運命を感じる鍵2

 ミュコが指差している方には狭めのシートの上にカバンのようなものを広げている露店があった。


「カバンか」


「カバンなら使うこともあるだろうし、もらって無駄になることも少ないかなって」


「らっしゃー」


 気だるげなやる気のなさそうな店主であるが置いてあるカバンの質はかなり良さそうに見えた。

 確かにカバンぐらいなら置いておくにもさほど邪魔にならないしいいかもしれない。


 ジの護衛も3人になってユディットにも休みがしっかり回ってくるようになった。

 どこかに出かける機会も増えくるはず。


 そんな時少し物でも入れられるカバンがあったら便利かもしれない。


「魔物の皮で作った丈夫なカバンだよ。

 ちょっと高いのは多少の傷ぐらいなら勝手に直るし長く使えるよ」


 腰に巻いて使うものや肩がけ、オーソドックスなリュックもある。

 手触りも悪くなく縫い目なんかも丁寧である。


 店主としてはやる気はなさそうであるが職人としての腕は良さそうだ。


「その可愛らしい彼女へのプレゼントかい?」


「えっ?」


 たまたまタとケは隣のお店のアクセサリーを見てみてカバンを見ていたのはジとミュコだった。

 見る人が見ればデートに見えないこともない。


 ミュコの顔が一気に真っ赤になる。


「……そんなもんです」


 わざわざ否定することもない。

 ジが軽く笑って肯定するとミュコの顔はさらに赤くなる。


「んじゃあ、これと……これを」


 ちょっと気恥ずかしくなったのもあってジは目をつけていたカバンを2つ選んだ。

 

「ほれ、ミュコ」


「え……これって」


「せっかくだしプレゼントだよ」


 買ったうちの1つ、肩がけのカバンをミュコの肩にかけてやる。

 驚いたように目を見開いたミュコがジを見る。


 せっかくだからミュコにもプレゼントとしてカバンを買う。

 旅をするので古びたリュックなんかはミュコも持っていた。


 けれどこうした可愛らしいカバンは持っておらず、今も手ぶらである。

 もっと気軽に使えるものがあっても良さそうだと思って1つミュコに送ることにした。


「…………嬉しい」


 さほどと大きなものではないが普段使う分には困らないぐらいには物は入る。

 ジからもらったカバンを抱きしめるようにしてミュコは破顔する。


 もしメンテナンスが必要になったらお店にとお店の情報が書かれた紙をもらってお金を払う。


「ジ……ジ!」


「どうした、ソコ?」


「見てくれよ!」


 浮き上がりそうなほどに舞い上がっているミュコたちとまた散策を再開しているとソコがジの服を引っ張った。


「あ、あれ!」


「あれってなんだよ?」


「あれ……鍵じゃないか?」


「なに?」


 ソコに引っ張られて露店の前に行く。

 統一感がないラインナップの商品。


 商人ではなく個人で物を売っているみたいであった。


「あっ!」


 商品の中の一つ、それに見覚えがあるものがあった。

 正確には見覚えというより似たような物を少し前に見たのである。


「遺跡の鍵……」


 先日モーメッマに渡した呪いの魔道具が見つかった遺跡の鍵となる石のようなものが売られていた。


「なんだい?

 何か興味ある物でも?」


「おじさん、これ、どこで?」


 ジが鍵を指差すと店主のおじさんは鍵に目を落とした。


「あー……これは……そうだ。

 隣のジジイからもらったんだ」


「もらった?」


「ああ、隣にもジジイがいたんだが昨日であらかた売れちまったみたいでな。

 残った商品は持って帰るのが面倒だからくれてやるって俺に押し付けていったんだよ」


「その人はこれについて何か?」


「これに?

 いや、何にも。


 好きにしてくれていいと言っていたから売ってるだけだ」


 ジとソコは顔を見合わせた。

 似ている物にしては似すぎている。


 鍵なんじゃないかと確信めいたものを感じる。


「これいくら?」


「あ?

 買うのか?


 タダでもらったもんだ。

 そんな金取る気はねえよ」


 店主の男としては拾ったものと同じなので売れるだけで御の字。

 適当な金額でジはその鍵を買い取った。


「今度モーメッマのところに持っていかないとな……」


 こんなところで見つかるなんてと思った。

 運命なんて今や信じちゃいないけど何かそうした巡り合わせのようなものを感じずにはいられなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る