お菓子を作り、剣を振るい4
なんとかパージヴェルの攻撃を防ぐけれど反撃の糸口が見えないでいた。
子供相手に大人げない。
「なら!」
離れることもできないのなら近づいてやる。
パージヴェルが切り掛かってくる瞬間を狙ってジケは懐に近づく。
「甘いわ!」
読み切っていたようにパージヴェルはジケから離れて再びパージヴェルの距離を保つ。
「ふーん」
ニヤリと笑うパージヴェルが少しだけ気にさわるけれどジケはまだまだ冷静である。
もう一度接近を試みる。
「その手が通じないことが分からんか!」
「これならどう?」
驚異的な反射神経で一歩近づくと一歩離れる。
ならまたさらに一歩近づく。
「まだまだ!」
しかしパージヴェルもさらに一歩離れて同じ距離を保ち続ける。
「浅知恵を弄したところでワシには通じないぞ!」
「浅知恵かどうか見てろよ!」
ジケが2回近づき、パージヴェルが2回離れる。
3回目、ジケはグッと足を踏み込んで前に出るような素振りを見せながら後ろに飛んだ。
「むっ!」
後ろに下がろうとしていたパージヴェルはすぐさま動きを修正してジケから離れないように前に出た。
ただ後ろから前への重心移動はほんのわずかにパージヴェルの行動を遅らせる。
「くっ!」
パージヴェルが前に出た時ジケも前に出ていた。
一気にジケとパージヴェルの距離が近づき、パージヴェルの脇腹を突き出された剣がかすめた。
「おっ! 一撃当てやがった!」
騎士がざわめく。
たとえ浅知恵だろうが確かにジケの剣は届いたのだ。
「この!」
接近されると体格の小さいジケの方が小回りが利いて有利になる。
パージヴェルがジケと距離を取ろうとするけれど今度はジケの方がパージヴェルにくっつくように距離を詰め続ける。
ジケには接近する、あるいは離れるという選択肢があったけれどパージヴェルに離れるという選択肢しかない。
真後ろだけではなく斜めだったり横だったり緩急をつけてみてもジケは全てを読みきっているようについてくる。
それもそのはずで読み切っているのだ。
魔力を感知する能力はただ目に頼らない戦いができるだけではない。
相手の体の魔力の流れを読めばどう動こうとしているのかある程度推測もできる。
卓越した領域になればまるで思考でも読まれているかのように感じるだろう。
今はパージヴェルも魔力を抑えている。
しかし完全に魔力を抑えるのではなく使わない程度に抑えているだけで無意識の魔力までは消えていない。
無意識の魔力だけではかなり読みにくいので集中力を必要とはするが、それでもパージヴェルは分かりやすい人でどこに動こうとしているのか魔力から察することができた。
距離を保ちながらジケは剣を振る。
背の高いパージヴェルは腹部や足をへの攻撃をなんとか防ぐが中々ジケを攻撃できない。
剣を上げている暇もないし下から跳ね上げるような攻撃は素早さがなく容易くかわされてしまう。
「小さいが故の戦い方か。賢いな。それでいながら御当主様についていくスピードと反射神経、行動を阻害するのに足元を狙うのも頭がいい」
「会長……お前のご主人様が褒められてるぞ」
ユディットがチラリとフィオスのことを見た。
ちゃんとフィオスもその場にいた。
ただ流石に魔獣まで持ち出すのはずるいので今回フィオスはお休みである。
騎士たちが休憩の時に食べるハチミツに果物を漬け込んだものをフィオスはもらって食べていた。
「可愛いですね」
「うむ、スライムを生で見たのは初めてだけど……意外と愛嬌がある」
騎士の中には女性もいる。
フィオスは女性騎士の一人に抱えられて果物を食べているのだ。
意外と可愛いということでなぜか女性騎士にも人気があった。
「ふっ、小賢しい真似をしてくれる!」
「なに!」
パージヴェルがジケの後ろに移動した。
正確には大きく足を広げてジケの横をすり抜けるように移動して、ジケの斜め後ろで素早く振り返ったのである。
足の長いパージヴェルにこうされると一瞬で後ろに回り込まれたようなものである。
前に出るという選択を使って後ろに回り込んだ。
後ろから振られた剣を防げたのは魔力感知で後ろの様子も分かるジケだったからである。
騎士はジケの防御に再び歓声を上げたが回り込まれたことをきっかけに攻防が入れ替わった。
「隙あり!」
「ふぎゃっ!」
頑張って耐えていたけれどもう限界だった。
ジケの頭にパージヴェルの剣が落ちてきて情けない悲鳴が響き渡った。
「ジケ君!」
「ジケ!」
「うわぁ〜痛そ」
「ジケ兄ちゃん!」
「ジケ兄!」
「……リンデラン……それにみんなも」
涙目でうずくまるジケにお菓子を作っていたはずのみんなが駆け寄ってきた。
ジケが思っていたよりもやるので寸止めに失敗したパージヴェルは顔をひきつらせた。
実は途中からお菓子作りを終えたみんなもジケとパージヴェルの戦いを見ていた。
声を出して応援したいところだったけど、邪魔になりそうだし驚かせようということで黙っていたのだ。
「おじい様!」
頬を膨らませるようにしてリンデランが怒る。
本来実力のあるものが手加減して怪我をさせないように戦うのが普通である。
今回はパージヴェルがしっかりと寸止めするなりしてジケに怪我をさせないようにしなきゃいけなかった。
「ふははっ、御当主様もお嬢様には弱い……いや、それどころか女の子というのは強いからな」
ジケを傷つけたとタミとケリもパージヴェルを睨む。
アユインはジケの頭を診ている。
ウルシュナはジケのことだから大丈夫だろうとは思いつつ若干心配したように顔を覗き込んでいる。
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