希代の盗賊が遺したもの9

「ウソだろ!」


 天井が崩れ、落ちてきたのは巨大な丸い岩であった。

 綺麗なまん丸の岩、傾斜した地面。

 

 これらが合わさるとどうなるのか想像に難くない。


「走れ!」


 ジケが叫んでみんなで弾かれるように走り出した。

 もう戻ることはできない。


 転がってくる岩はすぐに速度が乗り出してジケたちを追いかけてくる。


「バカじゃねえの!」


 今までの罠も人を傷つける意図に満ちた凶悪なものだったけれどこれは酷い罠である。


「叫んでる暇あったら走れ!」


 岩は勢いを増し、グングンと迫ってくる。


「先に行きます!」


 ニノサンが光をまとい、速度を上げる。

 この先に逃げられるところがあるのか確認しなければならない。


 もし逃げられるところがないのなら岩をどうにかするしかなくなる。


「何もありません!」


 先の方からニノサンの叫び声が聞こえてきた。

 ジケも感知を広げて分かった、この先は行き止まりである。


「何があるはず……!」


 こんな入ったら終わりなだけの罠なんて認めない。

 ジケは走りながら魔力感知を最大限に広げて何かないかと探す。


「ニノサン戻ってこい!」


「何かありましたか!」


「左側に道がある!」


 見るべきは行き止まりではなかった。

 その手前に道があることをジケは魔力感知で見つけた。


 行き止まりの方ばかり集中して探っていたので中々気づかなかったのだ。


「ついてこい、飛び込め!」


 ジケ以外には道の位置も分かっていない。

 だからとりあえずジケの背中を追いかけて、ジケと同じく飛び込んでいった。


「ムギュッ!」


 ライナスは壁に激突するんじゃないかなんて心配だったけれど、ジケを追いかけて飛び込むとぶつかることもなく横道に入ることができた。


「……重たい」


「わっ、と。すまねえ!」


 みんなして体を投げ出して飛び込んだものだから地面に倒れ込んでいた。

 ジケを先頭にして飛び込んだからみんながジケの上に重なり合っている。


 みんなが慌ててジケの上から退けていく。

 岩には潰されずに済んだけれどみんなに潰されることになった。


 命に大事ないのでいいのだけど意外とダメージはあった。

 1番下ではフィオスがムギュっとしていたがジケと違ってフィオスはノーダメージだ。


「ほんとヤバいところだな……」


 リアーネが盛大にため息をつく。

 ジケが途中の横道を見つけてくれたからよかったけれどそうじゃなきゃみんな岩に潰されてしまっていた。


 横道の位置だってかなり半端なところにあるし、なぜか地面からちょっとだけ高い場所にあるので慌てて入ろうとすると足が引っかかるような意地悪設計になっている。

 飛び込まずに普通に入ろうとしていたら詰まって危なかったかもしれない。


「ここすごく嫌い……」


 ジケもため息を抑えられない。

 大岩が転がってくる罠なんて非常に大掛かりで普通は思いついてもやらない。


 非常に疲れる場所で今休んでいるこの道だって罠があるかもしれないと思うと下手なところも触れなくて心休まらない。


「まあでも罠が大掛かりになったってことは終わりも近いのかもしれない」


 前向きに考えてみる。

 かなり危険な罠だったけれどあんなものを何個も仕掛けることなんてできない。


 ならば終わりが近いのではないかと思った。

 もっと正確に言うなら終わってくれという気持ちであるけれど。


 魔法によるトラップまであったのだから事前察知は難しい。

 ただ大岩の罠なんてものもあったのだからもう何が来ても驚かないつもりで進んでいく。


「この先開けてます」


 先頭を歩くユディットが警戒を強める。


「また大きな部屋か……」


「イレニア」


 イレニアがニノサンの求めに応じて光を強めて部屋に入っていく。


「うわっ……」


「デカいな」


 部屋に入ってみるとまたケントウシソウがいた。

 けれどこれまでのケントウシソウとは違っている。


 なぜならすごく大きいから。

 それなりの広さがある部屋の中にはケントウシソウの巨木が一本生えていたのであった。


 普通のケントウシソウは人よりも少し大きいぐらいなのであるが目の前のケントウシソウは完全に見上げるほどの大きさがある。


「1、2、3……6」


「なんか色々すごいな……」


 大きいだけではない。

 ケントウシソウのコブはここまで2つしかなかったのだが巨大ケントウシソウのコブは6つあった。


 何もかもが規格外である。


「下は水ですかね?」


「あっ、ほんとだ」


 巨大なケントウシソウが生えている部屋の真ん中は大きくへこんでいて水が溜まっていた。

 イレニアの光を反射してキラキラと輝く水は透き通っていて飲めそうな綺麗な水に見えた。


「上は……どうなってんだ?」


「なんだろな?」


 巨大なケントウシソウの上側は天井にまで伸びているのだがその先端はまるで根っこのように枝分かれして天井に突き刺さっているのだ。

 下に根を張るのは理解できるが上にも根を張っているのだろうか。


「……とりあえずあの水飲めないかな?」


「なっ、喉乾いたよな」


 巨大なケントウシソウがどうとかよりもジケは水を見ていた。

 歩き回ったし極度の緊張状態にあったので非常に喉も乾いていた。


 水は綺麗で飲めそうなのでまずは水分補給が必要だと考えた。

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