有償無償、色々親切5
「フィオス、ちょっと退いて。
よいしょ……」
他のも試してもらおうとユディットと協力して別のアラクネノネドコに替える。
「えっ」
「えいっ」
アラクネノネドコの上にいたフィオスに少し移動してもらい、ポンポンと隅の方までアラクネノネドコを整えて立ちあがろうとしたジの手を取ってリンデランが寝転がった。
いきなりのことで抵抗もできずに引っ張られてリンデランに覆いかぶさるような形になる。
「これなら押し倒されても痛くないかもしれませんね」
「……押し倒したりなんかしないよ」
思わぬリンデランの積極性にユディットは目を丸くした。
リンデランの瞳は真っ直ぐにジの目を見つめている。
見つめていると吸い込まれそうになるような気分になる。
「これぐらいの硬さなら2人で寝ても沈み込みすぎなくていいかもしれません」
「ま、まあ……そうだな」
顔が近い。
赤くなるジを見てリンデランが目を細めてクスリと笑う。
「むっ!」
「うおっ!」
唇を尖らせたエがジの服を掴んでベッドに転がるように横になった。
またしてもいきなりのことで何もできずにジもひっくり返る。
ベッドに横になっているリンデランとエの間に挟まれてゴロンと寝転がることになった。
「なんだよ?」
「ジがリンデランにデレデレしてるから」
「デ……ん、そりゃ……」
してないといえば嘘になる。
やはりリンデランの顔はジが知っている中でもトップクラスに整っている。
リンデランの祖父母であるパージヴェルやリンディアの顔も良い。
ヘギウス家に飾られたリンデランの両親の肖像画を見たこともあるのだけどリンデランの両親の顔も絵を見る限りでは美形であった。
代々美形な顔立ちをしている。
リンデランはさらに両親のいいところをもらったのだろう。
それが近くにあって優しく微笑んでいたら多少デレてしまうこともある。
「リンデランは、顔良いから……分からなくないけど……」
それでもさっき可愛いといってもらったのに早速他の女の子にデレデレしていては気分も良くない。
女心は難しい物であるとユディットは遠い目をした。
いかに出来る男といえどこの状況をうまく乗り切る一手を持っていない。
2人の女の子に板挟みにされてジは困惑する。
見る人が見たら羨ましかろうが本人としてはどうしたら良いのかも分からない。
「わ、とっ!」
「ぐえっ!」
再び不穏な空気と思った瞬間ウルシュナがジの上に飛び込んできた。
「いったーい……」
顔面をジの胸に打ち付けたウルシュナがキッと睨みつけるように振り返るとサーシャはサッと視線を逸らした。
「ウルシュナ?
大丈夫か?」
胸が痛むけど先にウルシュナの方を気にかける。
「あ、うん。
ごめん……」
「いいって」
ウルシュナがこんなふうに飛び込んでくるとは思えない。
だとしたら犯人は1人しかいない。
「その……意外とがっしりしてるんだな」
けれどウルシュナも顔を赤くしたままジの上から退けようとしない。
最初の印象では痩せた小さな少年だった。
なぜ知り合えたのか不思議なぐらい住んでいる世界が違うのにこうして不思議なぐらいに会う機会もある。
そんな細い少年に負けたことが悔しかった時期もあるけれど今はそんな風にバカにできはしない。
ジの普段の努力が見えるようで思わず感心してしまった。
「ちょ……グゥッ!」
なに親の前で娘とイチャつこうとしているのだ。
笑顔の凍りついたルシウスか声をかけようとして小さな悲鳴をあげた。
サーシャがルシウスの足を思い切り踏み抜いたのである。
「ちょっと!
いつまで乗っかってんの?
重たいでしょ!」
「な!
重くないもん!」
「そうですよウーちゃん、ジ君が重そうです」
「ジ!
どうなの!」
「ええっ?」
なんかどっちで答えても角が立ちそうな質問。
重くないわけではない。
ただ女の子らしい重さというか、重いけどそんなに苦にならない重さというか。
「……フィオス?
わっぷ!」
どう答えたものかと悩んでいるとフィオスがピョンとジの顔に乗っかった。
なにをするだと思っているとジとウルシュナの間に体をねじ込もうとする。
「なにをしているんですかね?」
「……ははっ、すまないウルシュナ。
俺の上はフィオスの席だってさ」
「ちょちょ、くすぐったいよ!」
キックコッコの時もそうだったけど最近フィオスも行動で感情を表すことが少し増えてきた。
グリグリと隙間に入り込んできてウルシュナがくすぐったさに身をよじる。
「うわっ!」
「ぎゃっ!」
不安定なジの上で体を動かしたものだからずるりと滑ってしまった。
エの上にウルシュナが落ちる。
お腹に頭突きする形になってエが悶絶する。
「やっぱり重いじゃない!」
「うう〜ごめん!」
ウルシュナが落ちたあとフィオスがジのお腹の上で丸くなる。
「……良い雰囲気だったと思うんだけどね」
「あまり小うるさく口を出したくはない……せめて私の前でやるのはやめてくれないか?」
娘を持つ男親が娘に近づく男に対して厳しい態度をとる様を見てきた。
だからもし娘ができたなら自分は寛容にいようとルシウスは思っていた。
けれど実際娘ができるとそうした親たちの気持ちがよく分かる。
どうしても思いが態度に出てしまう。
そうならないように見えないところでウルシュナを駆り立てるのはギリギリ許容するとして目の前でくっ付けようとするのはやめてほしいとルシウスは深くため息をついた。
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