニのできることではない。

 過去では火焔の聖女と一時期呼ばれるほどに火の魔法を得意とした魔法使いでもあった。


 以前アカデミー地下にあるエスタルのダンジョンをクリアした時にもらった赤い杖のディスタールもエニの炎を補助してくれるものである。

 エニが本気になればかなりの大火力を発揮できるのだ。


 ただ実戦経験が少ないことは否めない。

 兵士時代も教会からの要請で教会にいる時間も長かったので戦うような経験はあまりなかったのである。


 この先もジケと一緒にいるつもりなら何かと戦うこともあるだろう。

 エニの経験や連携の強化のためにエニも戦うべきだとグルゼイは考えていた。


「守られるだけというのは辛いものだ。できる時に経験は積んでおけ」


「……はい」


「任せたぞ、エニ!」


「ジケも戦いなさいよ!」


 イジワルで戦わせようとしているのではない。

 エニのためであり、ジケのためである。


 エニだってただ守られるだけの子ではない。

 攻撃も回復もできる貴重な存在であるのだから是非とも強くなってもらわなきゃなとグルゼイは目を細めてジケとエニを見ていた。


「まあ、危なそうなら俺やリアーネもいる。好きに戦え」


「ちぇ、今回はお休みか」


 リアーネがつまらなそうに口を尖らせる。

 ジケもユディットも強いことは知っている。


 危なそうならなんて言うけれど出番はなさそうだと思っていた。


「それじゃあサクッと倒しますか」


 ちょうど食事後でニャボルトも油断している。

 襲撃するなら今がチャンスである。


「エニ、一発頼むぞ」


「任せて!」


 エニが集中を高めるとエニの杖であるディスタールが淡く光る。


「いけるよ!」


「ユディット!」


「いつでもいけます!」


「んじゃ、いくぞ!」


「くらえー!」


 ジケとユディットが飛び出し、その後ろからエニが魔法を放つ。

 渦巻く火炎がジケの横を通り過ぎてニャボルトに襲いかかる。


 ただ近くを通り過ぎただけでも強い熱を感じる炎を油断していたニャボルトがまともに食らった。

 爆発するようなエニの魔法に食らっていないニャボルトたちも驚いている。


「はっ!」


 先に切り込んだのはジケ。

 燃える仲間を呆然と見つめるニャボルトの首を一太刀ではね飛ばす。


「僕も負けません!」


 続いてユディットもニャボルトをズバッと大きく両断する。


「私もまだまだ行くよ!」


 混乱極めるニャボルトであるがエニがさらに火球を飛ばして攻撃し、落ち着く隙を与えない。

 ようやく敵襲だと気がついたニャボルトが唸り声をあげる。


「そんな声に怯むはずないだろ!」


 ジケに向かって牙を剥き出して威嚇するような顔を向けるがそんなことされても何も怖くない。

 一切の容赦なくジケはニャボルトを切り捨てる。


「ほっ!」


 ニャボルトも反撃し始めた。

 素早くジケに近づいて鋭い爪を振り回す。


 意外と速度があったけれどジケは冷静にフィオスの盾で爪を防ぐ。


「ジケ!」


「助かった!」


 ジケの後ろに迫ったニャボルトに炎の槍が突き刺さって勢いよく燃える。

 ただの火力だけじゃない。


 繊細で素早い魔法だってエニはできる。

 多少の乱戦の中でもしっかりと狙いを定めて魔法を当てている。


「まだ出てきたぞ!」


「あれは!」


 表に出ているニャボルトが全てではなかった。

 木が密集しているところから騒ぎを聞きつけたニャボルトがさらに飛び出してきた。


 その中に1体他とは違うニャボルトがいた。


「なんか……艶かしいな」


 ニャボルトは子供のような大きさにずんぐりむっくりした体型であるのだが、1体大きなニャボルトがいた。

 大人ほどの大きさがあり、一目見て違うと分かる。


 ただデカいだけのニャボルトでもなく、体つきがやや女性っぽいのである。

 魔物なのでもちろん服なんか着てはいない。


 一応全身毛で覆われているがシルエットに女性感があってなんとなく艶かしさを感じる。


「ホブニャボルトってところかな?」


 ニャボルトの進化種、一つ上の魔物である。

 弱目の魔物は進化も早いので進化種がいることはあり得るがあんな感じで体格が人寄りになるのは驚きだった。

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