またまたダンジョン2

「トロール……でしょうか?」


「ぽいね」


 魔物に変化がないな、なんて言っているとようやく変化が現れた。

 次の部屋を魔物にバレないように覗き込んでみたらトロールがいた。


 部屋の真ん中で座り込み、ジたちに背を向けてぽけーっと天井を眺めている。

 植物系の魔物ばかりじゃないのかとリンデランとウルシュナが不思議そうな顔をしている。


「でも頭お花畑だな」


「畑っていうほどじゃないと思いますけど……」


「あれも植物系の魔物だな」


「トロール、がですか?」


 頭お花畑とはトロールの頭が悪いことを揶揄しているのではない。

 もちろんトロールの知能は低いので頭の中がお花畑のようなもので間違いないのだけど今回はもっと直接的な表現だ。


 頭に花が生えている。

 可愛らしいピンクのお花が3輪トロールの頭に根を張っているのだ。


 それを見て頭お花畑とウルシュナは表現した。

 なんでトロールの頭に花が生えているのか不思議だったのだけどリアーネは正体を知っているようで教えてくれた。


 あれでも立派な植物系の魔物だという。


「トロールはトロールなんだけど今はあの花が本体みたいなもんだ」


「どういうこと?」


 ジもよく分かっていない。


「あれは他の生き物に寄生するタイプの魔物なんだ。


 広くどんなものにでも寄生するして宿主の魔力や栄養を吸い取ってしまうんだ」


「じゃああの花が寄生している魔物なんですか?」


「そう。


 他の魔物ならそのまま吸い尽くされて死んでしまうのだけど素の再生力が高いトロールは死なないで寄生されたまま生き続けるんだ」


 こうしてよくトロールに寄生しているところが見られるためにトロールブロッサムなんて言われている。

 しかし花本体に戦闘力はなく、魔物に寄生する点を除けばほとんどただの花と同じようなものである。


 規制されたトロールはもはや死んでいるようなものでトロールではない。

 見た目的にはほぼトロールで花要素など一部であるが寄生しているトロールブロッサムの方が優位なので一応トロールブロッサムの一部がトロールで植物系魔物の括りになる。


「ただ厄介だから気をつけるんだぞ」


 リアーネから注意事項を聞いてジとエとユディットとリンデランで部屋に飛び出していった。

 ジたちに気がついてトロールが振り返った。


 目がトロンとして口は半開きでよだれが垂れている。

 表情としてもかなり異常な感じがあった。


「なんだか気持ち悪い!」


 ゆっくりと立ちあがろうとするトロールに向けてエが火を放った。

 トロールは手で頭の花を覆ってガードする。


 やっぱり花の方が本体みたいである。

 燃えながらもトロールは平然と立ち上がった。


 焼け焦げた皮膚が剥がれ落ちて中から新しい皮膚がまた生えてきている。

 トロールの特徴はその高い再生力にある。


 一瞬でとはいかないがトロールの再生はかなり早くて大怪我でもあっという間に治っていく。

 このトロールも高い再生力はそのままで燃えてダメージは受けるけれどそのダメージをその場で再生しつつある。


「はっ!」


 ユディットがトロールを切りつける。

 頭を手で覆っているので自然とガードしているような体勢になるトロールの腕にユディットの剣がスッと入る。


「えっ……」


「早く抜け!」


 ユディットの剣はトロールの腕を切断できずに途中で止まってしまった。

 リアーネの声に反応してユディットが後ろに下がるようにして剣を抜く。


 もう少し呆然としていたら再生したトロールの腕に剣が取り込まれてしまっていたことだろう。

 今度はジがトロールを切り付けた。


 ユディットを見ているので少し浅めにトロールの脇腹を切り裂いた。


「ジ!」


「平気だ!」


 ようやく火の消えたトロールはジに向かって拳を振り下ろす。

 風を切る轟音と共にジの目の前を拳が通過する。


 床がボコリとヘコむ一撃は食らえば危険そうだ。

 これがトロールブロッサムの嫌なところ。


 パワーにリミットがなくなる。

 トロールの手は自分の攻撃の威力に耐えられなくて潰れているがトロールブロッサムはそんなことお構いない。


 通常トロールが制御しているパワーもトロールブロッサムによって引き出されてしまうのだ。

 だけどトロールは怯むことなく手を振り回してジに襲いかかる。


 これもまたトロールブロッサムの効果である。

 痛みを感じていないのだ。


 すでにほとんど死んでいるのと変わりがないトロールは痛みを感じなくなってしまっている。

 そのためにジの攻撃にすぐさま反撃し、拳が潰れても構わず、腕がちぎれそうなほど無理に振り回しても平気なのである。


 異常なパワーと痛みを感じない点がリアーネから教えてもらったトロールブロッサムの注意点である。


「ジ君を襲わないでください!」


 容赦のない一撃がリンデランから繰り出される。

 リンデランの魔力によって生み出された何本もの鋭い氷の槍がトロールの背中を貫いた。


「本当になんも感じないのか」


 しかしトロールは止まらずジに向かって拳を振り回し続ける。

 そうしている間にも自らのパワーで潰れた拳が再生してきている。


 知能が完全にゼロなせいか攻撃は単調でかなり大振りなためにかわすのは難しくないけどトロールはスタミナも無限にありそうだ。

 長々と付き合うつもりはないけれどただ逃げ回るだけではジだけが消耗してしまう。

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