トースの記憶を辿って1
「第三騎士団の団長オセドー・ウェイスデンです。今回の誘拐事件の調査を担当させていただきます。よろしくお願いします」
ヘギウスに話をしに行ってくれたユディットよりもジたちの方が先に戻っていた。
でもまだ出来ることもなく少し暗めの雰囲気のまま時間だけが過ぎているとヘギウスの方から人が派遣されてきた。
数名の騎士がやってきてジは騎士団長のオセドーと握手を交わした。
騎士団長という割には意外と若く、まだ30代ぐらいに見えた。
威圧感もなく人当たりが良さそうな笑顔を浮かべている。
ジを前にしても丁寧な態度を崩さず好感が持てる相手である。
「よろしくお願いします」
「早速被害を訴えている子に会いたいのですが大丈夫ですか?」
「はい。でも怯えちゃうかもしれないので俺も同席していいですか?」
「それなら同席をお願いします」
ジの提案もオセドーはすぐに受け入れた。
対応も柔軟である。
一応ジの部屋で話を聞くことにした。
トースに姉を助けるため話を聞きたいというと悩んだ様子であったが最後にはお姉ちゃんを助けたいと小さくうなずいた。
ただ不安はあるらしくジがいた方がいいか聞くとトースもいてほしいと言ってジは同席することにはなった。
オセドーが部屋に入るとミミを隠すようにフードを被ったトースの目つきが厳しくなる。
やはり他人への警戒はかなり強いみたいだった。
トースはサッとジの後ろに隠れてギュッとジの服を掴む。
オセドーもトースの警戒を察したのかトースに近づくのやめて距離を取って話を聞くことにした。
膝をついて上からにならないようにして懐からペンとメモを取り出す。
「君のお姉さんの名前を聞いてもいいかな?」
オセドーはトースの態度にも不愉快になった様子もなく優しい声色で話しかける。
「トース」
この人はトースが物を盗んだお店の店主ではない。
思い切り殴られてひどい目にあったのかもしれないがオセドーは警戒すべき人ではないのだ。
もしかしたら他にもひどい目にあったのかもしれない。
だけどここで何も話さねばトースの姉を助ける話も前に進まないのである。
オセドーは柔和な笑みを浮かべたままトースの言葉を待つ。
「エスクワトルタ……」
「エスクワトルタだね」
トースはポツリと答えた。
それでも静かな部屋なのでジにもオセドーにもしっかりと聞き取れた。
年齢や見た目の特徴などエスクワトルタを探す上で必要なことをオセドーは聞いてトースもそれに答えていく。
「どこでさらわれたか分かるかい?」
「……分かるけど分からない」
「うーん? どういうことだい?」
「この町に詳しくないからどこと聞かれても答えられない。でも場所は覚えてる」
ジであるならあそこのお店の近くとか説明のしようもあるが町に詳しくないトースはどこと聞かれても答えられない。
けれど移動した道は覚えているのでどこらへんであるのかは覚えていた。
「じゃあその場所まで案内してもらってもいいかな?」
一通り聞くべきことは聞き終えたのでオセドーはメモを懐にしまう。
「ジ……」
「俺も行くよ」
「ありがとうございます」
「いえ、これぐらい」
部屋を出てリビングに行くともう2人騎士がいた。
トースの話を聞いて威圧しないようにオセドーだけが話を聞いていたのである。
オセドーはその2人と軽く情報を共有してトースの姉であるエスクワトルタがさらわれた場所まで行くことを説明した。
ジは護衛としてリアーネを連れてトースやオセドーたちと家を出た。
まず向かうのはジがトースと会った場所。
そんなに遠くもないのですぐについた。
そこからはトースの記憶を頼りに道を辿っていく。
似た様な道が続くがトースの記憶力も悪くなく悩むことなく進む。
「えっと、ここを曲がって……それでお腹空いてて……つい…………」
角を曲がるとお店が見えた。
店の中だけじゃなく正面にも商品を並べるスタイルのお店で悪い考えを持てば盗みやすそうなお店でもある。
あのお店でトースは物を盗んで追いかけられた。
ちゃんと店主が物を盗む不届き者がいないか目を光らせている。
気まずそうなトースをジとリアーネで隠すようにしてお店の前を通り過ぎていく。
悪いことをしたのはトースかもしれないけど子供の顔を本気で殴る大人がいるお店は今後使わないだろうなと思った。
その後も歩いていく。
頼れる相手もいなかったトースは人に声もかけれずに町中を2日ほどふらついていた。
途中流石に記憶が怪しかったところもあるけれど姉のために必死に思い出してジたちを案内した。
「ここ……ここでお姉ちゃんが……」
色々と歩き回ってようやくエスクワトルタがさらわれた場所まで辿り着いた。
「あんま良くない場所だな」
リアーネは警戒するように周りを睨みつける。
辿り着いたのは平民街から少し入った貧民街と言える場所なのであるがかなり治安が悪いところであった。
平民街と貧民街の悪いところが集まったようなところであってまともなら平民も貧民も近づかない。
トースとエスクワトルタはおそらく町をふらついて人がいないところに向かったらここについてしまったのだ。
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