ニャボルト1
困っていると知っては見捨ててもいけない。
そんな人たちを見捨てていけるほどにジケの人間はできていなかった。
「魔物の話聞かせてほしい……ですか?」
ただ無理して戦うほどジケも馬鹿ではない。
倒せそうなら倒すし、倒せなさそうなら多少ジケの人脈パワーを使うことも考える。
ひとまず情報は欲しい。
何も知らない状態で魔物と戦うのはとても危険である。
なので男の子の父親を訪ねた。
魔物に襲われたということは魔物の姿を見たということである。
魔物のことが分かれば事前に取れる対策があったり、倒せそうか否かの判断もある程度できるかもしれない。
「ええと……見た目は毛深くて……」
男の子の父親はなんとか魔物の姿を思い出してジケに説明してくれた。
普通の人は有名なモンスターの自分の周りの魔獣以外の魔獣のことは疎いもので、男の子の父親も襲われたモンスターの名前も知らないので特徴を挙げてくれた。
「ニャボルト、だろうな」
「ニャボルト……なんか、響きは可愛いな」
特徴を聞いてリアーネがモンスターを推測する。
リアーネが言うには男の子の父親を襲ったモンスターはニャボルトではないかと言う。
二足歩行の猫のような頭をしていて、コボルトの猫版みたいなモンスターである。
名前の響きは可愛らしいのだけどコボルトのように顔は可愛い感じではないらしい。
生態もコボルトに似ているらしい。
集団で生活していてやや前傾姿勢な二足歩行で襲いかかってくる。
コボルトは割も牙で戦ってくるが、ニャボルトは爪で戦ってくるのが違いらしい。
「まあコボルトと同じような強さ。ちょっとニャボルトの強いかなぐらいだ」
「じゃあ群れの規模次第だけどそんなに苦労することもないのかな」
「そうだな。今いるメンバーでも倒せる魔物だと思うぞ」
「帰って軽く偵察でもしてみようか」
モンスターの情報は得られた。
さらに安全に戦うために相手の群れの規模やどこにいるのかを把握する必要がある。
ジケは男の子の父親にお礼を言って家に帰った。
「何事もないとは思うが念のため連れていけ。危険なことがあったら声でもかけろ」
偵察はジケとリアーネで行くことになった。
グルゼイはスティーカーを袖から出してジケに渡した。
もし何か危険なことがあればスティーカーを通じてグルゼイにも届く。
そうなればスティーカーの気配を追ってグルゼイもジケのところに行くことができる。
口では心配していないと言うがジケのことをちゃんと考えてくれているのだ。
「それじゃ、行ってきまーす」
「お気をつけて!」
「怪我しないでよ」
ジケはいつものようにフィオスに盾になってもらってニャボルトが目撃された方向にリアーネと出発した。
「この辺りはまだ出てきていないようだな」
周りの状況を観察しながらリアーネがつぶやく。
地面などの様子から魔物がいたかどうかを推測していく。
村近くでは人の痕跡はあっても魔物のような痕跡はない。
少なくとも村近くまで魔物はやってきていないようである。
ニャボルトもさほど強い魔物ではないので人が集まっている村までは襲う可能性は低い。
逆に村近くまで来ていたら襲うつもりがあるかもしれずに危険度が高いということになる。
今回はまだニャボルトの危険度は高くなさそうだった。
「ここらへんから痕跡があるな……」
人のものではない足跡をリアーネが見つけた。
過去では戦争で活躍したリアーネであるから対人戦のプロフェッショナルだと思ったらそうではない。
リアーネは元々魔物を倒す方で実力を発揮した冒険者であった。
生き残るために色んな知識を吸収して魔物を追い詰めるハンターがリアーネなのであった。
折れた草、足跡で窪んだ地面などほんのわずかな痕跡もリアーネは見逃さない。
「意外と群れの数はいそうだ」
足跡の多さからニャボルトの数がいそうなことをリアーネは推測する。
「向こうの方に行ってる」
足跡からニャボルトの行った方を予想でジケたちもそちらに向かう。
まさしく猟犬のようである。
その能力を人に向けると戦場を駆け回り、戦功をあげる傭兵となったのだろう。
なんやかんやと味方にできて良かったと思う。
「いたぞ。……狩りの最中のようだ」
痕跡を追っていくと離れたところにニャボルトを見つけた。
なるほど、可愛くないなとジケは思った。
確かに猫のような顔はしているのだけど、コボルトが可愛くない凶暴な顔つきをしているのと同じくニャボルトも凶暴な顔つきをしていて可愛くない。
これならライナスのセントスの方がまだ可愛げがある。
ニャボルトたちはこの辺りに生息している人の胴体ほどもある大きなウサギを追いかけ回している。
どうやら狩りをしているようだった。
ニャボルトの一体がウサギに飛びついて爪を振り下ろすとウサギの体が切り裂かれて短い悲鳴を上げる。
聞いていた通り爪は鋭い。
「持って帰るようだな」
「こっそりついていこう」
ニャボルトたちは倒したウサギをその場で食べずに引きずってどこかに持ち帰り始めた。
ジケとリアーネはその後ろを距離を取ってついていく。
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