希代の盗賊が遺したもの3
「イレニア」
見上げると遥か高くに光が見える。
ジケたちがいるところはかなり下のようで上から差し込む光だけでは周りの様子すら見えない。
ニノサンが自身の魔獣であるイレニアを呼び出した。
光の大精霊であるイレニアはそのものがちょっと発光している。
出てきてくれるだけでほんのりと周りが明るくなる。
「お願い」
ニノサンがイレニアにお願いするとさらに輝きが強くなる。
「みんな大丈夫?」
「フィオスのおかげなんとかな」
みんなそれぞれ多少のダメージはあるが骨折などどうしようもない怪我はしなかった。
打撲ぐらいならなんとかなる。
「フィオス頼むぞ」
ジケは打ち付けた肩にフィオスを乗せる。
フィオスからじんわりとフィオスポーションが染み出して肩の打撲の痛みが和らいでいく。
過去では歳をとった時に痛い腰に薬草を重ねて貼り付けたものだけどそれを思い出す。
「みんなはいい?」
「ケツが割れたんだけど……」
「大丈夫だな」
「おい!」
「ケツは元々割れてるもんだろ!」
何が悲しくて男のケツにフィオスくっつけなきゃいけないのだ。
悪いがフィオスにそんなことはさせられない。
「う……」
「リアーネ、どこか痛むのか?」
立ちあがろうとしたリアーネが小さく呻き声を上げた。
「実は……」
「お尻?」
「こ、腰だよ!」
リアーネは顔を赤くする。
お尻が痛かったら死んでも隠していた。
ジケもリアーネならしょうがないかもしれないと思っていたけれどお尻ではなくて安心した。
「ちょっと服上げるからね」
無理して後々悪くなってしまうより多少の恥を忍んでも治してしまった方がいい。
ニノサンとライナスに見えないようにしてリアーネの服をまくり上げた。
上の方、これ以上まくるとちょっと危ないぐらいのところから青くなっているのが見えた。
剣を背負っているリアーネは落ちた時に剣で背中を打ち付けてしまったようである。
「ひゃっ!」
フィオスが肌についてリアーネは可愛らしい声を出した。
ほんのりと冷たいフィオスが入ってきて驚いたのだ。
後ろにいるジケからも分かるほど耳が赤くなっている。
「痛みはどう?」
「ちょっと……あ、いやだいぶ楽になった」
効果はすぐに現れてリアーネも驚く。
鈍く痛んでいた背中があっという間に痛くなくなった。
「フィオス……すげぇな」
落ちた衝撃吸収から怪我の治療までなんでもござれ。
万能スライムである。
「洞窟でしょうか?」
イレニアの光のおかげで周りが見えるようになった。
見た感じでは洞窟のような場所であった。
人の手が加わっていない天然の地下洞窟。
ジケたちが落ちたのは伸びている洞窟の途中のようなところだった。
「地下にこんな空間あったんだな」
「思ってたより広そう……」
光を強めたイレニアがいても洞窟は見通せない。
かなり先まで続いていそうだ。
「高さもあるしな……登るのはちょっと辛そうだ」
高いだけじゃない。
未だにパラパラと石が落ちてくるところを見れば更なる崩壊の可能性がある。
登っている途中で崩れてしまいそうな気配もある。
「ユディットが助けでも呼んでくれるのを……」
「うわああああっ!」
「ユディット!?」
脱出の可能性として1番大きいのはユディットが助けを呼んでくれることだと考えていた。
しかし上の穴が崩壊すると共にユディットが落ちてきた。
「フィオス!」
ジケは落ちてくるユディットにフィオスを投げた。
「ぬもっ! べっ!」
「おらっ!」
フィオスはユディットの顔面にヒットした。
そのままユディットの体を覆うように広がり、ユディットは地面に墜落した。
リアーネがユディットの上に落ちそうになった岩を剣で殴り飛ばして砕く。
「ぐぅ……痛い……」
「ユディット大丈夫か?」
「すいません……」
ジケが手を差し出す。
ユディットはジケの手を取って立ち上がる。
フィオスとリアーネのおかげでユディットにも大きな怪我はなかった。
「何をしているんですか?」
ニノサンが呆れたような表情を浮かべている。
それもそのはずでユディットに期待するのは助けを呼んでくることで穴に落ちてくることではない。
「た、助けに来ようと思いまして……」
ユディットが気まずそうに答える。
「助けに来て落ちたのですか?」
「……その通りです」
ユディットはジョーリオの力を使ってジケたちを助けようと考えた。
自分の体に糸をつけ、穴から少し離れたところに逆側をくっつけて命綱にして降りてこようとした。
けれど地面が脆くなっているところは想像よりも広くて降りようとしたら糸をつけた地面ごと落ちてしまったのだ。
ユディットの上に落ちてきた岩は糸で繋がっていたのでユディットを目掛けて落ちてくることになったのである。
実際悪くはない考えではあった。
もし近くに普通の木なんかがあってそちらに糸を固定できていればユディットの思惑通りにジケたちを助け出せていたかもしれない。
「穴周りはだいぶ脆くなっているようだな」
「うぅ……面目ありません」
「いいさ、過ぎたことは考えても仕方ない」
今考えるべきはどうやってここから脱出するかである。
ユディットの失敗を責めたところで何も変わらないのならそんなこと忘れてしまった方がいい。
怪我がなくてよかった。
それぐらいで考えておけばいいのである。
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