トリ頭とは言わせない4

 爪が通じなくて怯んだウェアウルフは見事にパムパムの反撃を食らったのであった。

 ただあんな方法を取るとはジも予想外だった。


 ジの想定ではパムパムが反撃をして、その隙に横から回り込んでウェアウルフを倒すつもりだった。

 蹴り上げながらジの上を飛び越えるだなんて思いもしなかった。


 おかげでさらりと相手を倒すことができたけれどやっぱりパムパムはかなり特殊な個体だ。

 ただのキックコッコではこうも理解して動けない。


 ただまあメスのキックコッコに囲まれてキャーキャーもといコケコケ言われているのは若干鼻につく。

 

「こっちにも2体いたのか」


 リアーネは急いでいたのか顔についた返り血も拭っていない。


「こっちにってことは、そっちも?」


「ああ、後からもう一体出てきてな。


 急いで倒したんだけどこっちも早かったな」


「パムパムのおかげだよ」


 かなり厳しい戦いだった。

 けれど思いの外パムパムが強くて助かった。


「とりあえず顔拭きなよ」


 ジはタオルを差し出す。

 ケガはなさそうだけど魔物の血がつきっぱなしでは衛生的にもよろしくない。


「拭いてくれよ」


 ちょっとした冗談のつもりでリアーネが顔を前に出す。


「しょうがないなぁ」


「あ、いや冗談……ぬ……」


 冗談だとは分かっているけどこちらのことをからかうつもりならジもやり返す。

 本当に拭いてやる。


 リアーネの顔が赤くなるが意外と拒否もしない。

 パムパムもパムパムだけどこっちもこっちだなとユディットは思う。


「こんな風に人に顔拭いてもらうなんてガキの頃以来だよ」


「リアーネも綺麗な顔してるんだからもっといつも綺麗に顔拭きなよ」


「なっ!


 最近はちゃんと洗ってる!


 あっ、違う!

 最近じゃなくてずっとだ!」


 それではこれまで顔を洗っていなかったみたいに聞こえる。

 冒険者であったリアーネは外で寝泊まりする機会も多かった。


 だから毎日身綺麗にしていられなかったということもある。

 誰が見るわけでもないし女性らしく綺麗にしていると男に舐められる原因にもなった。


 もちろん最近はジに恥をかかさないように綺麗にはしている。


「コケッ!」


 最初にウェアウルフに鷲掴みにされていたキックコッコもフィオスのおかげで回復した。

 戦いが終わったのを見てキックコッコの中に混じってしまえばもうどのキックコッコだったのかもわからない。


 パムパムは1匹1匹無事を確認して、みんないるようで安心していた。

 野生に生きる以上はああした危険性も存在してしまうのはどうしてもしょうがないことだ。


 キックコッコたちがここにいるということはパムパムが連れて行きたかったダンジョンも近いということ。

 少し休憩を取ってその間にリアーネがウェアウルフの魔石を取ったりする。


 どうせ持ってけないのでウェアウルフの肉を食べてみることにした。


「かったいな」


「常食にするにはちょっと顎が疲れそうですね」


 火を焚いてよく焼いて食べてみる。

 味は悪くないけど筋張っていて固い。


 食べられないことはないが結構顎が疲れる感じのお肉であった。


「ま、これぐらいなら食える範囲だからな」


 冒険者をしていれば日持ちする食料の消費を抑えるために魔物を食うこともある。

 相手に毒がなきゃ大体なんでも食べられるっていうのが冒険者理論で食べにくいだけのウェアウルフならまだ上等らしい。


「余裕があるなら調理することだってある。


 この場合は食べやすいサイズに切ってから焼くとか、なんなら細かくしてからまとめて焼くなんてこともあるんだぞ」


「へぇー」


 リアーネも料理はできる方だ。

 タとケやリンデランのような料理ではなくもっとワイルドな感じのものだけどこうしたものを食べる時でも美味しく食べようと思えば自然と上達する。


「これもこうして……」


 リアーネは肉に浅くナイフを入れた後ナイフの背で全体を叩く。

 そしてそのお肉を豪快に焼く。


「ほれ」


 ウェアウルフステーキを切り分けてナイフの先に刺してジに突き出す。

 いささかワイルドな食べさせ方だけど少し気をつけてパクリと肉を食べる。


「うん!


 さっきよりだいぶ食べやすいな!」


 リンデランの家で食べさせてもらったような最高級のステーキとは比べるまでもないがただ焼いただけの肉に比べると随分と食べやすくなった。

 ちょっとした一手間でこれならやってもいいとジは思った。


「……お、お前も食うのか?」


 そんな様子をパムパムがジッと見ている。

 口の端からはヨダレが垂れている。


「この焼きすぎた肉食べ……るんだな」


 ユディットがちょっと焼きすぎて固くなってしまった肉を差し出すとパムパムはサッと肉を取って食べる。

 虫なんかを好んで食べるキックコッコであるが雑食性なので意外となんでも食べる。


 肉なんかもあれば食べる。

 まさかヨダレ垂らすほど欲しがるとは思いもしないがパムパムだからでみんな何となく納得する。


 パムパムは魔物でもあるので生でもいいのだけど焼いた方がお好みらしい。

 ウェアウルフ4体では人で到底食べ切れる量じゃないので面白半分で焼いてあげた。


「コケッ……ゲフッ」


 お腹が若干出るほど肉を食べたパムパムは満足そうにしていた。

 それなりに休憩してしまったので腹ごなしがてらダンジョン探しを再開することにした。

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