希代の盗賊が遺したもの4

「ジョーリオも落ちてきてるしな……」


 ユディットと一緒にジョーリオも落ちてきていた。

 どうにか糸を駆使してジョーリオの方は上手く着地していたので無事であった。


 しかし落ちてきてしまったので上から助けてもらうということはできない。

 崩れそうな壁を伝って上に登るのはジョーリオでも難しいだろう。


 変に力を加えて大きく崩れてしまったらジケたちが生き埋めになってしまう可能性だってある。


「けど助けも期待できないしな」


 ライナスの言う通りただ助けを待つというのは良い選択肢とは言えない。

 そもそも数日かかる作業をしに出てきているので多少帰らないところで不審に思う人もいない。


 仮に不審に思うまで耐え抜いたとしてもそこから助けが来るまでにも日数がかかる。

 とてもじゃないが生きてはいられないだろう。


「となると……洞窟進んでみるしかないか」


 運がいいのか悪いのか、ただの地面の穴ではなく洞窟は続いている。

 どこかに繋がっていて出られる可能性はまだ残されているのだ。


 何もなければジョーリオが脱出できるように期待するしかない。


「んじゃ行こう! ここでダラダラしててもしょうがない」


 体力があるうちに行動しておく。

 洞窟は前後に伸びている。


 どちらに行くのか特に決めてもないので適当な方に進んでいくことにした。


「ん? なんだかおかしいですね」


 イレニアを出したニノサンが先頭を歩き、ジケたちもそれに続いていた。

 前を歩くニノサンが急に足を止めた。


「何がおかしいの?」


「いえ……まるで、人の手が加わっているようにに見えて」


「えっ?」


 何を言っているんだと先の方を覗き込む。

 今度はこれまでの進行方向に対して横に伸びる道に出た。


 ここも洞窟であることに違いはないのであるが、よくみると壁のところどころが切り取られたようになっている。

 まるで剣などですっぱりと切ったような綺麗な断面でジケが触れてみるとつるりとしている。


「自然にこうなった……? それにしては不自然ですよね」


 ここまでの洞窟ではこのようになっているところはなかった。

 自然にこうなったと考えるには明らかに異質である。


 そうなると誰か人間の手が加えられていると考える方が自然だ。

 ただ誰が、という疑問が次に湧いてくる。


「……とりあえず進んでみよう」


 人工的に手が加えられているのならむしろ良い傾向だとジケは思う。

 どこかに出口がある可能性が高いということだから。


 誰がこんなところに手を加えたのか知らないけれど、ここに手を加えたのだとしたらどこからかここに入ってきたということになる。

 そうならば入ってきた場所があるのだ。


 どの道行かないという選択肢はない。

 怪しい道でも進むしかない。


 何があるか分からないのでジケはフィオスに盾になってもらって装備する。


「ん?」


 カチッ。

 一歩踏み出したライナスの足がわずかに沈み込み、不自然な音が小さく聞こえてきた。


「ライナス!」


 ジケがライナスを突き飛ばして盾を上に向けた。

 上から槍が降ってきてフィオス盾に当たり、軌道が逸れて地面に突き刺さる。


「な、なんだ!?」


「ジケ、大丈夫か?」


「ああ、フィオスのおかげでな」


 ジケは天井を見上げる。

 薄暗くて分かりにくいが天井にはいくつか穴が空いている。


「人工的な罠……」


 自然に槍が降ってくるはずもない。

 これは誰かが仕掛けた罠である。


 誰が、なんで。

 顔を見合わせたみんな同じ疑問を持っている。


 けれど誰も答えを持っていないことは分かっているので疑問を口にしない。

 それにしてもなかなか精巧に作られた罠である。


 天井まで常に気にしていられないので穴に気づかなくてもおかしくはないが、足下には警戒していた。

 ジケも魔力感知で確かめながら歩いていたのに罠の存在に気づかなかった。


 それだけ上手く隠して作ってあるのだ。

 ところどころに人の手が加わっている、というのが厄介だ。


 なぜなら人工と自然が入り混じり、単純に整えただけなのか意図を持った罠の痕跡なのかが判別しにくいためである。


「罠まであるなんて……なんなんだよ」


 問いかけではなく文句をライナスがつぶやいた。

 ジケも同感である。


 こんなところに罠まで設置した場所があるなど過去の記憶にもない。


「とりあえず罠があるってことは分かったからより警戒して進もう」


 ジケの言葉にみんな頷き返す。

 少なくとも危険な罠があることはこれで分かった。


「あ、あやしー!」


 進んでいくと道の半分ほどが大きくへこんでいるところがあった。

 明らかに何かの意図を感じざるを得ない。


 どう考えたって罠があるとしたら思えなかった。


「私が行きましょう」


 誰が先に行くかという雰囲気の中でニノサンが立候補した。

 いざとなれば素早く罠をかわすことが出来るという自信があった。


「気をつけろよ」


「もちろんです」


 剣を抜いたニノサンがへこんだところを避けて進んでいく。


「うっ!」


「ニノサン!」


 急にニノサンが足を滑らせた。

 そして壁に手をつくと壁の一部が四角くへこみ、また小さくカチリと音がした。


「上だ!」


 天井の一部が開いて大きな刃がスイングするように飛び出してきた。


「ぐっ!」


 逃げられないと剣で刃を防いだけれど重たい刃の威力は殺しきれずにニノサンが壁に背中を打ち付けた。


「だ、大丈夫です!」


 なんとか刃の直撃は避けられたので大事ではない。


「あとは罠もなさそうです」


 ニノサンが片側がへこみゾーンを抜けたのを確認してジケたちも同じく進んでいく。

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