実験開始!2

「リンデラン、今日はどうしたんだ?」


「えへへ、来ちゃいました」


 リンデランが来ることはジケも聞いていなかった。

 馬車から降りてくるのがリンデランなことは予想できてもこんなところにリンデランが来るとは思っていないので驚いた。


「お爺様からジケ君がお家に来たって聞いたんです!」


「だからって……」


 話を聞いたから訪れた。

 一見普通のことであるが許可を得てすぐにジケがここに来たわけじゃない。


 まずは実験の準備を進めた。

 なので実験の準備が整ってからようやくジケはここに来たのである。


 たまたまリンデランが来た時にジケにいたというのは運がいいんだなとジケは思った。


「ああ……そういえばここ数日馬車が通ってましたね」


「あっ、そうなんだ」


「も、もう! 言わないでください!」


「おっと……これは失言でしたね」


「ジケ君を驚かそうと思ったんですぅ!」


 リンデランはすねたように口を尖らせた。

 実は準備している間に敷地の前を馬車が通っていることをクトゥワは見ていた。


 敷地を適正に利用しているかどうか確認しに来ているんだとクトゥワは思っていたのだが、あれはリンデランだったのかと納得した。

 確認にしては毎日来るなと思っていたのでちょっと疑問だったのだ。


 可愛らしいではないかとクトゥワは微笑む。


「けれど今から実験をするところで……」


「では私もお手伝いします!」


「……どうなさいますか、会長殿?」


 せっかく数日通い詰めてようやくジケを捕まえた。

 珍しく周りにライバルとなる女の子もいないのでちょっと会いにきただけで帰るつもりはリンデランになかった。


 ジケもリンデランにキラキラとした目で見つめられると弱い。

 頭の中で考える。


 まあ別に危険な実験でもないしいいかと。

 それにリンデランの能力も実験に役立つかもしれない。


「分かった」


「やった!」


「ただし」


「ただし?」


「これを着てもらう」


 ジケはパッと予備の実験用防水服をリンデランの前で広げた。

 リンデランは珍しく嫌そうな顔をした。


 何というか、可愛くない服である。

 しかしリンデランは気がついた。


 ジケたちも同じ服を着ていることに。

 意地悪で変な格好をさせようとしているのではなく、理由があってこんな格好をさせようとしているのだ。


 せっかくちょっと可愛い格好してきたのにとリンデランは葛藤する。


「ふ、服の上からでも大丈夫ですか……?」


 けれどここで諦めるわけにいかない。

 リンデランはそっと防水服を受け取った。


「もちろん。着替えは……」


「馬車の中で着てきます」


 覚悟を決めたリンデランに軽く防水服の着方を教える。

 護衛だろう女性騎士も一緒に馬車に入る。


 背中側をクモノイタでピッタリくっつけるようになっているので1人で着るのはなかなか大変なのだ。


「き、着ました!」


「…………ふむ」


「な、何ですか?」


「いや、ずるいなと思って」


「何がですか?」


 ババーンと現れたリンデラン。

 恥ずかしいのか少し耳が赤くなっている。


 それを真剣な目をしてジケがじっと見るものだからリンデランは余計に耳を赤くした。


「いかにもこの服ダサいんだけどリンデランが着るとそれなりに様になるなって。もうちょいデザイン的に考えればなんだかオシャレにもなりそうでずるなぁって」


 オシャレに見えるとまではいかないがジケたちが着ているようにすごくダサい感じにはなっていない。

 やはり顔なのだろうかと思わせられてしまう。


「褒めてます?」


「褒めてる。リンデランの顔が良いってこと!」


「そうだね、やっぱり美少女には何着せてもある程度の修正力があるな」


「び、美少女……」


 キーケックが素直に口に出したのでジケも便乗する。

 褒められてリンデランもモジモジと嬉しそうに照れ笑いを浮かべた。


「とりあえずここからはちゃんと実験になるからクトゥワさんの言うことは聞いてね」


「分かりました!」


「ふふふ、よろしくお願いします」


「よろしく!」


 やる気を見せるリンデランにキーケックもフンスとやる気を見せる。

 魔物の実験に関してはジケよりもクトゥワが遥かに経験者だ。


 ここはあれこれと口を出すよりもクトゥワに従って実験をした方が安全にやれるだろう。


「それじゃあ本格的に実験スタートだ!」


「おー!」


「おー!」


 コブを取るところから始まり、場所の確保など色々あったけれどようやく実験の開始である。


「とりあえずお手伝いすると言いましたが、これで何をするんですか?」


 ジケとキーケックで地面に投げ飛ばして転がっていったコブをまた持ってきた。

 リンデランは妙なゴツゴツとした岩のようなコブを見て首を傾げる。


 ジケたちはケントウシソウにコブが生っているのを見ているので植物だと認識しているけれど、それを知らないリンデランから見ると謎な塊なのである。


「これはケントウシソウって言う植物タイプの魔物に生えているコブなんだ。それでケントウシソウはこのコブの中に地面から吸い上げた水を溜めておく性質があるんだ」


「お水……ですか?」


「そう。最近水不足なの、リンデランも知ってる?」


「はい。アカデミーの噴水も節約のために止められてしまいました」


「だからどこからか水を確保しようと思ってね。それでこのコブから綺麗な水を取り出せないか実験してみようってわけさ」


「世のため、人のためなんですね! さすがジケ君です!」


 またジケが人のために何かをしようとしている。

 リンデランは再びキラキラとした視線をジケに向けた。

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