君の隣は誰のもの
色々とあったけれど予約の交渉も上手く進んだ。
こちらに関してはイスコが頑張ってくれて滞りなく条件のすり合わせができた。
要らんと言ったのに今回の迷惑料、フィオス商会がなくなったら困るからなど言われて多めの手付金を無理矢理渡されたこと以外は全く問題がなかった。
そして宿に送ってもらったのだけどかなり良い宿だった。
「ここ、俺の部屋じゃ?」
「うん、そうだよ!」
「そだよー!」
「そだねー!」
王様のお客だからだろうかやたらと丁寧な宿の人に案内されて部屋に行くとミュコとタとケがベッドの上にいた。
2人用の部屋を1人で使うと聞いていたのだけど我がものである。
「ずーっと待ってたんだけどね。
全然来ないし暇だったから」
3人並んでベッドに横になって足をプラつかせている。
「まあ悪かったな」
待たせたと言われてもしょうがないが多少色々と話したりもしたので遅くはなった。
待っていてくれたというのは嬉しいことであるので軽く謝っておく。
2つ並んでいるベッドのミュコたちがいない方に腰かける。
ミュコが体を起こすとちょうど向かい合う形になる。
「でもさ……こんなところで会えるなんて嬉しいね!」
頬を赤らめて照れたように笑うミュコ。
次に会うのは決まっていた仕事を終えてまたジのところに行った時だと思っていた。
不意に会ったので心の準備は出来ていなかったけれどまたジに会えて嬉しかった。
なんの約束もしていないのに遠く離れた土地で出会う。
こうした出会いがあるならば2人の間には見えない縁がある。
歌劇などやっていて物語もよく聞くミュコにとってはちょっと憧れるようなシチュエーションである。
実際こうして出会えたのだし運命ってものを感じずにはいられない。
「……そうだな」
ジとしても意図しない再会ではあったがこうしてまた会えるのはもちろん嬉しいことである。
遠く離れたところでやっていたから元気かどうか心配だった。
目の前で元気な姿を見られて安心した。
「ねえ」
「なんだ?」
「ジはさ、あの……これから暇?」
「これから?」
「うん。
私たちの仕事はあれで終わりだし……これから暇だし……建国祭のお祭りはまだ続くし?」
建国祭のお祭りは数日続く。
今街中では出店が出ていたり普通のお店でも建国祭用の特別な商品が出ていたりする。
王城での出し物ほどじゃないけれど演劇や大道芸なども行われているところもある。
暇だから一緒にお祭りに行きたい。
そこまで素直に言うのは恥ずかしくて出来ないけれどそうした意図はもちろんジに通じた。
「こっちも暇だからタとケを連れてお祭りを巡ろうと思っていたんだ。
ミュコも行くか?」
「ん、うん!」
ほんの一瞬、わずかな時間だけ2人きりという言葉が頭をかすめたが流石にそれはわがままというもの。
一緒に行けるだけ良いとミュコは笑顔でうなずく。
それにタとケを置いてもいけない。
「でも……疲れたからゆっくり休んで明日な」
まだギリギリお祭りのお店もやっていそうだったけれど1日王城にいて疲れている。
精神的にも、肉体的にもだ。
まだお祭りは続くのだから焦ることもない。
ジはポスンとベッドに倒れ込む。
いい宿なのでベッドもいい。
アラクネノネドコには及ばないけどそれでもふかふかとしていて気持ちが良い。
「あっ!」
タとケが視線を合わせて素早く動いた。
サッとジの両隣を占領されてミュコがやられたという顔をする。
「フィオスは〜?」
「出してあげよ〜!」
「ああ、そうだな」
流石に人様のお城でフィオスを出しっぱなしには出来ない。
クオンシアラなら普通に許可してくれそうな気もするけど聞くタイミングもなかった。
ジがフィオスを呼んであげるとフィオスは嬉しそうにジの胸の上で跳ねている。
タとケが手を伸ばして撫でるとプルプルと震えて喜びを表現する。
「何してるんだ?」
しばらく唇を尖らせて黙っていたミュコが突然ベッドを動かし出した。
「一緒に、寝ようかなって、思って」
力を入れて少しずつベッドを動かす。
どうやら2つのベッドをくっつけて1つにしようというらしい。
ハッとした顔をしてタとケもミュコを手伝い出す。
1つのベッドじゃ厳しいかもしれないけど2つのベッドを繋げれば一緒に寝られるかもしれないと思った。
「……しょうがない」
疲れているけどジも手伝う。
ベッド勝手に移動させていいのかとか思うけどもう動かし始めているのだから戻すのも面倒だ。
ピタリと2つのベッドをくっつけて1つの大きなベッドにする。
しかし大きな問題がある。
ジの隣2つしかない問題である。
どれだけ頑張ろうともジの隣は左右にしかない。
ミュコとタとケでは1人余ってしまう。
「ミュコちゃん」
「いいよ」
ここで大人な態度を見せたのはタとケだった。
ミュコにジの隣を譲る。
「いいの?」
「うん」
「いいよ!」
ミュコは驚いた顔をする。
この問題どう解決したものかと考えていたから。
「ジ兄」
「なんだ?」
「これやって」
「コイン?」
タが懐から一枚の硬貨を取り出してジに渡した。
「こういう時はコイントスで決めなさいっておばあちゃんが言ってた!」
おばあちゃんとは別の貧民街から引き抜いてきたタとケの母親の知り合いであった老婆のファフナのことである。
世の中必ずしも双子が両方恩恵を受けられる場面ばかりではない。
だからどちらか1人だけしか無理で話し合いで決められそうにないなら平等にコイントスで決めるようにとファフナは言っていた。
でもまだタとケは上手くコインを上げられないのでジに渡したのである。
「分かった。
じゃあ行くぞ」
「うー……表!」
「じゃあ裏!」
タが表、ケが裏を予想する。
ジがコインを上げる。
「ゴクリ……」
「どっちかな……」
上手く上げたコインを手の甲の上でキャッチする。
「結果は……」
パッとジが手をどける。
そこにあったコインの上面は表であった。
「やった〜!」
「うぅー!」
ということですタがジの隣で寝ることになった。
「じゃあフィオスもらう!」
隣で寝られない代わりにケはフィオスを要求した。
ちょっと不満そうな顔をしてギューッとフィオスを抱きしめる。
こうした譲歩が出来るようになったのも大人になったなとジは思う。
ただ一緒に寝ることに関してはジの意思は一切問われていない。
「まあいいか、寝よう……」
ジがベッドに寝転がるとみんなもワッとジの側に集まってくる。
「そんなに見られると恥ずかしいぞ」
仰向けに寝ているジに対してミュコとタはジの方を向くように寝転がっている。
「ずるいねー、フィオス」
ケは仰向けになってフィオスを胸の上に抱いている。
「ん……えへへ」
ミュコにも場所を譲って良い子だった。
ジはこっそりと手を伸ばしてケの頭を撫でてやる。
そうしてウトウトとしているといつのまにかみんなして眠ってしまったのであった。
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