奇妙なデュラハン5
「リアーネ、ニノサン!」
「承知いたしました!」
「任せろ!」
ジがデュラハンの手からこぼれ落ちて転がったフィオスに向かって走り出す。
デュラハンも再び頭を追いかけようとしているのだがリアーネとニノサンで妨害する。
「取ったぁ!」
無理矢理2人のことを蹴散らしてデュラハンも手を伸ばすがジの方が一瞬早かった。
デュラハンの頭を包み込んだフィオスを拾い上げたジをデュラハンが追いかける。
3人が横から攻撃を加えるがデュラハンは一切無視してジを、正確にはジが持つ頭を追いかける。
デュラハンの激しい攻撃をジは必死にかわす。
「ニ、ニノサン!」
流石にこれは耐えきれない。
ジはデュラハンの頭をニノサンに向かって投げた。
「リアーネ!」
頭をキャッチして素早く下がったニノサン。
デュラハンは凄い勢いでニノサンを追いかけるが近づかれたところでニノサンはリアーネに頭を投擲した。
「ええっ!? う、あ、グルゼイ!」
「遊んでないでさっさとやればいいものを」
なんとか頭をキャッチしたリアーネはアワアワとしてなぜかさらにグルゼイにパスした。
追いかけられていたジはともかくニノサンやリアーネは頭をパス回しなどしないですぐに切ってしまえばいいとグルゼイはため息をついた。
「フィ、フィオス、離れろ!」
多分大丈夫だとは思うけどそれでもフィオスが切られるのは嫌だ。
ジが叫ぶとフィオスは頭から離れる。
たとえ少女の顔のようでも容赦しない。
グルゼイはデュラハンの頭を真っ二つに切り裂いた。
切られて二つに分かれながら転がっていく頭をデュラハンがヨタヨタとした足取りで追いかける。
頭の片割れを拾い上げて、もう一つの片割れの方に体を向けた。
「ソ、ソコ!」
もう一つの頭の片割れをソコが拾い上げていた。
マズイと思ったジがソコとデュラハンの間に割り込んで剣を構える。
「いいの……」
「えっ?」
「もういいの、シュデルカ」
ジに声をかけたのかと思ったがそうではなかった。
「もう……私たちを脅かすはいない」
ソコは半分に切り裂かれた頭を持ってジの前に出る。
「恨む気持ちは分かるわ。守ろうとしてくれる気持ちも分かるわ。
でもね……この人たちは敵じゃないの」
ソコの目から涙が流れる。
デュラハンは大切そうにもう半分の頭を抱えたまま立ち尽くしている。
「もう戦わなくていいの。ありがとう、シュデルカ」
シュデルカというのがデュラハンの名前であることにようやく気がついた。
ソコはゆっくりとデュラハンに近づく。
本来ならば止めるべきなのだろうがジもグルゼイたちもただごとでない状況に動けないでいた。
いつの間にかソコはデュラハンの目の前にまで来ていた。
ソコが手を伸ばしてデュラハンの持つ頭に触れた。
するとデュラハンの頭からも涙が流れ始める。
「休んでいいの……ありがとう、シュデルカ。ありがとう、私の騎士……」
デュラハンの手から剣が滑り落ちる。
膝をついてソコに首を垂れるようにうなだれて動かなくなった。
「あなたも……ありがとう」
ソコがジの方に振り向いた。
「君は……誰なんだ?」
今なら答えられるかもしれない。
そう思ってジは同じ質問をぶつけてみた。
「私はソロイ」
「あのデュラハンは何で、一体何が……君に何があったんだい?」
「……シュデルカは私の魔獣。何があったのかは……ごめんなさい、時間が足りないの」
どうやらソコの中にいる不思議な人の名前はソロイというらしい。
「お願い、シュデルカがまた暴れる前に倒して。また……暴れ出してしまうわ」
「…………分かった」
またデュラハンが暴れたら今度こそ危険である。
動けない今がデュラハンを倒すチャンス。
ジがうなずくとソロイは優しく微笑んだ。
デュラハンの前に立つ。
ジが持っている魔剣は優秀でデュラハンにも深めに傷をつけられた。
「ありがとう、優しい人」
ジは高く剣を持ち上げると全ての魔力を剣に込める。
「うりゃああああ!」
弱点でもある頭を破壊されて弱っていたからだろうか、振り下ろされた剣は思っていたよりも簡単にデュラハンを切り裂いた。
デュラハンの手から頭の片割れがこぼれ落ちる。
ソロイがその片割れも拾い上げて頭を一つに合わせる。
「これでようやく自由になれる……これでようやく死ぬことができる。最後に一つお願いがあるの」
デュラハンの頭がパラパラと急激に崩れていく。
「なんだ?」
「この体の子に謝ってほしいの。たくさん迷惑かけちゃってごめんねって」
「任せておけ。ソコもきっと許してくれるよ」
「うん……」
崩れていく頭。
ずっと無表情だったその口は最後に笑って崩れていった。
同時にジたちを包み込んでいた黒い結界が消えていく。
「ジ商会長!」
「あれ……」
周りは武器を構えた騎士たちが囲んでいた。
デュラハンを逃さないようにするために国の方で騎士団を派遣していたのである。
その中には自ら状況の収拾に当たるためにクオンシアラも来ていた。
「ソロイ! ……いやソコ?」
結界が消えて風が吹き込んだ。
ソコの手に残っていた頭の最後のカケラも宙に消えていき、ソコが目を閉じて倒れ始めた。
ジはそれを受け止める。
もうソロイからの返事はなかった。
「お、王よ、危険です!」
「何が危険なものか」
周りの騎士たちは状況が飲み込めていないがクオンシアラはひとまず問題は解決したのだと察した。
「……終わったのだな?」
ジの側にきたクオンシアラはチラリと二つに切り裂かれたデュラハンに目をやった。
「……はい、終わりました」
「話は聞かせてもらうが今は休むといい。後のことは私に任せてくれ」
「お願いします」
「総員、警戒レベルを一つ下げ、周辺の被害状況の確認に当たれ!」
見られていては落ち着かないだろう。
「立てるか、ジ?」
「大丈夫です、師匠」
「ソコさんは私が」
「後で部屋に医者を送ろう」
「ありがとうございます」
「いや、国の中で起きた問題を解決してくれたのだ。感謝するのは私の方だ」
ソコはニノサンが背負い、ジはグルゼイの手を借りて立ち上がった。
何人かの騎士に付き添われながらジたちは一度宿に戻って行ったのであった。
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