立ち入り許可の条件1

「依頼ですか?」


「ええ、そうですね。あくまでもお願いではありますが」


 冒険者ギルドに出していたケントウシソウの討伐採取の請求の返事が返ってきた。

 結果的に許可は下りたのであるが条件付きだった。


 立ち入り禁止の区域ということで国の兵士の同行を求められた。

 要するに怪しいことをしないための監視役である。


 そしてその立ち入り禁止区域にある薬草採取の手伝いもしてほしいと依頼されたのである。

 依頼と言ったものはこのことである。


 監視役の兵士が薬草を採取するので手伝い、つまりは護衛的なことをやってほしいというのである。

 元々ケントウシソウは増えてきていて討伐が予定されていたらしい。


 ジケたちが進んでやってくれるというのなら国や冒険者ギルドの方は願ってもないのである。

 ならついでに薬草採取もやってしまおうというのだ。


「できれば早めに返事が欲しいとのことです」


「まあこちらとしては悪い条件じゃないし引き受けよう。細かな内容はギルドに行って相談した方が良いのかな?」


「そうですね出来れば責任者ある会長殿も行った方がいいかもしれません」


 ーーーーー


 冒険者ギルドの雰囲気はまだ慣れない。

 飲み食いできる場所で酒場にも近いのだけど、どことなく酒場とは雰囲気が違う。


 戦う男たちが素面で集まっているからだろうか。

 夜になって一仕事終えた後だとかなり酒場の雰囲気に近づくので戦う前のピリつきが空気に漂っているのかもしれない。


「フィオス商会のジケです。ケントウシソウの採取のための立ち入り禁止区域への進入の許可について話をしたくて来ました」


「はい、お話は伺っております。ただ今担当者を呼んで参りますので少々お待ちください」


 クトゥワとリアーネを引き連れたジケが受付のお姉さんに用件を伝えると奥に引っ込んでいった。


「よう、リアーネ。久しぶりじゃないか」


「ラグサンス! おぉ、元気なようだな!」


 担当者を待っているとリアーネに声をかけてきた男性がいた。

 大柄の男性で人を圧倒するような威圧感がある。


 ラグサンスと呼ばれた男とリアーネは拳をぶつけ合った。

 2人は知り合いのようである。


「最近見ないと思ったらお前人に仕えてるんだって? んな似合わないことやらないで冒険者に戻ってこないか?」


「似合わないかもしれないが私は私の居場所を見つけたんだ。私のことを必要としてるあったかい場所だ」


「フハハッ、そうかそうか! お前がそんな柔らかい顔出来るなら良い場所なんだろうな」


 目を細めて笑うリアーネの顔を見ればウソを言っているのではないとラグサンスにも分かる。

 冒険者をやっていた時には常にピリついたような雰囲気をまとっていたが、今のリアーネはかなり雰囲気が穏やかになっている。


 刃のような鋭い雰囲気も悪くなかったけれど自分すら傷つけてしまいそうな感じがあった。

 そのまま耐えられなくて自ら潰れていくような人もいるから今のリアーネの雰囲気も良いものだと思う。


「そちらが雇い主かな?」


 ラグサンスがチラリとジケのことを見る。


「初めまして。リアーネのお知り合いですか?」


「ああ、そうだ。こいつが身一つで目をギラギラとさせていた頃からの知り合いだよ。フィオス商会か……俺にもその名声は届いている」


「知ってくださっているようで光栄です」


「フハハッ! さすがだな!」


 意図しているわけではないがラグサンスにはかなり強い圧力がある。

 顔もイカツイ感じがあるので子供から初見で好かれる人ではない。


 けれどもジケにはラグサンスを恐れるような感じがない。

 胆力のある男は好きだ。


 ラグサンスは大きく笑ってジケの頭をくしゃくしゃに撫でる。


「こいつのことを頼むぞ。実は可愛いものが好きで、寂しがり屋だから」


「ラグサンス!」


 リアーネが顔を赤くする。


「もちろんです。大切にしますよ」


「……フハハハハハハッ! なるほど、そりゃあリアーネが惚れるわけだ」


 真っ直ぐにラグサンスの目を見て答えたジケ。

 こんなに真剣な言葉をこんなに真剣に言える人がいるだろうか。


 嘘偽りのないジケの言葉にこいつならリアーネを幸せにしてくれるとラグサンスも思えた。


「俺はラグサンス・アルケー。自慢じゃないがそこそこ腕の立つ冒険者だ。リアーネの友よ、困ったことがあったら俺を頼るといい。力になろう」


「ありがとうございます!」


 どこかで聞いたことある名前だと思っていたが思い出した。

 ラグサンス・アルケーも戦争の最中に消えていった英雄の1人だ。


 王国側の傭兵として戦い、数々の功績を打ち立てたがその報酬をもらうことすらできずに戦場で散っていった人である。

 良い人だと噂では聞いていたけれど見事に豪放磊落な性格の人物である。


「なんだか良い人だね」


「私が冒険者として駆け出しの頃気にかけてくれた人なんだ。何も分からず、誰にも頼れなかった中でもラグサンスだけは笑って色々教えてくれた。親父みたいな人だよ」


「へぇ……」


「今行ったことラグサンスには言うなよ! 恥ずかしいからな」


 リアーネはほんのりと頬を赤くしている。

 これが回帰前の過去だったならリアーネは王弟側、そしてラグサンスは国王側として敵同士だった。


 今回はジケのおかげでリアーネは戦争にも国王側であったのでラグサンスと敵対することもなかった。

 不思議な巡り合わせだなとジケは思った。

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