退かぬ時もある4

 そうは言いながらテレンシア歌劇団の活動の幅をジが制限するつもりなどなかった。

 危険なところに行くならともかく真っ当に依頼してきたというのなら断れなんて言わない。


「依頼料はちょっと高くなるかもしれませんよ?」


 南の国中心で活躍する時に比べて移動などの手間があるので割高になってしまうのはしょうがない。


「それぐらい仕方ないさ」


 クオンシアラもテレンシア歌劇団の試乗は察する。

 それにどこかに所属するということはそうしたお金も納める必要があるのでそこでも割高になることは避けられない。


「是非ともこの食事の後話がしたいものだ」


 クオンシアラはジの目を見つめた。

 なんの話がしたいのかジもすぐに気がついた。


「ええ分かりました」


 ーーーーー


 ジとイスコ以外のみんなは宿に行くことにした。

 クオンシアラの方で高級宿を押さえていてくれてそちらの方に移動することになった。


 キャッキャしながらミュコと双子は一緒の部屋に泊まる話までしていた。

 楽しそうでなによりである。


 一方でジは宿に向かわず別室に集められていた。

 付き添いにイスコ、そして護衛のニノサンを連れている。


 クオンシアラの側もクオンシアラに加えてブラーダ、財務を担当するお役人が2人。


「さて……こんな時間までお付き合いいただいて感謝する」


「こちらこそ色々とご配慮いただきありがとうございます」


 思えば今日は楽しませてもらった。

 送迎から食事、絡まれた時の対処や宿まで丸一日お世話になった。


 多少テレンシア歌劇団とのことはあったけれどそれもめくじら立てるものじゃない。

 ありがたいという気持ちの方が大きい。


「こちらがお呼びした客人なんだ。

 もてなすのは当然であろう」


 朗らかに笑うクオンシアラ。

 この1日でクオンシアラの人となりを全て見たとは言えないがここまで見たところでは王としての威厳がありながら気さくな雰囲気もある。


 事前に調べた感じでも良い王様としての評判は高かった。

 王様の交代となるとどこかしらに悪い噂や不満が出たり機に乗じて王様の権力を削ごうとしたりする人も出てくるものだ。


 けれどクオンシアラの時にはそうしたものはほとんどなかった。

 これはクオンシアラが国民からの好感が高いことを示しているし、同時にそうした周りにもしっかりと対処出来ている能力の高さも表していた。


「それでは本題に入ろうか」


 ジを呼んだ大きな理由の一つ。

 フィオス商会の揺れない馬車にクオンシアラが興味を持った。


「現在新規の顧客を受け付けていないようであるが……」


「はい。

 こちらの国では少し前にモンスターパニックがありました。


 そのために国全体で物資が不足しています

 なので今は馬車を作るための木材も手に入らなくて馬車を作ることそのものを停止しています」


「そうか……」


「ですがせっかくこのようなところまでお呼びいただいたのです。

 ご新規でのご予約についてはお受けいたします」


「予約……のみか?」


「そうです」


 細かい金銭の話となればイスコに任せるがここはまずジが前に出る。

 交渉についてマズイところがあればイスコが止めてくれる。


「ならばこういうのはどうだ?

 こちらで材料は用意しよう。


 それにお金も多めに払う。

 なので馬車を作ってはくれないだろうか?」


 材料となる木材が足りないのなら自分で用意する。

 無理を言うので料金も上乗せする。


 イスコは特に問題も文句もない条件だと思いながらジのことを横目で見た。


「それでもお引き受けできません」


「なに?」


 クオンシアラが眉をひそめた。

 かなりの好条件。


 断られるなど夢にも思っていなかった。


「理由を聞かせてもらっていいか?」


「……全てのお客様は平等です。

 確かに融通をきかせたり、事情によっては順序が入れ替わることもあるかもしれません。


 ですが自分で材料を用意し、お金を積んだからとお待ちいただいている他のお客様を飛ばしてはいけません」


 まだ馬車を待っている人は多くいる。

 それは貴族だけじゃない。


 むしろ大きな貴族は一通り終わって規模の小さい貴族やあるいは貴族以外の人が多い。

 中には以前会った騎士のように老齢の親のためと注文くださった人もいるのだ。


 そんな人たちを置いて先にと馬車を作るのはジには出来なかった。

 利益を考えればその方がいいのかもしれない。


 けれどジが大切にしたいのはそうした目の前のお金ばかりではない。


「それに俺たちの国には今厳しい寒さが襲いかかってきています。

 みんな寒さに耐え、震えながら毎日を過ごしています。


 馬車を作るために送られた木材……その木材の一本でもあれば寒さを過ごせる人がいるかもしれない。

 そんな中で馬車を作って売る……俺にはそんなことできないんです」


 馬車一台分の木材があろうとなかろうとそんなに大きな違いなど出ないのかもしれない。

 その木材を燃料の分に回しても凍える人に届くことはないだろう。


 だけどそうだとしても今は木材を馬車に変え、お金に換えていくことは許せない。


「俺のわがまま、俺の信条です。

 俺に国は救えない。


 全ての人に手は差し伸べられない。

 でも俺の近くにいる人は助けたいしそんな人たちを俺は裏切れない」


 ニノサンは真っ直ぐに前を向きジのことを見てはいなかったがジの言葉を聞いて胸が熱くなるのを感じていた。

 

ーーーーー

後書き

この度私の作品『スライムは最強たる可能性を秘めている~2回目の人生、ちゃんとスライムと向き合います~』が小説家になろうで開催されていたネット小説大賞で受賞、TOブックス様より金賞頂くことになりました!


これによりこの小説の書籍化、及びコミカライズが決まり、企画進行中ということになりました!


いつも応援くださりありがとうございます!

皆様のおかげでここまで書き続けることができ、コンテストでの受賞、書籍化となりました。


出版そのものはまだ先のスケジュールとなりますが加筆修正、書き下ろしでSSなど書いております。

この小説が本という形で世に出ることになったら是非とも買って応援していただけるとありがたいです。


細かなスケジュールなどわかりましたらまたお知らせしたいと思います。


改めていつもありがとうございます!

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