蒸し蒸し1

 なんやかんやあったけれども無事ケントウシソウのコブを持ち帰ることが出来た。


「おかえりー」


「おかえりー」


 家に帰るとタミとケリの双子が出迎えてくれた。


「んー! ぎゅー!」


「ジケ兄?」


「どうしたの?」


 ジケはタミとケリのことをぎゅっと抱きしめた。

 タミとケリは頬を赤くしてされるがままになっている。


「結構大変だったんだ」


 タミとケリに会ったらなんだか癒しが欲しくなった。

 抱きしめられてアワアワしているタミとケリに疲れた心が癒される。


「むふー」


「ふふーん」


 ジケも癒されたけれどタミとケリも嬉しそうだ。


「なんだよ、その目」


「なんでもない」


「なんでもなくなさそうだけど……」


 そんな様子をエニは細い目で見ていた。


「お前も抱擁するか?」


「しないわよ! おいでフィオス」


 腕を開いたジケだけが残されて、フィオスはエニに抱えられて連れていかれる。

 フィオスはこっちの魔獣だぞと思うけれど、エニはさっさと2階に上がってしまった。


「会長、コブ運びました」


 タミとケリがフリーになったジケの手を自分たちの頭に乗せて撫でを要求したので撫でてやっているとユディットが家に入ってきた。


「ああ、悪いな。ユディットも今日は帰って休め」


「そうさせていただきます。ですがどこかいくようでしたらお声かけてください」


「どこもいかないよ」


 どこかにいく予定もない。

 軽くみんなの様子ぐらいは見て回るけど家から離れたところに行くつもりはない。


 ユディットが右隣の家に帰っていく。


「ご飯作る食材はある?」


「うん」


「あるよー」


「じゃあ何かお願いしてもいいかな? タミとケリの料理が食べたいんだ」


「わかった!」


「任せて!」


 温かい料理が食べたい。

 ということでタミとケリに作ってもらう。


 その間にジケは家を出てクトゥワとキーケックのところに向かった。


「会長殿、どうもお疲れ様でした」


「ええ、色々大変でしたよ」


「軽くお聞きしたのですがケントウシソウについて何かあったとか?」


「実は……」


 ジケはケントウシソウの群生地であったことを説明した。

 マザーケントウシソウや地下でもケントウシソウが生えていたこと、攻撃する相手に優先順位をつけていたことなどをかいつまんで話した。


「なるほど……他のケントウシソウに繋がっていそうな大きなケントウシソウの存在……確かにあり得ない話でもありませんね。地下で生存していることや早いペースで増えていることにも説明がつきます」


 ジケの話をメモに取りながらクトゥワは大きく頷いた。

 クトゥワの横ではキーケックも興味深そうに話を聞いていた。


「それにしてもまた大変なことがありましたね。お怪我などはありませんでしたか?」


「平気でした。けどすごく疲れましたよ」


「無事でよかった」


「そう簡単には俺もくたばらないからな」


 正直なところクトゥワやキーケックがいないタイミングで宝物庫に落ちてよかったなと思う。

 二人が罠に晒されていたらちょっと危なかった。


「ケントウシソウのコブについてですがこれまでの実験を軽くまとめてみました」


 クトゥワは紐で綴られた紙の束をテーブルに置いた。


「今のところ一番高い可能性があるのは火で炙ることですね。どうやら加熱するとコブそのものがやや柔らかくなって水が出てくるようです。ですが表面が柔らかくなって水が出るとそれで固く締まって中まで熱が通りにくくなります」


 ジケがコブを採りに行っている間もクトゥワとキーケックで実験を続けていた。

 そうした研究の結果をまとめてジケに報告する。


「さらには表面が硬くなると水も出にくくなるようで中に保有している水の量からすると採れる量は少ないと言わざるを得ないですね。何かの方法で加熱しすぎないようにしながら全体的に一気に程よく熱を通せればいいかもしれません」


 加熱しすぎないというのが曲者なのだ。

 あまり強く熱するとコブは爆発を起こして青臭い水になってしまう。


 熱さとしてはほどほどにしながら全体を上手く加熱すればうまくいくかもしれないとクトゥワは考えていた。

 ただその方法はまだ思いついていない。


「その方法も考えていこう」


「沸騰させてみたりもしたのですが青臭さが残ってしまい……蒸留水もなぜなのかわずかに青臭さがあるのです。魔物の何かの成分なのでしょうか。何かに利用するぐらいならそれほど気にはならないと思いますが」


 沸騰させても青臭さは根強い。

 魔物から出てきた水だからだろうか、クトゥワにもその原因が分からなかった。


 2回ほど蒸留すればほとんどなくなるようだが効率はかなり悪いと言わざるを得ない。


「焦ることでもないからのんびり方法考えればいいさ」


「……そうですね」


 こうした研究には大体期限がある。

 それまでに望ましい結果が得られないと上のものはあまり良い顔をしないものだったがジケは笑って一緒に考えようと言う。


 自分が女性だったら惚れていたかもしれないなんてクトゥワは冗談っぽく思う。


「んじゃ、そろそろご飯もできた頃だろうから」


 軽い報告会は終わったのでジケは家に戻った。

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