またまたダンジョン5

 けれど素早くユディットとリアーネがボルヴィーに切りかかる。

 ボルヴィーの口の向きからすると後ろからの襲撃になるが複数ある目玉はちゃんと2人の姿も捉えている。


 ジに向かわせようとしていたツタを引き上げて2人にも向かわせる。


「こっちにもいますよ!」


 だが敵はジたち3人だけじゃない。

 リアーネとユディットがツタを切り裂いて生まれた隙にリンデランが魔法を放った。


 氷の槍が降り注いでボルヴィーに突き刺さる。


「私も!」


 ダメージは少ないが大きくボルヴィーが怯んだ。

 続いてエが大きな火の玉をボルヴィーに向かって打ち出す。


 グロテスクな見た目はしているが植物系統なことは間違いないので当たれば大ダメージになるだろう。

 図体もデカいしかわすことなどできないと思った瞬間ボルヴィーがツタを動かした。


「なっ!」

 

 グルグルとツタの先を丸めて火の玉を殴って消し飛ばした。

 殴り飛ばしたツタはチリチリと焼け焦げるがそれぐらいボルヴィーにとってはなんでこともない。


 やはりボルヴィーも植物なので火は危険。

 ジたちも厄介だけど火を放ったエがボルヴィーは最も危険だと判断した。


 一気にボルヴィーの目が向けられてエの背中に悪寒が走った。


「エ、逃げろ!」


 分かりやすく目が向いたのでジも狙いがエであることを見抜いた。

 一瞬早くボルヴィーより走り出してエのところに向かう。


 ボルヴィーもエに迫る。

 動きは緩慢に見えるのに大きなせいか意外と速度が速い。


 動きながらもツタでリアーネとユディットを牽制して邪魔されないようにしている。

 ジの方が早くエのところに辿り着いてボルヴィーに立ちはだかる。


 フィオスを盾にして何があってもいいように備える。

 間に割り込んできてエを守ろうと立ちはだかるジに向かってボルヴィーが粘液が糸を引く大きな口を開けた。


 噛みつき攻撃かとジがフィオスを構えた。


「えっ……」


 しかしボルヴィーはジに噛みつかなかった。

 空気が茶色く濁って見えるような汚い息をジに向かって吐き出した。


 当然フィオスの盾でそんなもの防げるわけがなく、ジは一瞬茶色い息に包まれた。


「う!

 くっ……さ!」


 酸っぱくて目が痛くなる刺激臭がする。

 予想外の攻撃に息を止めるのが間に合わなくて少し吸い込んでしまった。


 追撃があるかもしれないのでフィオス盾を構えたままジは後ろに下がる。


「ゲホッ……ゲホッ!」


 目が痛く、あまりのニオイにジはむせかえる。


「ジ!」


 咳き込んでいるジにボルヴィーが襲いかかる。

 ツタを振り上げてジを潰さんとしている。


「クッ……あ?」


 避けるか、切るか。

 剣を持ち上げようとして手に力が入らなくなってスルリと剣が落ちた。


 それどころか体に力が入らない。

 逃げようとしたけど足にも力が入らなくてもつれて転ぶ。


「ジ、大丈夫か!」


 振り下ろされるツタ。

 間一髪リアーネが間に合ってツタを切り裂いてジを救った。


「あ……う……」


 声まで出せない。

 段々と頭の芯まで痺れてくるような感覚にジは恐怖を覚えた。


「毒か!」


 植物系の魔物は毒を持っていることがよくある。

 その警戒はしていたはずだったけれどまさか息のような形で散布してくるなんて思いもしなかった。


「ジから離れろ!」


 エが大きく火を放ち、ボルヴィーは慌てて回避する。


「ジ君!」


 リンデランが氷で壁を作ってジを保護する。


「任せて!」


 危険だと判断したウルシュナがジの代わりに前に出る。


「よくも!」


 エの魔法をかわして出来た大きな隙にユディットが剣を叩き込む。

 後ろを大きく切り裂かれてボルヴィーが奇妙な叫び声を上げる。


「このぉ!」


 叫んで大きく開いた口にウルシュナが刺突を繰り出す。

 魔力の突撃がボルヴィーの後ろまで貫通する。


「ジ君を……許せません!」


 ボルヴィーの真上からまるで手のような冷気が下りてくる。

 ツタで冷気を払おうとしたボルヴィーだったがそれは間違いだ。


 ツタが冷気に触れた瞬間凍り始める。

 瞬く間に氷は広がり、下りた冷気がボルヴィーの本体に触れてさらにボルヴィー全体が凍っていく。


 短い時間の間にボルヴィーが凍りついてしまった。


「トドメだー!」


 リアーネが自身の大きな剣を全力で振り下ろす。

 ボルヴィーは真っ二つに切り裂かれて、ゆっくりと地面に倒れる。


 中まで凍りついていたので床に激突して粉々に割れてボルヴィーは倒された。


「ジ!」


 その間にもエはジの治療を始めていた。

 ジの方も顔色が悪い。


 苦しそうに息が荒く、倒れたまま動かない。

 買ってきた解毒薬を飲ませて治療魔法をかける。


 どんな魔物が出てくるのか分からないので高めで複数の毒に効くいい解毒薬を買ってきたので効き目があると信じたい。

 ボルヴィーを倒してみんながジのところに集まってくる。


 各々心配した顔をしてエがジを治療しているのを見ている。

 もし強力な毒だったらどうしよう。


 解毒薬が効かず、エにも治療できないようなものならと不安がよぎる。


「多分……大丈夫」


 治療をしているエの顔も険しいけれど命に別状はなさそうだと感じていた。

 治療をしている感覚では体のダメージをあまり感じない。


 毒で体が蝕まれているなら治療をした時にそうしたダメージを治す感覚がある。

 けれど今はそんな感じがないので体を破壊するような毒じゃないと思った。

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